「誤解が解けぬのは残念だったが、話が通じぬ妻の弟とは疎遠にならざるを得なかった。だが、妻が亡くなった後でこの弟はまた話を蒸し返してきてな……」

 亡き妻の弟は、わざわざ王都に引っ越してきて仕事を見つけ、それからメガエリスの長男カイルに接触し始めたという。

「カイル様にですか。それはまたどうして?」
「弟のルシウスはお前の実の弟ではないぞ、と言うためだけにだ。だが、ルシウスを発見した当の本人に告げ口した気になっているのだから噴飯ものよ」
「………………」

 ルシウスが実の弟でないことは、発見者当人のカイルにとっては当たり前のことだ。
 だが、母親の弟である叔父に、一族の秘密が絡む弟ルシウスのことを説明することはできない。



「そうしたら、妻の弟は次に悪辣なことをやり始めた。カイルとルシウスの間に不和の種を蒔き始めたのだ」

 さすがに度が過ぎている。
 事態が発覚してすぐにメガエリスは亡き妻の弟にリースト伯爵家と、本家の者への接近禁止命令を出した。
 妻の実家に一度は戻ったようだが、現在は行方不明となっている。

「その、不和の種というのはどんなことなのですか?」
「……息子たちは、どちらも魔法剣士として天才なのだ。だがルシウスのほうは次元が違う。何せ扱う魔法剣が聖剣だからな」
「せ、聖剣」

 伝説級の武器だ。持ち主は現在、世界中を探しても数人いるかどうかと言われている。

「カイルとて、何十本もの魔法剣を創り出せる傑物よ。だが、ルシウスはたった一本の聖剣で兄の実力を軽々超えていった」
「あらー……。男兄弟でそれはキツいでしょうね」
「妻の弟はカイルに、弟に劣る兄であってはならないと、ことあるごとに諭しては劣等感を刺激していたようだ。そうしたら仲の良かった兄弟はあっという間にギクシャクし始めた。まあ、カイルだけだがな」

 元々繊細な気質だった兄カイルは、悪意のある叔父の策略によって、すっかり捻くれた性格になってしまったという。

「ルシウス君はどうだったのです?」
「あの子はそんな小難しいことを考えるたちではない。昔から今に至るまでずーっと、『兄さん好き好き』と可愛らしく慕っておるわ」
「あらー」

 なるほど、温度差のある兄弟なのだなとお嫁さんブリジットは理解した。

「鳥の雛が最初に見たものを親と思い込むようなものだったのだろうか……。ならば私が最初に目覚めたルシウスの前にいたら、『父様好き好き』な息子になっていたのだろうか……」

 何やら難しい顔をしてメガエリスが悲しい顔をしている。
 兄カイルは親離れが早かったし、弟ルシウスは物心つく前から兄にべったり。
 子煩悩な父は少し寂しかった。