ギルドから借りたカンテラを持って、金髪の可憐な女魔法使いハスミンは夕食後、腹ごなしに海岸を歩いていた。
魔女らしい先折れ帽子もローブも真っ黒なので、カンテラに照らされた白い顔と純金色の髪だけが浮き上がって見える。
海岸には少し高台に冒険者ギルドの三階建ての建物が。
やや離れた位置には、灯台がある。
灯台にはゼクセリア共和国の兵士が常駐しているそうだが、数日ごとの交代制で、彼らが特に冒険者ギルドに立ち寄ることもない。
互いの間に交流などもないそうだ。
「うーん。昼間のルシウス君の聖剣を見たとき、まさかと思ったけど」
ルシウスが大量の吸血オクトパスを殲滅させた聖剣から放たれたのは、聖なる魔力だ。
ネオンブルーの魔力の余波は、半日以上経った夜になっても、海岸付近をほんのり発光させて残っていた。
まるで空の星々が海と地上に降りてきたかのような美しい光景に、ハスミンはうっとり溜め息を漏らした。
「何という強大な魔力。しかもまだ十四歳ですって? 将来が恐ろしいわ」
あの、まだ幼さの残る小柄な聖剣の魔法剣士は、吸血オクトパスを完全に殲滅するのみならず、海の魔物が大量発生する海岸の浄化までしてのけた。
海の魔物たちは対岸のカーナ王国側からやってくるから、またしばらくすればこちら側の海岸まで押し寄せてくるだろう。
「でも、もう何日かは来ない……来れないでしょうねえ、魔物は」
ハスミンは他に何人か聖なる魔力持ちを知っていたが、ルシウスほど高火力の魔力使いは見たことがなかった。
「欲しいわ、あの子。今のうちに唾つけて他に持っていかれないようにしないと」
ハスミンの水色の瞳が輝く。
行方不明の友人の捜索のためココ村支部を拠点に冒険者活動していたハスミンだが、成果を得られずそろそろ故郷に戻ろうかと考えていた。
だが、考えが変わった。
あの聖剣の持ち主の子供の側にいよう。
「そうと決まれば、町の宿屋から荷物引き上げてこーようっと。あたしもココ村支部で寝泊まり決定ね」
ルシウス少年は宿直室を借りているようだが、ギルドの建物裏手には職員寮用の建物があるのだ。
ギルドマスターのカラドン、サブギルドマスターのシルヴィス、そして受付嬢のクレアはそこに部屋を持っている。
ココ村支部は僻地で職員の数も少ないから、部屋は空いているはず。
ギルド側も、魔法使いのハスミンが常駐するとなれば利用を断りはしないだろう。