「オヤジさーん。お昼に食べたあのおにぎり美味しかった。お夕飯にも食べられる?」

 お砂遊びから戻ってきて、シャワーで砂と日焼け止めを念入りに落としてから食堂に入ったルシウスだ。

「炊き込みご飯かい」
「そう!」
「同じものじゃ芸がないねえ。少し違う料理にしてあげるよ。卵は好きかい?」
「大好き!」

 生も半熟もしっかり固めもバッチリだ。

 それでワクワクしながら待っていると、出てきたのはオムライスだった。
 黄色いやや半熟の玉子焼きに、特にソースなどはかかっていない。

「いただきます。……あ、中身が炊き込みご飯!」

 昼間、おにぎりの中に入っていた黒い糸くず、もといヒジキの煮物の入った炊き込みご飯だ。
 卵は特にオムレツのように胡椒やハーブが入っている様子はない。鮮やかな黄色のみ。

 ここココ村支部に来てからというもの、食堂で食べる料理はアケロニア王国出身のルシウスには珍しいものが多い。

「む!」

 やや半熟の玉子焼きとヒジキの炊き込みご飯とのコントラストに、ルシウスは湖面の水色の目を見開いた。

「オムレツのとこが美味しい!」

 とても風味の良い料理だった。
 魚や海藻から取った濃いめのスープで、玉子焼きが味付けされている。
 なるほど、玉子焼きにしっかり味が付いているからソースなどがかかっていないのだ。
 バターでふんわり焼き上げられていて、意外とそれが炊き込みご飯と合う。ものすごく合う!



「大人たちはだし巻き玉子だけど、ルシウス君はこっちのがいいだろ」

 夕食どき、ギルドマスターを始めとする職員たちも仕事を終え、食堂で一杯引っ掛けている。
 彼らのテーブルの上には棒状の玉子焼きがカットされたものに、大根おろしが添えられたものが。
 酒は本日はライスワインのようだ。飲む気満々じゃないか。

「飯はシメがいいよなー」
「お酒飲む人はそう言う人多いよね。僕の父様や知り合いの大人の人たちもそうだよ」

 ちなみにルシウスの父メガエリスは酒が入ると笑い上戸だし、先王様のヴァシレウスなどキス魔になる。
 被害者多数だが、ルシウスはまだ唇は誰にも許していない。ファーストキッスは死守している。
 たとえ相手が偉大な先王様でもダメ絶対。

 絡み酒の人たちなので、お酒のあるお食事会ではいつも、お兄ちゃんと一緒に早々に避難していたルシウスだ。
 そういうときは、別室でふたりっきりでデザートを食べることができる。
 そういう特別感のある時間がルシウスは大好きだった。



「あっ、ルシウス君、いたいた! お国からお手紙届いてますよー、はい!」

 遅れて食堂にやってきた受付嬢兼事務員のクレアが、手紙を渡しに来てくれた。
 彼女も今日は仕事は上がりのようで、ルシウスの食べているオムライスに目を輝かせて、同じものをオヤジさんに注文していた。

「席、ご一緒してもいいかな?」
「どうぞー」

 受け取った手紙の差出人は、アケロニア王国のグレイシア王女様だった。
 いったん食事の手を止めて、スパッと即興で創った魔法樹脂のペーパーナイフで封を開けた。

『そろそろお前の兄と交代しても良いぞ?』

 手紙には、既にルシウスのお兄ちゃんカイルが新婚旅行から戻り、魔道騎士団の通常任務に戻っていることが書かれている。

「兄さんはキモカワ萌え属性はないんだ、脚の生えたお魚さんなんか間近で見たら倒れちゃうよ! ここは僕が頑張るしかない! 兄さんのために!」

 王女様はわかっていて手紙を書いている。

「兄さん、僕が送ったお魚さんモンスターたちにドン引きしたって、父様やお嫁様がお手紙くださったもの。こんな僻地に来させてお嫁様と離れ離れにするのもかわいそう」

「僻地で悪かったなー!」
「でも新婚男が来ちゃいけないところなのは同意ー!」
「えっ、でもルシウス君のお兄さんなら超イケメンでしょ、いい男が来るならあたしは大歓迎よ?」
「……いい男……」

 受付嬢クレアと女魔法使いのハスミンが、またオムライス攻略に戻ったルシウスをじっと見る。
 本人、きゃるん♪ とした麗しく可愛らしい青銀の髪と湖面の水色の大きな瞳の美少年だ。
 よく大好きだと語っているお兄ちゃんとはそっくりらしい。この顔が大人になったら?

「間違いないわね」
「間違いないやつです。最高のイケメンですね。でももう奥さんいるんですよねえ……残念」

 こんな僻地ギルドじゃまともな出会いなどほんどない。