吸血オクトパスを討伐した後は、新たな魔物も来なかったので、思い思いに夕食までの時間を過ごしていた。

 ここ、冒険者ギルドのココ村支部は、対応する魔物や魔獣は海からやってくるシーフードモンスターのみ。
 ダンジョンがあるわけでもないので、他の地域にある冒険者ギルドのように、街中にない。
 そのため冒険者活動に必要な武器防具、道具やポーションなどの薬品類、携帯用の保存食その他は建物内の売店で賄えるようになっている。
 利用者の数が少ないわりに、売店の品揃えは充実していた。
 本来なら商人が常駐するのだが、ココ村支部では受付嬢のクレアや、彼女の手が離せない場合はギルマスのカラドンやサブギルマスのシルヴィスに声をかければ購入可能である。
 他のギルドなら絶対にありえない光景だ。
 僻地の人手不足ギルドゆえの悲哀というべきか。



「ルシウス君。昼間外に出て戦うなら、帽子かフード付きの服を着たほうがいいわ。そろそろ夏になるし、強い日差しで熱中症になっちゃう」

 一緒に売店を覗いていた、金髪水色目の女魔法使いのハスミンが注意してきた。

 まだ6月下旬だが、日中は真夏日のように暑くなる日も増えてきた。

 そういうハスミンは魔女らしい先の折れた黒い帽子を被っている。防具のひとつでもある。

「動いてるうちに外れちゃうから要らない」
「顎で結べるよう、紐を付けてあげようか?」
「それやだー!」

 汗をかくと顎がムズムズしちゃうやつだ。

「僕、髪の毛の色薄いから日差しの影響そんなに受けないよ」

 青銀の艶のある髪は日光を反射する。

「でもねえ。戦闘が長時間に渡ると日焼けしちゃうじゃない?」

 ルシウスは肌が白いから、日焼けするとダメージも大きそうだ。
 昼頃にも吸血オクトパスを倒しに外に出ていたから、頬もちょっと赤くなっている。

「ハスミンさん。なら日焼け止め塗りましょう。べったり、くまなく」
「それね!」

 お高めのウォータープルーフタイプ、汗でも海水でもしっかり紫外線カットして日焼けを防止する化粧品ボトルを握り締め、受付嬢クレアがルシウスに忍び寄る。

「そ、それ、ぬっとりしたやつでしょ、皮膚呼吸できなくなるぐらいオイリーなやつ!」
「帽子もフードも嫌なら仕方ないんです。出撃する前には必ず塗りますからねー」
「やー!!!」
「あらいやだ、そんな可愛らしく嫌がっても無駄よー。ホホホホホ!」

 というわけで服を剥かれ、下着いっちょで全身に日焼け止めを塗りたくられるルシウスだった。



「ひどい。こんな辱め、故郷でも受けたことないのに」

 しくしくと泣きながら、まだ陽のある砂浜でお砂遊びをするルシウスだ。
 全身べったり日焼け止めをくまなく塗り込められ、不貞腐れながらもお砂遊びの誘惑に勝てなかった。

「あー! 砂がベタベタするー!」

 べっとり全身に塗られた日焼け止めに、半ズボンや半袖のシャツから伸びる手足に砂が貼り付く。

「もうやー!」

 悲鳴を上げながら、ギルドに戻るルシウス少年なのだった。