「そんなことより! グレイシア様たち、兄さんの新婚旅行先を、」

「知らんぞ」

 堂々と王女様は開き直った。

「あ、私は知ってる」

「私も。だが教えんぞ」

 国王様と先王様はしっかり釘を刺すことにした。

「なんでー!?」

「「「子作りの邪魔するな」」」

 この子供の兄は、父親や弟と同じ麗しの美貌の青年なのだが、捻くれた性格が災いしてずっと非モテ男だった。

 学生時代も彼女を作っていた形跡がない。

 ようやく結婚すると報告に来たときは、王族の彼らも喜んだものである。

 新婚旅行の間にお嫁さんとたくさんお色気的なことを経験して、少しは丸い性格になって帰ってきてほしいのだ。

「もういいですもん、教えてくれないなら自分で兄さんたちの行き先探しますから!」
「まあ待て、ルシウス」

 執務室を出て行こうとしたところを、すかさず巨体の先王ヴァシレウス様に首根っこを掴まれた。
 ぷらーんと吊るされたまま、白髪混じりの黒髪に黒い顎髭、黒目と黒尽くしの先王様に顔を覗き込まれる。

「ルシウス。私はお前が兄を慕うことに反対はせぬ。だが、新婚旅行まで付いて行くのはやりすぎだ」

 わりとまともに真正面から諭された。

「でも行きたいんですもん」

 唇を尖らせて拗ねているルシウス少年はたいそう可愛らしかったが、ここにいる大人たちはその愛らしさに騙されると痛い目を見ることをよく知っていた。

「それより、兄の役に立つことをしてみたくはないか?」
「兄さんの?」

 ぴくり、とルシウスが良い反応を見せた。
 釣り針に掛かった証拠である。