なお、ルシウスの聖剣によって吸血オクトパスは塵と消えてしまったので、本体どころか魔石も残らなかった。
 ということは、討伐報酬もなく、換金もできない。

「ごめんなさい。一網打尽じゃなくて、一体一体倒さなきゃダメだったね」

 しょぼーんと、今日一番活躍した勇者のはずのルシウスは、食堂でおにぎりを囓りながら項垂れていた。

「いや、さすがにあんなん一体ずつ悠長に倒してたらこの支部、全滅してたわ。討伐報酬ほどは無理だけど、今回の討伐参加者には金一封出させてもらう」

 髭面ギルドマスターのお言葉に皆が沸いた。



 さてそれで。

 さすがに聖剣などというものを見せられては、いつまでもルシウスを低ランクにしておけない。

「お前な。そんな大物使えるならちゃんと申告しなさい」

 髭面ギルドマスターのカラドンは、めっとルシウスを叱った。

「最初にステータス鑑定したとき、魔法剣士だって出てたでしょー?」
「『魔法剣士(聖剣)』とまでは出てなかったんだよ!」

 ともあれ、ランクアップである。

「特例適用! DランクからBランクに昇格だ、おめでとさん!」
「Bランクになるとどうなるの?」
「より高ランクの依頼が受けられる。これは、このココ村支部にいる間はあんまり関係ねえな」

 出てくる魔物はシーフードモンスターだけ。

「討伐報酬が、ランク相応に色が付く。主なメリットはこれだな」
「そっかあ」

 ルシウスはココ村支部に来てからの報酬は、ずっとギルド側で管理してもらっている。
 手元には小遣い程度の額だけだ。
 武器は自前の魔法剣もあるし、防具もやっと揃ってきたところ。
 あと使い道といえば、故郷のおうちに討伐の成果のお魚さんモンスターを送るための送料ぐらいだ。

「ギルマス、タコさんの脚一本、魔法樹脂に封入してあるんだ。僕の実家にまた送ってくれる?」
「お、おう……でも魔物でいいのか? 普通の海産物のほうが喜ぶんじゃね?」
「デビルズサーモンもポイズンオイスターも、父様と兄さんのお嫁様が美味しかったってお手紙くれたよ!」
「そ、そうか……?」

 慕っているという兄はどうしたのだろう? とギルマスはふと疑問に思ったが、本人が気にしてないようなのですぐ頭の片隅から消え去った。

 魔物が出るのはこのココ村支部のある海岸のみ。
 他の海岸からの海域には不思議と出没しない。
 恐らく海流がこの海岸に向かっているのだろう。

 かくして、冒険者ギルド、ココ村支部は何度めかわからない支部壊滅の危機を乗り切ったのであった。