故郷からルシウス宛に、荷物がたびたび届く。
最初に届いたのは、学園に通っていたときの教科書と衣服、あとは自室にあった家族を模した人形だった。
人形は借りている宿直室の窓際へ。パパと亡くなったママ、そしてお兄ちゃんとルシウス、親指サイズの小さな人形四体が足元のバーで繋がって、両手を繋いでいる。
「兄さん……と、父様。ふふ、これがあると寂しいのはちょっとだけになるね!」
朝起きて、ここが自宅でない冒険者ギルドの宿直室だと理解すると泣きたくなるときも多いのだが、窓際の家族の人形を見て撫で撫ですると、寂しさが薄くなる。気がした。
朝食は一階の食堂で。
ルシウスは学園の教科書や筆記具を持って降りて、朝食後はそのまま食堂のテーブルで自主学習に励む。
お魚さんモンスターが来ないときは暇なギルドなので、わからないところは受付嬢クレアやサブギルドマスターのシルヴィスなどに教えてもらっていた。
なお、一番のボスであるギルドマスターは頭脳派ではないそうで、逃げる。
「あ。辞書ないや」
国語のテキストを解いているときに気づいた。
「辞書あるぞー。確か備品の棚に……」
と髭面ギルドマスターのカラドンが事務室から辞書を持ってきてくれた。
受け取ったルシウスが辞書を開くと、特に強い開き癖の付いたページが自然と開いた。
「あっ。えっちな単語に線引いた人いるね!? おっぱいーおしりー」
「うっわ、マジか!? しかも鉛筆じゃなくてペンで線引いてるし!」
消せない。
「おおお……」
なかなかどギツイ単語にもチェックが入っている。恥ずかしい。
突っ込み待ちのようなお笑い系の単語にも多い。
笑ってしまって勉強にならない。
もう午前中の勉強は諦めて、のんびり過去の冒険者たちが引いただろう辞書の痕跡を眺めていた。
「敵をさ、こう……倒すときの必殺技ってあるじゃん? その名前考えるのが楽しい頃があってよ」
何とかスラッシュとか、何とかバーニングとか。
ギルマスの黒歴史らしい。
辞書にもスラッシュとバーニングの項目にラインや丸囲みがある。似たようなことを考えた人物が、過去に辞書を引いた者たちの中にもいたようだ。
「お前さんはあるのか? 必殺技。魔法剣士だろ?」
「僕の周辺にそういう文化はなかったなあ。父様なんかは魔法剣を飛ばすとき『行けー!』って掛け声かけてた。兄さんは無言でクールだった。スマートで格好いい感じだった!」
などと話していると、周囲にいた冒険者たちも悪ノリして、ルシウスに必殺技の名前を考えてみなよと唆してくるのだった。
「必殺技かあ……あ、聖剣にも丸付いてる」
ルシウスは魔法剣士なので、剣関連の単語を引いてみることにした。
「聖剣、聖剣と。……有名な聖剣はエクスカリバー……グラム……アメノオハバリ……色々あるねえ」
今は失われてしまったものや、伝説上の剣だった。
「口上を考えるのも楽しいもんだぜ。まあ実際の戦闘場面で悠長なこと言ってると死ぬんだけどよ」
経験者は語るだ。
とりあえずルシウスは、昼食までの時間にそれっぽい必殺技を考えてみることにした。