メガエリスとヴァシレウスが獲得した大量の牡蠣を、半分はグレイシア王女とその伴侶に、残りは彼らでいただくことにした。

 既に退位した先王のヴァシレウスは普段は離宮にいるが、ここ最近は他国との小競り合いもあって、ご意見番として王宮に詰めていることが多い。
 ヴァシレウスのプライベートルームに通され、そこで牡蠣をつまみに飲むことにした。

 アケロニア王国の先王ヴァシレウスは、多少の白髪混じりの黒髪黒目に顎髭の79歳。
 近年は大病したこともあり落ち着いているが、元が大柄で若い頃から鍛えており、端正な顔立ちの男前なので高齢となって威厳は増している。すごくモテる。

 ルシウスのパパのメガエリスは、ヴァシレウスほどではないが背も高く、長く魔道騎士団で魔法剣士として活躍していた体躯は鋼の如く。
 リースト伯爵家の一族特有の青銀の髪に、湖面の水色の瞳、こちらもお髭ばっちりの麗しいイケジジだ。当然モテる。

 若い頃からモテ男で知られていた二人が飲むということで、気を利かせた侍従からは「コンパニオン(お姉さん)を呼ぶか」と確認されたが、今回はお断りしておいた二人である。



「話には聞いていたが、冒険者ギルドのココ村支部が対応している魔物はとんでもないな」

 先ほど何ちゃってバックラーでぶっ叩いたポイズンオイスターへの所感である。

「はい。せいぜい、大人の拳程度の牡蠣が、まさかあそこまで巨大化しているとは」

 しかも脚まで生えているし。

 新鮮な生牡蠣にレモンカットを添え、スパークリングの白ワインで乾杯した。

 海の魔物は、鯨やクラーケンのような元から巨体なものを除けば、自然界にいる生物より多少大きいぐらいのものが大半だ。と言われていた。
 かと思えば、メガエリスの次男ルシウスが送ってきたデビルズサーモンもポイズンオイスターもとにかくデカい。
 脚まで生えていて迫ってくる。
 むちゃくちゃ怖い。

「冒険者たちが居付かず、必死で他国の騎士に救いを求める気持ちがよくわかりますな」

 ただでさえ僻地なのに、本来存在しない巨大化、脚付きお魚さんモンスターばかり討伐させられる。
 なかなかキッツい支部だった。

 普通、冒険者ギルドはダンジョン探索のための拠点のはずなのだが、ルシウスが行っているゼクセリア共和国ココ村支部は海の魔物退治のためだけの冒険者ギルドである。



「しかし、騎士の派遣となると難しいだろうな」

 冒険者が騎士に、騎士が冒険者に転職することはままあるものの、現役の騎士が冒険者ギルドを拠点に魔物退治の任務に就くとなると、嫌がる者のほうが多い。
 国に所属する騎士のプライドが邪魔になるためだ。

「我が国もタイアド王国との戦争の準備がある。そうおいそれと魔力使いや騎士を出すわけにはいかぬ」
「そこは同意致しますが。でもうちの可愛い息子でなくても良かったのでは?」
「ルシウスなら並の騎士十人より使えるだろう? ちょうど誰を派遣するかで悩んでいたところに家出させるのが悪い」
「ぐうう……っ」

 ど正論きた。
 しかし家庭の事情は深刻だったのだ。あのブラコンの次男は長男が大好きすぎて、周りが全然見えていない。
 兄弟どちらも天才といえる魔法剣士だったが、弟のほうがずば抜けている。
 兄はそんな弟に劣等感があるようで、好かれれば好かれるほど弟に追い詰められているようなところがあった。
 弟ルシウスは、そんな兄カイルの葛藤にまるで気づかず、いつまでたっても「兄さん大好き」とハートマークを飛ばしまくっている。

 いい加減、兄離れさせないと、兄のほうが潰れてしまう。