ルシウスが二階の部屋に戻っていった後の食堂では、牡蠣料理をあれこれ摘まみながら大人たちが酒盛りしていた。
 受付嬢クレア、女魔法使いハスミン、そして料理人のオヤジさんの三人だけだが、それなりに話題はある。

「ハスミンちゃん、お友達はまだ見つからないのかい?」
「ええ……。連絡もないし、本当に弱ったわ」

 金髪に水色の瞳の女魔法使いハスミンは、今年の始め頃からここココ村支部に出入りしている冒険者だ。
 友人が行方不明になっていて、ココ村支部を拠点にしながらずっと探し続けている。

「確か、カーナ王国に遊びに行ったときに行方不明になってるんですよね」
「そうなの。ベルセルカっていう女の子なんだけどね。今年の初め頃に王都でお酒を飲みに行って、変な男に絡まれた後からね。……しくじったわ、早いうちに調査に乗り出してればよかった」

 カーナ王国は、ここココ村の海岸の対岸にある小国だ。
 円環大陸に十人ほどしかいない、聖女や聖者を常に最低一人は確保して、国全体に結界を張り巡らせている国だった。

「うーん、カーナ王国かあ。あそこ、外部には閉鎖的な国ですから、なかなか難しいんですよねえ」

 アヒージョにした牡蠣の串を持って、あちちと息を吹きかけて、受付嬢クレアが思案げな顔になる。

 魔物や魔獣の集まりやすい土地で、それらから取れる魔石は豊富。
 またダンジョンがあるから冒険者ギルドもある。
 ハスミンも冒険者ギルドのネットワークを使って友人を探してもらっているのだが、半年近くたった現在でもまだ見つかっていなかった。

「あたしの師匠筋にも調べてもらったんだけど、あの国にいるのは間違いないんだって。でも消息まったく掴めないのよ。ほんと、どうなってるんだか……」

 仕方ないから、一番近いここココ村支部でお魚さんモンスターを倒して日銭を稼ぎながら、情報を集めているのである。



「でもハスミンさんがいてくれて助かりました。ここ、立ち寄る冒険者も少ないのに魔物は次々出るから、支部の崩壊寸前だったし」

 女魔法使いハスミンはBランク冒険者だ。
 強化魔法の使い手で、攻撃は雷魔法。
 戦闘力は高くないが、強化(バフ)使用で何倍にも攻撃力を上げるため、単独でもなかなか強い。
 ここに出る魔物は海の魔物なので、水のある場所で敵を感電させられる雷魔法の使い手は最強に近い。
 本来はパーティーを組んでバフ役に徹するべき冒険者なのだが、組める冒険者がここココ村支部にはいないのである。
 仕方ないから自分で戦っているといった感じだ。

「あのお魚さんたちには困っちゃうわよねえ。前はここまで大量じゃなかったんでしょ?」
「ええ……海の魔物は出没してましたけど、あくまでも海上だけでした。それがこの一年、急激に増加して、脚を生やして海岸に上がるようになってきてしまって」

 ココ村支部は最寄りの町からも遠い。不便な場所にあることもあって、益々冒険者たちの足が遠のくという悪循環だ。
 一応、ギルドの職員は最低でも冒険者ランクC以上ないとなれないので、いざとなれば受付嬢のクレアも戦うことは可能だった。

 ギルドマスター、カラドンのランクはSS。武器は大剣。

 サブギルドマスター、シルヴィスはA。武器は暗器。魔法少々。

 受付嬢クレアはC。武器は弓と短剣、魔術が少し。

 残念ながら料理人のオヤジさんは非戦闘員だ。

 他にハスミンや、町の冒険者ギルドを拠点にしている冒険者たちが数名。
 多くても十数名程度。少ないときにはそれこそギルマスたち三人とハスミンしかいないときもある。
 他の地域の冒険者ギルドなら、一日の出入り人数は百人単位だというのに、ここココ村支部ときたら侘しいにも程がある。



「援軍が来るって聞いてたけど、来ないわねえ」
「……ルシウス君で終わりかもしれません。やはり他国の騎士だと難しいようで」
「あの子強いもんね。強化(バフ)なしでもさくさく倒しちゃうんだもの」

 戦力的にはルシウスがやってきたことで持ち直した。
 しかし、戦闘員の少なさは如何ともし難い。

「あたしの仲間たちにも声かけてるの。少し時間はかかるかもだけど、一人二人ぐらいは来てくれると思うのよね」
「期待してますうううう!」

 などと話していた後日、とんでもない大物が来るのだが、まだ嵐の前の静けさといったところだった。