新婚旅行から新妻ブリジットとともに帰宅した、リースト伯爵家の嫡男カイル。
そう、ルシウスの愛するお兄ちゃんだ。
その表情は一皮剥けた男の如く、自身に満ち溢れていた。
一週間の新婚旅行が長かったのか、短かったのか。
少なくとも本人にとっては良い時間を過ごせたようだ。
「えっ。ルシウスの奴、他国の冒険者ギルドに派遣されたって? ……何ですか、そりゃ」
帰宅するなり、荷物を解く間もなく、父の執務室へと呼び出された。
そこで聞かされた話に、さすがのカイルも驚いた。
「本来はお前に来ていた任務だったようだ。国王陛下たちが、お前が結婚する時期と重なるからと保留にしていてくれたものでな……」
「ふーん。まあ、あいつも魔法剣士としての実力は本物ですからね。役に立つと思いますよ」
メガエリスの息子ふたりは、弟→兄へは重い愛、兄→弟へはクールでドライなのが対照的だった。
まだどちらも幼かった頃はとても仲の良い兄弟だったのだが、成長するにつれ随分と温度差が開いた。
男兄弟とはこういうものなのだろうか。
リースト伯爵家の者は、青みがかった銀髪と、湖面の水色の瞳を持った、大変麗しい容貌をしている。
リースト伯爵家の嫡男カイルも例に漏れず麗しの美青年だった。
背も高いし、魔法剣士として現役の魔道騎士団のエース。細マッチョタイプの美形イケメンである。
なお、魔道騎士団は“魔道士”という、魔法と魔術、両方を使いこなす術者が所属する騎士団だ。
数が少ないので、ここに所属するというだけでエリートだ。
父メガエリスも同じ魔道騎士団所属で、以前は団長、現役を退いた現在は顧問に就任している。
が、本人は少々性格が捻くれていて、卑屈なところがあった。
そんな性格が災いして、モテない。
顔が良いだけでは社会を渡っていけないという好例だった。
それでも何とかお見合いを繰り返してお嫁さんをゲットできたので、今後は少し性格も丸くなると期待したい。
リースト伯爵家に兄カイルが新妻ブリジットとともに新婚旅行から自宅へ帰宅するのと同時期。
次男ルシウスのいるゼクセリア共和国の冒険者ギルドから大荷物が届いた。
麻布に何重にも包まれた横長の荷物で、かなり重い。
開けてみると、出てきたのは魔法樹脂の透明な樹脂に封入された、脚の生えた巨大な黒いお魚さん。
メガエリスと、帰宅したばかりの息子夫婦はリビングに移動して茶を飲みながら歓談していたのだが、そこに運ばれてきたものを見て茶を吹きそうになった。
「これは……デビルズサーモンか!」
お魚さんだが、魔物だ。
「父上、しっかりしてください! デビルズサーモンに脚など生えているわけがありません!」
「し、しかし、実際生えとるではないか!」
言い争う父と息子をよそに、荷物に添付されていた手紙を確認するお嫁さん。
青銀のサラツヤ髪の美形親子と違い、茶色く緩い癖毛のぽっちゃり系女子だ。
「あらー。これ、ルシウス君が捕まえたお魚さんですって。なかなか美味しいからお裾分けだそうですよ」
「お、お裾分けと言ったって……くそ、ルシウス! あいつめ!」
こんな怖いお魚さん、嫁が怖がったらどうしてくれるんだと思ったものの、当の嫁本人は興味深そうに透明な魔法樹脂の表面を指先で突っついている。
わりと豪胆な嫁だ。
「それでついでに、生えるはずのない脚のこと調査してほしいって書いてありますよ」
手紙には、脚をぶった切って胴体から切り離すと、人間の脚が魚のヒレに戻るということが書かれていた。
嫁から渡された手紙にメガエリスはざっと目を通した。
「冒険者ギルドのココ村支部には、生物の解析の得意な魔法使いがいないらしい。カイル、お前に頼みたいようだぞ」
「参ったな、オレも忙しいんだけど」
「カイル」
「ま、気が向いたらね」
明日から戻る仕事の準備があるからと言って、カイルは自室に戻って行ってしまった。
「お義父様。このお魚さん、まだ生きてるのでしょうか?」
「そうだな、わざわざ魔法樹脂で固めてあるということは、恐らく……。こらカイル! 戻って来い、デビルズサーモンを解凍するぞーう!」
「あなたー! 今夜はこのお魚さんでお夕飯にしましょう!」
父が呼んでも反応しなかった息子は、お嫁さんが呼んだら速攻駆け足で廊下から戻ってきた。
「呼んだかい、ブリジット! ……いや待て、こんなデカいだけの魚より、うちの領地の鮭を食べようよ」
「あらー。でもでも、せっかくあなたの弟が獲ってくれたんですよ? さっそく食べて感想のお手紙送りましょう?」
「そ、そうかな?」
(おおう。あのカイルが嫁に上手く操縦されとるわ!)
夫婦仲は良好だ。
今まで一度も彼女を自宅に連れてきた試しのない息子の成長に、父は大いに喜んだ。
そう、ルシウスの愛するお兄ちゃんだ。
その表情は一皮剥けた男の如く、自身に満ち溢れていた。
一週間の新婚旅行が長かったのか、短かったのか。
少なくとも本人にとっては良い時間を過ごせたようだ。
「えっ。ルシウスの奴、他国の冒険者ギルドに派遣されたって? ……何ですか、そりゃ」
帰宅するなり、荷物を解く間もなく、父の執務室へと呼び出された。
そこで聞かされた話に、さすがのカイルも驚いた。
「本来はお前に来ていた任務だったようだ。国王陛下たちが、お前が結婚する時期と重なるからと保留にしていてくれたものでな……」
「ふーん。まあ、あいつも魔法剣士としての実力は本物ですからね。役に立つと思いますよ」
メガエリスの息子ふたりは、弟→兄へは重い愛、兄→弟へはクールでドライなのが対照的だった。
まだどちらも幼かった頃はとても仲の良い兄弟だったのだが、成長するにつれ随分と温度差が開いた。
男兄弟とはこういうものなのだろうか。
リースト伯爵家の者は、青みがかった銀髪と、湖面の水色の瞳を持った、大変麗しい容貌をしている。
リースト伯爵家の嫡男カイルも例に漏れず麗しの美青年だった。
背も高いし、魔法剣士として現役の魔道騎士団のエース。細マッチョタイプの美形イケメンである。
なお、魔道騎士団は“魔道士”という、魔法と魔術、両方を使いこなす術者が所属する騎士団だ。
数が少ないので、ここに所属するというだけでエリートだ。
父メガエリスも同じ魔道騎士団所属で、以前は団長、現役を退いた現在は顧問に就任している。
が、本人は少々性格が捻くれていて、卑屈なところがあった。
そんな性格が災いして、モテない。
顔が良いだけでは社会を渡っていけないという好例だった。
それでも何とかお見合いを繰り返してお嫁さんをゲットできたので、今後は少し性格も丸くなると期待したい。
リースト伯爵家に兄カイルが新妻ブリジットとともに新婚旅行から自宅へ帰宅するのと同時期。
次男ルシウスのいるゼクセリア共和国の冒険者ギルドから大荷物が届いた。
麻布に何重にも包まれた横長の荷物で、かなり重い。
開けてみると、出てきたのは魔法樹脂の透明な樹脂に封入された、脚の生えた巨大な黒いお魚さん。
メガエリスと、帰宅したばかりの息子夫婦はリビングに移動して茶を飲みながら歓談していたのだが、そこに運ばれてきたものを見て茶を吹きそうになった。
「これは……デビルズサーモンか!」
お魚さんだが、魔物だ。
「父上、しっかりしてください! デビルズサーモンに脚など生えているわけがありません!」
「し、しかし、実際生えとるではないか!」
言い争う父と息子をよそに、荷物に添付されていた手紙を確認するお嫁さん。
青銀のサラツヤ髪の美形親子と違い、茶色く緩い癖毛のぽっちゃり系女子だ。
「あらー。これ、ルシウス君が捕まえたお魚さんですって。なかなか美味しいからお裾分けだそうですよ」
「お、お裾分けと言ったって……くそ、ルシウス! あいつめ!」
こんな怖いお魚さん、嫁が怖がったらどうしてくれるんだと思ったものの、当の嫁本人は興味深そうに透明な魔法樹脂の表面を指先で突っついている。
わりと豪胆な嫁だ。
「それでついでに、生えるはずのない脚のこと調査してほしいって書いてありますよ」
手紙には、脚をぶった切って胴体から切り離すと、人間の脚が魚のヒレに戻るということが書かれていた。
嫁から渡された手紙にメガエリスはざっと目を通した。
「冒険者ギルドのココ村支部には、生物の解析の得意な魔法使いがいないらしい。カイル、お前に頼みたいようだぞ」
「参ったな、オレも忙しいんだけど」
「カイル」
「ま、気が向いたらね」
明日から戻る仕事の準備があるからと言って、カイルは自室に戻って行ってしまった。
「お義父様。このお魚さん、まだ生きてるのでしょうか?」
「そうだな、わざわざ魔法樹脂で固めてあるということは、恐らく……。こらカイル! 戻って来い、デビルズサーモンを解凍するぞーう!」
「あなたー! 今夜はこのお魚さんでお夕飯にしましょう!」
父が呼んでも反応しなかった息子は、お嫁さんが呼んだら速攻駆け足で廊下から戻ってきた。
「呼んだかい、ブリジット! ……いや待て、こんなデカいだけの魚より、うちの領地の鮭を食べようよ」
「あらー。でもでも、せっかくあなたの弟が獲ってくれたんですよ? さっそく食べて感想のお手紙送りましょう?」
「そ、そうかな?」
(おおう。あのカイルが嫁に上手く操縦されとるわ!)
夫婦仲は良好だ。
今まで一度も彼女を自宅に連れてきた試しのない息子の成長に、父は大いに喜んだ。