ここまでで、ルシウス少年のことを整理しよう。


 名前はルシウス・リースト。

 出身は魔法と魔術の大国、アケロニア王国。

 リースト伯爵家という、魔法の大家のおうち出身で、魔法剣士。

 まだ学生。

 王女様をはじめとした親しい王族の皆さんの策略によって、ここ冒険者ギルド・ココ村支部への助っ人として送り込まれてきた。


 戦闘力は抜群。
 ギルドマスターの見るところ、まだ多少荒いところはあるが、既にBからAランク相当の実力がある。
 現在はEからDランクに昇格したばかりだ。

 特例措置を適用して、実力相当のランクに即上げしても良いのだが、まだ十四歳の未成年。(ゼクセリア共和国の成人年齢は18歳)

 今後、何ヶ月もココ村支部に常駐するのだから、見守りながら安全に一段階ずつ上げていく方針である。


 魔法剣士だが、まだ自前の魔法剣で戦っているところは見ていない。

 本人に確認すると「お魚さんがキモいからあんまり使いたくない」とのこと。

 わかる。ギルマスだって自分のご自慢の大剣をあんなお魚さんモンスターを捌く魚切り包丁にしたくない。


 魔法剣以外に扱える魔法は、魔法樹脂。

 ものすごく高機能で便利、応用範囲も広いお役立ち魔法だ。

 ここココ村支部のような海岸沿いにある建物は潮風で傷みやすいのだが、そのうち補強してもらえないか頼んでみたいところだ。


 そして、貴重な鑑定スキル持ち。

 この世界だと、鑑定スキルは教会の司祭や教育機関の教師など、本当にごくごく一部しか持っていない。

 例外として、ルシウスの故郷アケロニア王国の王族の皆さんは、血筋固有のスキルとして人物鑑定スキルを持っていることが知られているが、そのぐらいだ。



「ルシウス君、盛りだくさんな子が来てくれましたねえ、ギルドマスター」

「まあな。だがよ、これ正規の魔法剣士の兄貴の方と交代したときが怖いよな」


 お支払いするおちんぎん的な意味で。

 今回、ルシウス少年は魔法剣士としてではなく、一冒険者として登録してココ村支部に常駐してくれている。
 基本的な生活費や活動費は、ルシウス本人の冒険者活動での討伐報酬等で賄ってもらっていた。

 ギルド側は狭い宿直室を宿代わりに貸し出しているのみで、実質的な負担はほぼゼロだ。


「……魔法剣士ひとり派遣してもらうと、おいくら金貨でしたっけ?」

「夜のお高い店で豪遊してまだお釣りが来るぐらい」

「えっ。それ一ヶ月分とかですか?」

「いや、一日で」


 大金貨(約20万円)が何枚必要なのやら。


「……ルシウス君、ずっといてくれないかしら」

「そこは俺、頑張って交渉するわ。まだ未成年のガキだから長期は無理でも、一年ぐらいなら何とか!」

 この年頃の子供にとっては、一年でも長い。

 それでも、できる限り長くいてくれるよう祈る冒険者ギルドの皆さんなのだった。