なお、抱えてきたデビルズサーモンは、建物外の解体所を借りて脚をぶった切り、切り身にして食堂に納品することにした。

 ルシウスの故郷だと、川で獲れた鮭は皮以外は骨まで加工して美味しくいただくのだが、さすがにデビルズサーモンはデカすぎる。

 頭や、ハラスに相当する部分は脂の塊すぎて食べられそうにない。
 潔く、身の部分だけ切り身にしよう。



「あれ? 脚なくなっちゃった……」

 デビルズサーモンに生えていた二本の脚は、解体所の肉切り包丁でぶった切った瞬間、消えてなくなってしまった。

 本当なら魚切り包丁が良いのだが、ルシウスの背丈より大きなお魚さんなので、骨から身を切り離すまでは肉切り包丁のほうが切りやすい。

「あ、ヒレだ」

 作業台の上、デビルズサーモンの手前に、二枚の魚のヒレが落ちている。

「ふむ……」

 ヒレを指先で摘まんで、しげしげと眺める。
 ふつうの鮭のヒレだ。

「このギルドだと、お魚さんモンスターはぜんぶ魔石に変えて、資金源にしてるってギルマス言ってたな」

 もしかすると、二の脚がヒレに戻ることを、まだギルド側は知らないのかもしれない。

 この分だと、キモい二の脚は魚型モンスターのヒレ部分が、何らかの要因によって変化している。

「いや、させられてる、かな?」

 少し調査してみる必要がありそうだ。



「デビルズサーモンか。坊主、何か食いたいメニューあるか?」

 食堂に大量の切り身を納品しに行くと、料理人のオヤジさんがリクエストを聞いてくれるとのこと。

 いつも美味しいごはんを作ってくれる料理人のオヤジさんは、何と調理スキル上級プラス持ちだそうだ。
 道理でいつも美味しいわけである。

「サーモンパイ食べたいです」
「洒落たもん好きなんだな。どういうやつがいい?」

「おうちでは、塩胡椒した鮭入れて焼いたパイを、ブイヨンをきかせた赤ワインソースで食べてました!」
「了解。デビルズサーモンは大味だが、何とか作ってみるよ」

 さっそく今日のランチメニューにしてくれるそうだ。