「ヘルプー! ヘルプミー!」

 今回、お魚さんモンスターは数匹だけだったので、ギルド内にいた魔法使いの女性と剣士ひとりずつ、それにルシウスの三人で討伐に当たった。

「ヘルプって。あんた、何やってんの?」

 最初から砂浜にいた、軽装で砂場に足を取られている男に、魔法使いが呆れている。

「お砂遊びしてるんじゃない?」

 ルシウスは砂浜に入る前に確保しておいた小石を持って、立ったまま動けない男の近くでお魚さんモンスターに向けて投げつけた。

 ヘイトを掻き立てられたお魚さんが、のしのしとルシウスたちに向かってくる。

「ひいいいいっ。来るなー!」
「おいでー。こっちおいで、お魚さーん♪」

 脚の生えた、お馴染みの黒光りする巨大なデビルズサーモンが、ルシウスと男、それぞれを魚眼でギロリと睨んだ。


 キシャアアアアアア


「ヒイィッ!?」

 石を投げてきたルシウスより、動けない男のほうにターゲットを定めたようだ。
 尖った口を大きく開けると、鋭い歯が男を頭から丸齧り。


 ボゴォッ


 ……する寸前、ルシウスの小さな拳で頭をぶん殴られて吹き飛んだ。



「お兄さん。反省した?」
「した! しました! マジ勘弁してくださいごめんなさい!」

 下から顔を覗き込んでくる青銀の髪の少年、いや悪魔の湖面の水色の瞳に、男は顔中を涙と鼻水で汚しながら全力で何度も何度も頷いた。

「次に舐めたことやらかしたら、海の底に沈めちゃうからね?」
「本当にごめんなさいいいいい!」

 そうして土下座せんばかりに謝った若い男は、冒険者ギルドに戻ると速攻で荷物をまとめてココ村を出て行ったのだった。



「ルシウスよう。ここココ村支部は人員不足だから、あんまり新人イビリされるの困るんだけど」

 今回はちゃんと本体が残るように仕留めたデビルズサーモンを抱えてルシウスがギルドに戻ると、髭面大男のギルドマスターからのプチお説教が待っていた。

「僕だって新人ですもん。他の人たちに舐められないよう必死なんです!」
「えええ。お前みたいな新人がいてたまるかー!」

 この子供は実践経験がないだけの超プロだ。

 ちなみに、朝食前の早朝、砂浜でルシウスが若い冒険者の男に砂の城を崩された一連の出来事は、ギルドの窓から丸見えだったらしい。

 ルシウスがどう対処するのかなーとギルドマスター以下、職員たちのチェックが入っていたとのこと。

「まあいい。これで討伐数の規定クリア。最低ランクのEランクからDランクに昇格だ。おめでとうさん」

 冒険者証の更新だ。
 ランクが上がると、その分だけ討伐報酬も上がるし、ギルド内での待遇も良くなる。