『拝啓 メガエリス父様

お元気ですか。
僕はとてもとても元気です。

王女様たちに唆されて僕は今、ゼクセリア共和国のココ村にある冒険者ギルドにいます。

ギルドでは皆さんとても良くしてくれて、なに不自由することなく過ごせています。

僻地ですが、ごはんがとても美味しいです。
毎日、新鮮なお魚さんが食べられます。
もちろん、領地の鮭ほどではありませんが!


それで、そろそろ兄さんは新婚旅行から帰られた頃でしょうか。

兄さんはお嫁様と仲良くされてますか。

兄さんは僕のこと何か仰っておられませんか。

僕はこんなに長い間、兄さんと離れたのが初めてなので、とてもとても寂しいです。

兄さん、僕はお国のために頑張ってお魚さんモンスターを日々倒しまくってます。』


 以下、兄への切々とした思慕の文章が続く。

 息子ルシウスの手紙とは別に、冒険者ギルドのギルドマスター名義での手紙も添付されていた。


『お宅のお子さん、めっちゃ強いな!?

 しかも賢いし、人柄も良い!

 お父様やご家族のご指導の賜物かと存じます』



「うむうむ。そうだろう、そうだろう」

 息子からの手紙も、ギルドマスターからの手紙も、何回も何回も何十回何百回と読み返して、端が擦り切れかかっている。

「旦那様。旦那様! ……そろそろ……」

 執事がメガエリスの握りしめている手紙を、そっとその大きな手の中から引き抜いた。

「ルシウス……我が息子よ、父のことももうちょっと書いてほしかった、な……」

 屋敷の執務室で呟いた主に、執事も、家令も、部屋で控えている侍従や侍女たちも皆、涙をこっそりと拭った。

(ルシウス坊っちゃま。お父様にもいろいろ尋ねて差し上げて!)

 以降もルシウスから実家への手紙は、父メガエリスへのメッセージ一割未満、残りほとんどがお兄ちゃん宛メッセージとなる。

 それでも父は毎回、息子を気遣い、分厚い手紙を返すことになるのである。