「最初に謝っておく。済まない」

 とメガエリスは夜遅く到着した王宮、国王の執務室に通されるなり、当の国王テオドロスに頭を下げられた。

「随分唐突ですな。まずは説明を求めてもよろしいですかな?」

 慇懃な物言いだったが、致し方ないことだ。
 うちの可愛い息子に何してくれとんじゃ、と詰め寄りたいのをメガエリスは必死で抑えていた。
 いくら日頃から仲良しの国王様たちとはいえ、さすがにそれをやっては不敬なので我慢している。

 国王テオドロスの執務室には、国王、その王女グレイシア、そして先王のヴァシレウスと、黒髪黒目の王族三人が勢揃いだ。

 まだ二十代前半の王女や、壮年の国王はともかく、メガエリスと先王ヴァシレウスは早寝早起きタイプの年寄りだ。
 普段ならとっくに夢の中にいる時間帯である。

(正直、こんな夜遅い時刻に呼び出されるとキツイのだがなあ……)

 メガエリスが髪と同じ青銀の髭の口元で欠伸を噛み殺していると。


「メガエリス。……タイアド王国がまたやらかした。本格的に戦になるかもしれない」

 この場の一番の年長者、79歳で巨躯の先王ヴァシレウスがズバリ切り出した。
 一気に眠気が覚めた。



 タイアド王国は、このアケロニア王国の同盟国だ。

 この世界には、円環大陸と呼ばれる巨大大陸のみがある。
 タイアド王国は、アケロニア王国と同じ、大陸北西部にある大国だった。
 間に小国がいくつかあって離れてはいるが。

 先王ヴァシレウスの一番最初の子供である王女、現国王テオドロスの姉クラウディアが、タイアド王国の当時の王太子に嫁いでいる。

 だが嫁ぎ先で粗末な扱いを受けたため、若いうちに王子ひとりを産んですぐ亡くなってしまっている。

 先王ヴァシレウスは穏やかで思慮深い賢王だったが、この件だけは生涯許さんと、タイアド王家を心底憎んでいた。



「お聞きしましょう。何があったのですかな?」

「タイアド王国にいる私のひ孫の娘が、現王太子から言いがかりをつけられて婚約破棄された」

「は?」

「タイアド王国の暴挙を、我が国はこれまで二回、苦渋を飲んで受け入れてきた。今回は三回目だ。そろそろ痛い目を見せてやろうと思ってな」

 先王ヴァシレウスの口調は穏やかだったが、その黒い瞳は全く笑っていない。