「忠告スキルってさ、その通りに言うこと聞けば良くなるのに、受け入れてくれない人がいるのはなぜなんだろ?」
ルシウスのそれは素朴な疑問だった。
たとえば、ルシウスの亡母の実の弟は人間性の良くない人物だったが、ルシウスの大好きなお兄ちゃんはなぜかこの叔父を慕っていた。
ルシウスは己の直観から、この母方の叔父と仲良くしないほうがいい、と幼い頃からお兄ちゃんに訴え続けるという“忠告”を続けていた。
だが、次第にこの話題を出すたび鬱陶しがられるようになってしまった。
「それは感情の問題ね。自分の中に解決できていない鬱屈がある者ほど、忠告スキル持ちの忠告を拒絶するの」
「その鬱屈を拗らせていくと、あの飯マズ男みたいになるのさ」
「感情の苦痛を誤魔化して興奮方向に向かうとあの男みたいになる。抑圧方向に行けばまた別の異常な人間になる。まともな者ほど、こういう異常者たちの被害を受けやすい」
そこから魔術師のフリーダヤが語ったことは、ある意味、魔力使いたちの根幹に触れる話だった。
「古い時代なら、魔力使いたちは今の冒険者たちみたいに魔物や魔獣と戦って倒すのが使命だったよね。でも今はああいう飯マズ男みたいな異常化した人間のほうが世界にとって深刻な問題になっている」
「え、どういうこと?」
そりゃあ、あんなタイプが身近にたくさんいたら被害は甚大だろうが。
するとフリーダヤはじろじろと、かなり不躾な視線をルシウスに向けてきた。
ルシウスの全身の魔力の流れを読んでいる目つきだ。
「あの男はさ、君みたいな聖なる魔力持ちの聖剣使いに突っかかっていたんだろ? 聖なる魔力は強い浄化作用があるし、浄化作用を持つ者は世界に調和をもたらす者だ。そんな人物に攻撃してくるなんて正気じゃない」
「そういう魔の入った者を私たちは単純に“異常者”と呼んでいる。環使いは異常者に対応できるから、新世代と呼ばれる側面があるわ」
それからも、彼らのいう“異常者”のレクチャーを受けた一同だったが、話がわかる者と、いまひとつ要領を得ない顔をした者とに分かれた。
「何にせよ、あの手の異常者に目をつけられると破壊的で破滅的な悪影響を受ける。もし近くにいたら速攻で逃げることだ」
そこでフリーダヤが話を締めようとしたところで、女魔法使いのハスミンが爆弾発言を投下した。
「あたしもねえ。あの男と同じようなことになってたことがあるのよね」
え、と皆の視線が可憐な人形のような彼女に向いた。
あの飯マズ料理人と同じようなこと、といえば、理不尽なことでルシウスに突っかかっていたようなことだろうか?
「あたしにも、ルシウス君みたいに大好きな姉……お姉様がいてね。お姉様が悪い魔力使いに誘拐されたと思い込んで、頭に血が上がっちゃって、おかしくなってしまったのよ」
「か、彼と同じということは、ハスミンさんも何かやらかしたってことですか?」
恐る恐る、受付嬢のクレアが尋ねると、ハスミンが頷いた。
「お姉様を連れ出した魔力使いの仲間を、片っ端からとっ捕まえて拷問して惨殺したわ」
「「「!?」」」
ハスミンは環使いで、師匠はこの場に二人いる。
ということは、即ち、魔術師フリーダヤと聖女ロータスのファミリーのことを指していると思われる。
「この業のせいで、なかなか環も使えるようにならなくてねえ。
いまのハスミンは面倒見の良いお姉さんだが、過去はそれなりに重いらしい。
普段の彼女からは、重苦しさを感じることはないし、今も話している内容のどぎつさのわりに、口調は軽やかだった。
「……今のハスミンさんからは想像もつかないけど、どうやって普通に戻れたの?」
素朴な疑問を抱いたルシウスに、ハスミンはあっけらかんと答えた。
「お姉様本人が助けてくれたのよ。もう頭の中が沸騰してまともな考えができなくなって暴走してたあたしに、その頃既に環使いになってたお姉様が付きっきりで治るまで看病してくれた感じ?」
「看病……そっか、異常化して暴走したハスミンさんの魔力を環で癒し続けたってことか」
既に環を発現させているルシウスには、さすがにすぐにピンときた。
「つまり、異常者は身近な者の献身があれば戻れる余地があるわけ。……でも、普通はそこまでやらないし、やれないわよね」
「あの飯マズ男に最後まで責任を持って、まともな真人間に戻してやろうって情熱、持てる?」
フリーダヤの問いかけに、一同はぷるぷると首を振って否定した。無理、絶対無理!
「あんなの、拘束して海にポイでいいじゃない」
関わるたび不快な気分にさせられたルシウスは、飯マズ男の一番の被害者だ。
実際、フリーダヤが止めなければ飯マズ男を封印したままの魔法樹脂を、今すぐにでも海にポイ捨てしたいと思っている。
ルシウスのそれは素朴な疑問だった。
たとえば、ルシウスの亡母の実の弟は人間性の良くない人物だったが、ルシウスの大好きなお兄ちゃんはなぜかこの叔父を慕っていた。
ルシウスは己の直観から、この母方の叔父と仲良くしないほうがいい、と幼い頃からお兄ちゃんに訴え続けるという“忠告”を続けていた。
だが、次第にこの話題を出すたび鬱陶しがられるようになってしまった。
「それは感情の問題ね。自分の中に解決できていない鬱屈がある者ほど、忠告スキル持ちの忠告を拒絶するの」
「その鬱屈を拗らせていくと、あの飯マズ男みたいになるのさ」
「感情の苦痛を誤魔化して興奮方向に向かうとあの男みたいになる。抑圧方向に行けばまた別の異常な人間になる。まともな者ほど、こういう異常者たちの被害を受けやすい」
そこから魔術師のフリーダヤが語ったことは、ある意味、魔力使いたちの根幹に触れる話だった。
「古い時代なら、魔力使いたちは今の冒険者たちみたいに魔物や魔獣と戦って倒すのが使命だったよね。でも今はああいう飯マズ男みたいな異常化した人間のほうが世界にとって深刻な問題になっている」
「え、どういうこと?」
そりゃあ、あんなタイプが身近にたくさんいたら被害は甚大だろうが。
するとフリーダヤはじろじろと、かなり不躾な視線をルシウスに向けてきた。
ルシウスの全身の魔力の流れを読んでいる目つきだ。
「あの男はさ、君みたいな聖なる魔力持ちの聖剣使いに突っかかっていたんだろ? 聖なる魔力は強い浄化作用があるし、浄化作用を持つ者は世界に調和をもたらす者だ。そんな人物に攻撃してくるなんて正気じゃない」
「そういう魔の入った者を私たちは単純に“異常者”と呼んでいる。環使いは異常者に対応できるから、新世代と呼ばれる側面があるわ」
それからも、彼らのいう“異常者”のレクチャーを受けた一同だったが、話がわかる者と、いまひとつ要領を得ない顔をした者とに分かれた。
「何にせよ、あの手の異常者に目をつけられると破壊的で破滅的な悪影響を受ける。もし近くにいたら速攻で逃げることだ」
そこでフリーダヤが話を締めようとしたところで、女魔法使いのハスミンが爆弾発言を投下した。
「あたしもねえ。あの男と同じようなことになってたことがあるのよね」
え、と皆の視線が可憐な人形のような彼女に向いた。
あの飯マズ料理人と同じようなこと、といえば、理不尽なことでルシウスに突っかかっていたようなことだろうか?
「あたしにも、ルシウス君みたいに大好きな姉……お姉様がいてね。お姉様が悪い魔力使いに誘拐されたと思い込んで、頭に血が上がっちゃって、おかしくなってしまったのよ」
「か、彼と同じということは、ハスミンさんも何かやらかしたってことですか?」
恐る恐る、受付嬢のクレアが尋ねると、ハスミンが頷いた。
「お姉様を連れ出した魔力使いの仲間を、片っ端からとっ捕まえて拷問して惨殺したわ」
「「「!?」」」
ハスミンは環使いで、師匠はこの場に二人いる。
ということは、即ち、魔術師フリーダヤと聖女ロータスのファミリーのことを指していると思われる。
「この業のせいで、なかなか環も使えるようにならなくてねえ。
いまのハスミンは面倒見の良いお姉さんだが、過去はそれなりに重いらしい。
普段の彼女からは、重苦しさを感じることはないし、今も話している内容のどぎつさのわりに、口調は軽やかだった。
「……今のハスミンさんからは想像もつかないけど、どうやって普通に戻れたの?」
素朴な疑問を抱いたルシウスに、ハスミンはあっけらかんと答えた。
「お姉様本人が助けてくれたのよ。もう頭の中が沸騰してまともな考えができなくなって暴走してたあたしに、その頃既に環使いになってたお姉様が付きっきりで治るまで看病してくれた感じ?」
「看病……そっか、異常化して暴走したハスミンさんの魔力を環で癒し続けたってことか」
既に環を発現させているルシウスには、さすがにすぐにピンときた。
「つまり、異常者は身近な者の献身があれば戻れる余地があるわけ。……でも、普通はそこまでやらないし、やれないわよね」
「あの飯マズ男に最後まで責任を持って、まともな真人間に戻してやろうって情熱、持てる?」
フリーダヤの問いかけに、一同はぷるぷると首を振って否定した。無理、絶対無理!
「あんなの、拘束して海にポイでいいじゃない」
関わるたび不快な気分にさせられたルシウスは、飯マズ男の一番の被害者だ。
実際、フリーダヤが止めなければ飯マズ男を封印したままの魔法樹脂を、今すぐにでも海にポイ捨てしたいと思っている。