「アケロニア王国は王朝が代わってからずっと安定した良い国だわ。近年、王政国家は腐敗した国が増えてきてるけど、あそこは王族たちの人柄も良いし」
「やっぱり神殿と関係が深い王家は長持ちするね。アケロニアの今の王家は前王家と違って、教会より神殿と密接な関係がある」

 訳知り顔で聖女のロータスと魔術師のフリーダヤが頷いている。

「他国だと教会の方が組織が大きいんですっけ?」
「だいたい、その国における福祉の担当が教会だからねえ。病院や孤児院、救貧院の運営を担ってて寄付金も集まる。人々に倫理や道徳を教える集会や勉強会も開いてるけど、やっぱり資金が集まる場所はね」

 人と物と金の集まる場所は腐敗しやすい。



「神殿は独立自営の組織ですからね……。けれど世界の理を追求し、神祇や儀式儀礼を執り行う優れた神官が必ずどこの国の神殿にも常駐しています」

 とこちらはまた別の“神殿と関係の深い“王家”を持つカレイド王国出身のサブギルマス、シルヴィスだ。
 彼は冒険者になる前、祖国では神殿所属の神官だった経歴の持ち主なのだ。

「神殿のある国は、国が神殿の規定する年間行事を儀式として行うことで、国土と人心が安定しやすいんです。特にアケロニア王国の場合、神殿の託宣に王や国民がよく従っていると聞いています」
「託宣って?」
「世界の……いわゆる永遠の摂理、真理に通じた専門の神官がおりましてね。彼らに疑問や悩みを相談すると、真理に基づいた助言を下してくれます」

 へえ〜と皆が関心している。
 神殿も教会も、本部は円環大陸中央の謎の永遠の国にあるが、世界を見回してみると圧倒的に教会組織のほうが各地を席巻している。

 神殿に重きを置く国は少数派だ。
 しかし、神殿派の国のほうが良い意味で“長持ち”である。



「神殿の託宣は、聖女や聖者らの予言や忠告と同じなのよね。基本的に外れないし、従えば良いことが起こり、反すれば相応の結果が起こる。困難や苦境にあっても従えば事態が打開されることが多いわ」

 当の聖女本人、ロータスが更に詳しく説明してくれた。

「お、ならルシウスは聖者覚醒したんだし、同じスキルがあるんじゃね?」
「託宣……予言に忠告……うーん……」

 食べ応えのあるクラシックパンケーキを大きな口で一気に食べ終えていたギルマスのカラドンに言われて、こちらもクレープ生地タイプのパンケーキを食べながらルシウスが唸っている。

「……ううん……確かに僕は、言ったことが現実になることが多いよ。話を聞いてくれる人には良いことが起こるし、聞いてくれない人は……はああ……」

 残ったジャムごとパンケーキを食べ終え、紅茶を飲んで一息ついてから「ステータスオープン」と呟いた。

 ルシウスの目の前に、ステータスウィンドウが浮かび上がる。

「これかなあ。“絶対直観”。でも絶対って書いてあるわりに、話を聞いてくれない人、結構いるんだよね」

 話を聞いてくれる人の代表はおうちのパパや王族の皆さんで、聞いてくれない人の代表は亡くなったママの弟や、あと話半分なのがお兄ちゃんだったりする。

「あ、そうか。ステータス表記のテンプレート、私たちと同じものにしておこう。同じ鑑定スキル持ちでも旧世代と新世代は表記が変わるものがあるんだ」

 (リンク)を出すよう言われてルシウスが腰回りに出すと、魔術師のフリーダヤがそこに手を突っ込んで何やらゴソゴソと操作していた。

「あ。絶対直観が『忠告スキル(絶対直観)』に変わった!」
「そう、お国で使ってたテンプレートはカッコ内に付記されるから安心して」

 こうして、何だかんだでルシウスのスキルは増え続けている。

 聖女のロータスより、この魔術師のフリーダヤは他者にスキルや教えを授けることに熱心だ。
 実際、ここココ村支部の冒険者たちの中には、ルシウス以外にも新世代魔力使いの(リンク)を発現させた者がちらほら出始めている。