食堂に戻ると、さすがに手を付けないまま半日経過してしまった食事は料理人のオヤジさんに片付けられてしまっていた。
ルシウスが頼んでいたのはデビルズサーモンの蒸し焼き定食だったのだが。
「デビルズサーモンは冷めると脂が生臭くなっちまうからね」
また新しくできたてを作り直してくれたのだった。
「僕、早くあの飯マズ男を片付けて、故郷に戻ります。そろそろ、うちの美味しい鮭も食べたくなってきたし」
もりもりサーモン定食を食しながら、ルシウスは決めた。
ココ村海岸に出没するお魚さんモンスターの謎も、解析の得意な魔術師のフリーダヤによって解決しつつあるわけだし。
というより、伝説級魔力使いが既に二人もココ村支部にいるのだ。ぜひそちらにお任せしたい。
「うち、なかなか有名な鮭の名産地なんですよ。こんなのより、ずっとずっと美味しいんですから。おふたりもアケロニア王国のリースト地域にお越しの際は絶対絶対、食べていってくださいね!」
これに驚いたのがフリーダヤだ。
ルシウスを待っていた彼は、ロータスと手を繋いで戻ってきた早々に帰る気満々のルシウスに慌てた。
「え、もう帰るの? そう急がないでさ、せっかくだから、環が使えるようになるまで僕たちのところで修行していきなよ」
「必要ないです。無我を作るため感情の執着をなくせ、が環使いこなしの秘訣なのでしょう? 僕は我が最愛への想いを捨てたくないから新世代の環使いにはなりません」
自分が何度ロータスから額を突かれてもすぐ環が消えてしまうのは、大好きなお兄ちゃんへの想いの強さが阻害しているからだ。
この想いを止めるなんて絶対嫌だった。
それに、ルシウスは別に環など使えようが使えまいが、ぶっちゃけどうでもいい。何も困らない。
嫌われてようが何だろうが、相手に嫌がられない距離を置きつつも、もうちょっと近い場所にいたい。
「えええ……どうするよ、ロータス?」
困ったようにフリーダヤが隣のロータスを見る。
盲目の彼女は目を開いたまま、何か考えるような顔つきでじっとルシウスのほうを見ていた。
「あなた、相当に魔力量が多いみたいだけど、何か理由があるの?」
「ああ、それは当然です。僕は人類の古代種ですから」
「「!?」」
そこでルシウスは、家族と一族の主要人物以外は誰も知らない己の真の出自を話した。
「僕の家は、魔法樹脂の使い手なんです。僕はその始祖筋の家の息子だったんだけど、生まれてすぐに魔力を暴走させて手に負えないからって、魔法樹脂に封じられてしまったんです」
「えっ。これは聞いてないぞ、ハスミン!」
「だって話してないもーん」
食堂の別のテーブルで他の冒険者らとワインを飲んでいたハスミンが、しれっと舌を出していた。
「わーい驚かせたー!」と周囲の人々とハイタッチして喜んでいる。
「く、詳しい話を聞いてもいいかい?」
「まあ構いませんけどー」
ルシウスは魔族と呼ばれたハイヒューマン一族の出身だ。
だが、生まれ持った魔力が強すぎて、家族に魔法樹脂の中に封印された。
だいたい一万年が経過して、故郷の今の実家の倉庫に大切に保管されていたのが、約十四年前に解けた。
それからは現在まで、ルシウスは普通の人間の子供と同じように成長してきている。
ルシウスの経緯はそんな感じだ。
「すごい話だな。……ロータス、君はその一族のこと聞いたことある?」
「魔法樹脂を使う、青銀の髪の一族……ないわね。相当古いでしょ」
「あなたがたは確か800年生きてるんですっけ? 僕の先祖たちが今の故郷に移住したのは千年以上前で、それからまったく国外に出てませんから、知らないのも無理はないかと」
古代種というのは、人間の上位存在であるハイヒューマンのことで、すべての円環大陸の人類の祖先にあたる。
今はほとんど数がおらず、現在も生きている者たちは円環大陸中央部の永遠の国に集まって滅多なことでは外に出ない。
魔法や魔術を扱う魔力使いたちは、このハイヒューマンの血が流れているから魔力を持つと言われていた。
「ごちそうさまでした!」
デビルズサーモンや付け合わせの野菜は完食、スープまでしっかり飲み干してごちそうさま。
「よし、じゃああとは、あの飯マズ男を始末しておしまい! 明日から僕もシルヴィスさんに付いて探索のお手伝いを」
「おっと、それには及ばねえ」
ギルマスのカラドンが、サブギルマスのシルヴィスを伴って食堂の中央に冒険者たちの視線を集めさせた。
「皆、聞いてくれ。明日はまたケンの料理当番の日だ」
うええ〜イヤだーとそこかしこで声が上がる。
それからカラドンは、臨時料理人である飯マズ男ケンが他国の工作員の可能性が高いことや、可能なら明日中に彼を捕縛する方向で動くことを一同に伝えた。
皆、何となく気づいてはいたが、ギルド側からの公式見解は今回初めてだ。驚いている者も多い。
「問題は海の魔物が押し寄せてきた場合とバッティングした場合だ。どうも魔物もケンの野郎がけしかけているらしい。そこで……」
皆、ギルマスの言葉を固唾を飲んで聞いていた。
「明日はケンが厨房のシフトに入る十時から厳戒態勢に入る。早めに出勤してきた場合に備えて7時にはギルド内外で待機!」
ついに来た。
ギルドを挙げての大型任務のランクはA。
決戦は明日!
ルシウスが頼んでいたのはデビルズサーモンの蒸し焼き定食だったのだが。
「デビルズサーモンは冷めると脂が生臭くなっちまうからね」
また新しくできたてを作り直してくれたのだった。
「僕、早くあの飯マズ男を片付けて、故郷に戻ります。そろそろ、うちの美味しい鮭も食べたくなってきたし」
もりもりサーモン定食を食しながら、ルシウスは決めた。
ココ村海岸に出没するお魚さんモンスターの謎も、解析の得意な魔術師のフリーダヤによって解決しつつあるわけだし。
というより、伝説級魔力使いが既に二人もココ村支部にいるのだ。ぜひそちらにお任せしたい。
「うち、なかなか有名な鮭の名産地なんですよ。こんなのより、ずっとずっと美味しいんですから。おふたりもアケロニア王国のリースト地域にお越しの際は絶対絶対、食べていってくださいね!」
これに驚いたのがフリーダヤだ。
ルシウスを待っていた彼は、ロータスと手を繋いで戻ってきた早々に帰る気満々のルシウスに慌てた。
「え、もう帰るの? そう急がないでさ、せっかくだから、環が使えるようになるまで僕たちのところで修行していきなよ」
「必要ないです。無我を作るため感情の執着をなくせ、が環使いこなしの秘訣なのでしょう? 僕は我が最愛への想いを捨てたくないから新世代の環使いにはなりません」
自分が何度ロータスから額を突かれてもすぐ環が消えてしまうのは、大好きなお兄ちゃんへの想いの強さが阻害しているからだ。
この想いを止めるなんて絶対嫌だった。
それに、ルシウスは別に環など使えようが使えまいが、ぶっちゃけどうでもいい。何も困らない。
嫌われてようが何だろうが、相手に嫌がられない距離を置きつつも、もうちょっと近い場所にいたい。
「えええ……どうするよ、ロータス?」
困ったようにフリーダヤが隣のロータスを見る。
盲目の彼女は目を開いたまま、何か考えるような顔つきでじっとルシウスのほうを見ていた。
「あなた、相当に魔力量が多いみたいだけど、何か理由があるの?」
「ああ、それは当然です。僕は人類の古代種ですから」
「「!?」」
そこでルシウスは、家族と一族の主要人物以外は誰も知らない己の真の出自を話した。
「僕の家は、魔法樹脂の使い手なんです。僕はその始祖筋の家の息子だったんだけど、生まれてすぐに魔力を暴走させて手に負えないからって、魔法樹脂に封じられてしまったんです」
「えっ。これは聞いてないぞ、ハスミン!」
「だって話してないもーん」
食堂の別のテーブルで他の冒険者らとワインを飲んでいたハスミンが、しれっと舌を出していた。
「わーい驚かせたー!」と周囲の人々とハイタッチして喜んでいる。
「く、詳しい話を聞いてもいいかい?」
「まあ構いませんけどー」
ルシウスは魔族と呼ばれたハイヒューマン一族の出身だ。
だが、生まれ持った魔力が強すぎて、家族に魔法樹脂の中に封印された。
だいたい一万年が経過して、故郷の今の実家の倉庫に大切に保管されていたのが、約十四年前に解けた。
それからは現在まで、ルシウスは普通の人間の子供と同じように成長してきている。
ルシウスの経緯はそんな感じだ。
「すごい話だな。……ロータス、君はその一族のこと聞いたことある?」
「魔法樹脂を使う、青銀の髪の一族……ないわね。相当古いでしょ」
「あなたがたは確か800年生きてるんですっけ? 僕の先祖たちが今の故郷に移住したのは千年以上前で、それからまったく国外に出てませんから、知らないのも無理はないかと」
古代種というのは、人間の上位存在であるハイヒューマンのことで、すべての円環大陸の人類の祖先にあたる。
今はほとんど数がおらず、現在も生きている者たちは円環大陸中央部の永遠の国に集まって滅多なことでは外に出ない。
魔法や魔術を扱う魔力使いたちは、このハイヒューマンの血が流れているから魔力を持つと言われていた。
「ごちそうさまでした!」
デビルズサーモンや付け合わせの野菜は完食、スープまでしっかり飲み干してごちそうさま。
「よし、じゃああとは、あの飯マズ男を始末しておしまい! 明日から僕もシルヴィスさんに付いて探索のお手伝いを」
「おっと、それには及ばねえ」
ギルマスのカラドンが、サブギルマスのシルヴィスを伴って食堂の中央に冒険者たちの視線を集めさせた。
「皆、聞いてくれ。明日はまたケンの料理当番の日だ」
うええ〜イヤだーとそこかしこで声が上がる。
それからカラドンは、臨時料理人である飯マズ男ケンが他国の工作員の可能性が高いことや、可能なら明日中に彼を捕縛する方向で動くことを一同に伝えた。
皆、何となく気づいてはいたが、ギルド側からの公式見解は今回初めてだ。驚いている者も多い。
「問題は海の魔物が押し寄せてきた場合とバッティングした場合だ。どうも魔物もケンの野郎がけしかけているらしい。そこで……」
皆、ギルマスの言葉を固唾を飲んで聞いていた。
「明日はケンが厨房のシフトに入る十時から厳戒態勢に入る。早めに出勤してきた場合に備えて7時にはギルド内外で待機!」
ついに来た。
ギルドを挙げての大型任務のランクはA。
決戦は明日!