「ちょっと外、お散歩してきます。ごはんは後で食べるので置いといてください」
どことなくしょんぼりした感じで、ルシウスは夜の海岸へと出て行った。
「なるほど、あれが原因かあ。大した情熱の持ち主じゃないか」
「他者への報われない想いが影を落としてたってことね。そうとわかればこれで……」
悪巧み、もといルシウス少年の育成計画を練ろうとしたところで、ロータスはハッと何かに気づいた顔になった。
「しまった。深い内省の後に敵に襲われると危ない!」
盲目とは思えない素早い足取りで、浜辺のルシウスを追った。
ルシウスはようやく現実を直視した。
「僕、兄さんから嫌われてるかもしれない」
そもそも、おかしなことは最初からいくつもあったのだ。
ここに来てから、父親からは山ほど手紙が届いたが、一番欲しかった兄からの手紙は一度もない。
お魚さんモンスターに脚が生えたことへの分析結果も、結局は魔道騎士団の研究班の別の研究員が書いたものに、お嫁様が補足した手紙が付属しているのみだった。
そういった積み重ねが多分、兄の自分への答えのような気がする。
食堂でフリーダヤとロータスと別れて、ルシウスは夜の海岸をとぼとぼと歩いた。
「我が最愛。僕のいちばん大好きなひと。そうだ、僕はあの人を苦しめてるだけなんだ」
言葉にすると、その切実さが胸に迫って来る。
ちょうど自分が作った砂のお魚さんモンスターオブジェのところまできた時点で耐えられなくなり、像の傍らにしゃがみ込んだ。
「兄さん。会いたい。お顔を見たい。声ききたい。側にいたい。側にいて、一緒に……」
もう後から後から涙が止まらない。
「ほんとなんなのこれ。あの二人が余計なことするから!」
ひっくひっくとえずきながら悪態をつく。
「き、嫌われてることなんて、考えたくもなかったのに」
波の音しかなかった海辺に、夏の湿った暑い空気をまとったルシウスの号泣が響いていく。
やがて涙も尽きかけた頃、ルシウスの周りに甘い蓮の花の芳香が漂った。
「嫌い……嫌われてる……」
しゃがみ込んだまま俯いて、涙を流しながらぶつぶつと呟いているルシウスの姿に、聖女のロータスは僅かに目を細めた。
幸い敵はいなかったようだが、ネガティヴ方向の良くないほうに向かってしまったようだ。
ロータスは自分も砂に膝をついて、ルシウスを抱き締めた。
蓮の花の甘い香りがより濃厚になる。
「大丈夫。あなたは愛されてるわ」
「嘘だ!」
「いいえ。……あなたと同じ重みではないかもしれないけれど、あなたは最愛から愛されている」
ルシウスの環に触れ、そこから読み取った情報でわかる。
「ただね、人には相性というものがある。それは仕方のないことよ」
「………………」
「そろそろギルドに戻りましょう。食事、食べてなかったでしょ?」
昼からずーっと喋りっぱなしで、飲み物もほとんど飲んでいなかったはずだ。
「……おなかすいた」
くうう〜とルシウスのお腹が小さく鳴った。
しゃがみ込んでいたルシウスにロータスが手を差し伸べてくれる。
案外、節張った指の彼女の手を取り、よっこらせと立ち上がる。
そのまま手を繋いだままギルドへと戻って行った。
以降、ココ村支部でルシウスによる『大好きなお兄ちゃん語り』はピタリと止まった。
どことなくしょんぼりした感じで、ルシウスは夜の海岸へと出て行った。
「なるほど、あれが原因かあ。大した情熱の持ち主じゃないか」
「他者への報われない想いが影を落としてたってことね。そうとわかればこれで……」
悪巧み、もといルシウス少年の育成計画を練ろうとしたところで、ロータスはハッと何かに気づいた顔になった。
「しまった。深い内省の後に敵に襲われると危ない!」
盲目とは思えない素早い足取りで、浜辺のルシウスを追った。
ルシウスはようやく現実を直視した。
「僕、兄さんから嫌われてるかもしれない」
そもそも、おかしなことは最初からいくつもあったのだ。
ここに来てから、父親からは山ほど手紙が届いたが、一番欲しかった兄からの手紙は一度もない。
お魚さんモンスターに脚が生えたことへの分析結果も、結局は魔道騎士団の研究班の別の研究員が書いたものに、お嫁様が補足した手紙が付属しているのみだった。
そういった積み重ねが多分、兄の自分への答えのような気がする。
食堂でフリーダヤとロータスと別れて、ルシウスは夜の海岸をとぼとぼと歩いた。
「我が最愛。僕のいちばん大好きなひと。そうだ、僕はあの人を苦しめてるだけなんだ」
言葉にすると、その切実さが胸に迫って来る。
ちょうど自分が作った砂のお魚さんモンスターオブジェのところまできた時点で耐えられなくなり、像の傍らにしゃがみ込んだ。
「兄さん。会いたい。お顔を見たい。声ききたい。側にいたい。側にいて、一緒に……」
もう後から後から涙が止まらない。
「ほんとなんなのこれ。あの二人が余計なことするから!」
ひっくひっくとえずきながら悪態をつく。
「き、嫌われてることなんて、考えたくもなかったのに」
波の音しかなかった海辺に、夏の湿った暑い空気をまとったルシウスの号泣が響いていく。
やがて涙も尽きかけた頃、ルシウスの周りに甘い蓮の花の芳香が漂った。
「嫌い……嫌われてる……」
しゃがみ込んだまま俯いて、涙を流しながらぶつぶつと呟いているルシウスの姿に、聖女のロータスは僅かに目を細めた。
幸い敵はいなかったようだが、ネガティヴ方向の良くないほうに向かってしまったようだ。
ロータスは自分も砂に膝をついて、ルシウスを抱き締めた。
蓮の花の甘い香りがより濃厚になる。
「大丈夫。あなたは愛されてるわ」
「嘘だ!」
「いいえ。……あなたと同じ重みではないかもしれないけれど、あなたは最愛から愛されている」
ルシウスの環に触れ、そこから読み取った情報でわかる。
「ただね、人には相性というものがある。それは仕方のないことよ」
「………………」
「そろそろギルドに戻りましょう。食事、食べてなかったでしょ?」
昼からずーっと喋りっぱなしで、飲み物もほとんど飲んでいなかったはずだ。
「……おなかすいた」
くうう〜とルシウスのお腹が小さく鳴った。
しゃがみ込んでいたルシウスにロータスが手を差し伸べてくれる。
案外、節張った指の彼女の手を取り、よっこらせと立ち上がる。
そのまま手を繋いだままギルドへと戻って行った。
以降、ココ村支部でルシウスによる『大好きなお兄ちゃん語り』はピタリと止まった。