お魚さんモンスターを討伐し終わった後、一足先にギルドに戻ってきた聖女ロータスは食堂で待機していたパートナーに寄って行った。
「フリーダヤ。あの子の鑑定分析はできた?」
「鑑定自体はできるけど、彼、どういうわけかステータスの数値や項目の大半がバグってるんだよね」
ロータスに訊かれた魔術師のフリーダヤは両肩をすくめた。
フリーダヤは人物鑑定スキルの上級ランク持ちだが、それでもルシウス少年のステータスは半分も読めなかった。
「それには理由がある。訳は本人に聞いてくれるか」
後から戻ってきた髭面ギルマスのカラドンが汗を拭き拭き、後ろから声をかけてくる。
「ルシウスは?」
「解体場でデビルズサーモンを捌いてるぜ」
しばらくすると、お目当てのルシウスが討伐報酬のお魚さんの魔石も受付で納め終え、捌いたデビルズサーモンの切り身をバットにのせて元気いっぱいで食堂に入ってきた。
「やあ、お疲れ様」
「あ、お疲れ様でーす!」
先にフリーダヤとロータスが食事をしていて手を振ってきたので、ルシウスは自分もオヤジさんに定食を頼んで彼らのテーブル席へ向かった。
そこで定食が出来上がるまでの間に、またトン、とロータスに額にやられたのだ。
気づくとまたルシウスの腰回りには環が出ている。
「そろそろかな」
「そうよ。……あなた、頑固すぎるわ。もっと柔らかな生き方をなさい」
ロータスの嗜めるような言葉がルシウスの中を素通りしていく。
「この子、人としておかしなところは何もないのに、どうしてこんなに環の効きが悪いのかしら」
「変な執着も感情の問題もなさそうなのにねえ」
「隠れ偏屈なのかしら」
「案外、人に言えない趣味を持ってたりとか?」
何やら散々言われている。
「あれ? いやちょっと待って……え? えええ?」
「どうしたの? まあこのお兄さんたちに話してご覧よ」
何だかすごいムズムズする。
普段はあまり考えないようにしていた感情の奔流が内側から溢れ出してきそうだ。
「デビルズサーモン定食、お待ち!」
料理人のオヤジさんが定食のプレートを持ってきてくれたが、止められない。
そのまま居てもたってもいられず、怒涛のように己の唯一、最愛への愛を語り始めた。
そう、『大好きなお兄ちゃん』への想いだ。
「えっ。……やだ、なにこれ!?」
慌てて自分の両手で自分の口を塞いだが、衝動が抑えられない。
その上、これまたフリーダヤが絶妙なタイミングで相槌を打ってくるものだから、止まらなかった。
頼んだばかりの熱々の料理は手を付けられることがないまま、どんどん冷めていく。
「そ、それで、どうなったんだい?」
ハッと気づくと、何やら疲れたようなフリーダヤの問いかけに、ようやくルシウスは我を取り戻した。
既に、昼食の時間からおやつの時間も過ぎて夕方になり、そして夕飯の時間帯になっている。
この間、ルシウスはずーっと喋りっぱなしだった。
昼前にお魚さんモンスターを倒した後は、冒険者たちは思い思いの時間を過ごしている。
今はこの食堂で、酒を飲みながら歓談している者が多かった。
「あなたの大好きな人のことは、それでおしまい?」
それまで、相槌を打っていたフリーダヤとは対照的に椅子に座って目を瞑って話を聞き続けていた聖女のロータスが、ゆっくり盲目の目を開いて問いかけてきた。
フリーダヤ、ロータス、そしてルシウス。
三者三様でそれぞれ頭部、足元、腰回りに環が浮き出ている。
少し考えて、ようやくルシウスは自分なりの答えに辿り着いた。
「僕の想いは……重たすぎたようです。そっか。だから我が最愛は僕が嫌い……なんだろうな」
これまで、あまり考えないようにしていたのに。
何となくお兄ちゃんから距離を置かれるたびに、自分の中のブラックボックスに押し込め続けてきたものだ。
「いや、自分で気づけて何よりだよ。むしろ、今まで誰も君に教えてくれなかったの?」
「うちの一族は、その……皆揃ってこだわりが強いので、僕もそんなに目立たなかったというか」
むしろ、程度の差はあってもだいたい同じだったかも。
特にリースト伯爵家の兄弟はどちらも麗しいこともあり、弟のルシウスが兄カイルに引っ付いている姿を皆が微笑ましく見守ってくれていたように思う。
(兄さんもそんなにあからさまに僕を邪険にはしなかったけど。だから僕も兄さんに甘え続けたら、最後にはいても諦めて側にいることを許してくれてたんだ)
だから何となくルシウスも兄に甘えたまま、今日現在まで来てしまった。
「あなた、その人から離れたほうがいいわ。完全な離別の必要はないけど、せめて違う場所に住むとか、距離を作ったほうがいい」
「……そうですね。故郷に戻れば別宅もあるので、いろいろ考えてみます」
何にせよ、まだココ村支部の問題が片付いていない。
ルシウスがアケロニア王国に帰還できるのは、だいぶ先のことになるだろう。
「フリーダヤ。あの子の鑑定分析はできた?」
「鑑定自体はできるけど、彼、どういうわけかステータスの数値や項目の大半がバグってるんだよね」
ロータスに訊かれた魔術師のフリーダヤは両肩をすくめた。
フリーダヤは人物鑑定スキルの上級ランク持ちだが、それでもルシウス少年のステータスは半分も読めなかった。
「それには理由がある。訳は本人に聞いてくれるか」
後から戻ってきた髭面ギルマスのカラドンが汗を拭き拭き、後ろから声をかけてくる。
「ルシウスは?」
「解体場でデビルズサーモンを捌いてるぜ」
しばらくすると、お目当てのルシウスが討伐報酬のお魚さんの魔石も受付で納め終え、捌いたデビルズサーモンの切り身をバットにのせて元気いっぱいで食堂に入ってきた。
「やあ、お疲れ様」
「あ、お疲れ様でーす!」
先にフリーダヤとロータスが食事をしていて手を振ってきたので、ルシウスは自分もオヤジさんに定食を頼んで彼らのテーブル席へ向かった。
そこで定食が出来上がるまでの間に、またトン、とロータスに額にやられたのだ。
気づくとまたルシウスの腰回りには環が出ている。
「そろそろかな」
「そうよ。……あなた、頑固すぎるわ。もっと柔らかな生き方をなさい」
ロータスの嗜めるような言葉がルシウスの中を素通りしていく。
「この子、人としておかしなところは何もないのに、どうしてこんなに環の効きが悪いのかしら」
「変な執着も感情の問題もなさそうなのにねえ」
「隠れ偏屈なのかしら」
「案外、人に言えない趣味を持ってたりとか?」
何やら散々言われている。
「あれ? いやちょっと待って……え? えええ?」
「どうしたの? まあこのお兄さんたちに話してご覧よ」
何だかすごいムズムズする。
普段はあまり考えないようにしていた感情の奔流が内側から溢れ出してきそうだ。
「デビルズサーモン定食、お待ち!」
料理人のオヤジさんが定食のプレートを持ってきてくれたが、止められない。
そのまま居てもたってもいられず、怒涛のように己の唯一、最愛への愛を語り始めた。
そう、『大好きなお兄ちゃん』への想いだ。
「えっ。……やだ、なにこれ!?」
慌てて自分の両手で自分の口を塞いだが、衝動が抑えられない。
その上、これまたフリーダヤが絶妙なタイミングで相槌を打ってくるものだから、止まらなかった。
頼んだばかりの熱々の料理は手を付けられることがないまま、どんどん冷めていく。
「そ、それで、どうなったんだい?」
ハッと気づくと、何やら疲れたようなフリーダヤの問いかけに、ようやくルシウスは我を取り戻した。
既に、昼食の時間からおやつの時間も過ぎて夕方になり、そして夕飯の時間帯になっている。
この間、ルシウスはずーっと喋りっぱなしだった。
昼前にお魚さんモンスターを倒した後は、冒険者たちは思い思いの時間を過ごしている。
今はこの食堂で、酒を飲みながら歓談している者が多かった。
「あなたの大好きな人のことは、それでおしまい?」
それまで、相槌を打っていたフリーダヤとは対照的に椅子に座って目を瞑って話を聞き続けていた聖女のロータスが、ゆっくり盲目の目を開いて問いかけてきた。
フリーダヤ、ロータス、そしてルシウス。
三者三様でそれぞれ頭部、足元、腰回りに環が浮き出ている。
少し考えて、ようやくルシウスは自分なりの答えに辿り着いた。
「僕の想いは……重たすぎたようです。そっか。だから我が最愛は僕が嫌い……なんだろうな」
これまで、あまり考えないようにしていたのに。
何となくお兄ちゃんから距離を置かれるたびに、自分の中のブラックボックスに押し込め続けてきたものだ。
「いや、自分で気づけて何よりだよ。むしろ、今まで誰も君に教えてくれなかったの?」
「うちの一族は、その……皆揃ってこだわりが強いので、僕もそんなに目立たなかったというか」
むしろ、程度の差はあってもだいたい同じだったかも。
特にリースト伯爵家の兄弟はどちらも麗しいこともあり、弟のルシウスが兄カイルに引っ付いている姿を皆が微笑ましく見守ってくれていたように思う。
(兄さんもそんなにあからさまに僕を邪険にはしなかったけど。だから僕も兄さんに甘え続けたら、最後にはいても諦めて側にいることを許してくれてたんだ)
だから何となくルシウスも兄に甘えたまま、今日現在まで来てしまった。
「あなた、その人から離れたほうがいいわ。完全な離別の必要はないけど、せめて違う場所に住むとか、距離を作ったほうがいい」
「……そうですね。故郷に戻れば別宅もあるので、いろいろ考えてみます」
何にせよ、まだココ村支部の問題が片付いていない。
ルシウスがアケロニア王国に帰還できるのは、だいぶ先のことになるだろう。