「最初、何も付けないで食うじゃん? 次に塩。レモン。ウスターソース。タルタルソースの順。で最後にソースとタルタルソースをたっぷり両方かけて、ガブっと」

 それが自分のアジフライのときの作法だと自信満々のギルマスのカラドンに、「わかる!」と頷く面々。
 派閥的にはウスターソース派とタルタルソース派で二分されている。

「アジフライおいしい」

 ルシウスの故郷アケロニア王国はあまり揚げ物のない国だった。
 過去に、加熱した油で調理した料理で全国的に食中毒が流行したことと、油脂の摂りすぎで魔力が乱れるという研究があり、文化的に非推奨の食事に指定されているのだ。
 多少、素揚げがあるぐらいで、パンや菓子に使うバターを除くと、炒め物やサラダに使う以外の油脂の用途は少ない。

 多分、帰郷してもココ村支部で食べているようには食せない気がするので、ここぞとばかりにフライ物に齧りついていた。

 何といっても釣りたて獲れたて捌きたてのアジだ。
 しかも今、真夏はアジの旬でもある。
 お魚さんも海の中でプランクトンなどの餌が豊富で肥えていて、身もしっかりしている。

 刺身や塩焼き、ソテーも美味だったが、やはりアジフライは格別だ。
 オヤジさんは短時間でカラッと揚げる派のようで、外はカリッと、中の身は蒸されてふわっと。

 ザクッと齧りつくと、白身魚ほど上品でなく、赤み魚ほど野暮ったくない。
 それでいて脂の乗ったふわふわ柔らかな身の旨みときたら堪らない。

 ルシウスもソース、タルタルソース、両方好きだが、

「お醤油でたべるアジフライ、すごくおいしい!」

「「「その手があったか!」」」

 目から鱗とばかりに、今までなかった味変に一同ビックリしている。

「俺の故郷だと、大根おろしと醤油で食べる派もいたねえ。……いるかい?」

「「「お願いします!」」」

 それで、さっそく用意してもらった大根おろし+醤油で食べるアジフライに、皆して新しい境地に開眼していた。

「僕、大根おろしでさっぱり食べるの好きー」

 おやつ感覚で何枚もいけてしまう。

「刺身と同じ魚だしね。醤油で合わないわけがないのさ」

 オヤジさんの至言、きた!



 今回、締めは2種類用意されていた。

 ひとつめは、アジのユッケ丼。
 薬師リコから薬師スキルの伝授を受けて、生卵の浄化ができるようになったとのことで、コチュジャンという甘辛い唐辛子味噌で和えた生のアジの細切りを、刻み海苔を敷いたご飯の上へ。
 後はたっぷりの小口ネギと胡麻油を少々、真ん中に生卵の黄身をのせて白胡麻をぱらり。


 ふたつめは、焼きアジのほぐし身を使った炊き込みご飯で、そのままでも良いし、出汁茶漬けにアレンジも可能だ。

「他のメニューが良ければ言ってくれたら作るからね」

 とオヤジさんは言うが、この頃になると皆はもう悟っている。
 オヤジさんがそのときに作ってくれるものが一番美味しい!

 ユッケ丼と炊き込みご飯だと、味がバトルってしまう気がする。
 炊き込みご飯は明日の朝に持ち越しも可能だとのことなので、大半はユッケ丼を選択した。

 新鮮なとろ〜んとした黄身に絡む、これまた新鮮なコチュジャン和えのアジ。
 そこに胡麻油のコクと香ばしさ。海苔の磯の香り。

「今日もオヤジさんのごはんがおいしい。しあわせ」

 頬っぺたをピンク色に染めて、至福に浸る。

 コチュジャンはちょっと辛かったが、甘みの強い調味料で、オヤジさんが強い辛味の苦手なルシウス用に量を調整してくれたこともあって美味しくいただくことができた。



 今日も美味しいごはんをたくさん食べて、ふわんふわんした気分で寝ぐらの宿直室へ戻ろうとしたところ、薬師リコに手招きされた。

「ルシウス君だったか? これな、フリーダヤから頼まれてた綿毛竜(コットンドラゴン)の翼から作った特殊ポーションな。日持ちしないから寝る前にでも飲んで」

 忘れてた。
 先っぽをパキッと折って飲むタイプのアンプル型ポーションを受け取って、ちょっとルシウスは途方に暮れた。

「……これ、飲まないとダメかな?」
「別に儂は構やしないけど。でも飲まなきゃ素材にした翼は無駄になっちまうねえ」
「うう……」

 パキッとアンプルを折って、目をぎゅっと瞑ってその場で中身を一気飲みした。
 味はしない。無味無臭だ。

 ピコン

 ステータスに変化が起きたことを知らせるお知らせ音が聞こえた。

「竜種の加護は付いたかい?」
「付いた! 『綿毛竜(コットンドラゴン)の恩人』と『竜種の加護』ふたつ!」

 おおお、と歓声が上がる。
 知性ある魔物の代表格、竜の恩人ときたか。

「またアケロニア王国に報告書を書かなきゃな。ルシウスのパパさん、喜ぶだろうな〜」

 このお子さんはいったいどこまで成長するのだろう。

 楽しみだけどちょっと怖いと思うギルマスのカラドンなのだった。