「今日も……これだけ……?」


 ちゃりん、と受付嬢から渡された小銀貨と銅貨数枚。


「こ、今回はデビルズサーモン一匹だけですから!」


 来襲するお魚さんモンスターは、多いときもあれば少ないときもある。

 今日は少ないほうで、ルシウスが討伐したお魚さんも一匹だけ。


「そっかあ。……今日もご飯は一番安いC定食かあ……デザートもなし……」
「う……」


 ひしひしと、侘しさが迫ってくる。


「おうち帰りたい……兄さんに会いたい……おうちのご飯(サーモンパイ)が食べたいよう……」
「う、うう……っ」


 ルシウスの湖面の水色の大きな瞳が、潤んで今にも涙を零しそうになるのを見て、もう受付嬢は限界だった。

 ちょっと待っててね! とルシウスに言い置いて、受付後ろの事務室に駆け込んだ。
 そこでは責任者兼管理職のはずのギルドマスターが慣れない書類仕事を頑張っている。


「ギルマスー! ギルドマスター! もうあたし無理です、これ以上は無理ー!」
「仕方ねえだろ、あんま調子乗らせねえよう締め上げとけって言われてるんだからよ!」


 冷や汗ダラダラ流しながら言い訳する髭面ギルドマスター。



 アケロニア王国のグレイシア王女様からは、ルシウスを甘やかさずやってくれとの手紙を受け取っている。


『世間知らずの甘ったれに社会というものを教えてやってほしい』


 とのこと。

 まだ学生の子供だが、実力は折り紙付き。
 戦力として存分に使ってくれて構わないとのこと。

 その代わりに社会性を叩き込んでやってほしいということのようだ。


「アケロニアのリースト伯爵家って、確か魔道騎士団の団長を出した家ですよね?」
「今は現役を退いて顧問らしいがな。ルシウスの親父さんだそうだ」


 アケロニア王国は魔法と魔術の大国で、優秀な魔力使いが揃っている。

 ルシウスのリースト伯爵家は建国期からの名家で、他国のここゼクセリア共和国でもそれなりに有名な家だった。

 ましてや、ここは冒険者ギルドだ。
 世界各国の有力者たちの情報データベースはよく把握している。


「一人前の魔法剣士を一人派遣してもらうと、普通はお高いですよね……」
「今回はまだ未成年の学生だからということで、格安派遣だ。あちらさんのお国的には、ちょっとした社会勉強で寄越したぐらいの感覚なんだろうよ」


 とんでもない話である。

 アケロニア王国の王女様は、ルシウスの価値と実力をよく知っていた。

 その上で、『火力強めで一騎当千のやつ』を派遣しているのだが、冒険者ギルドのココ村支部の皆さんが本当の真実を知るのはもうちょっと後のことになる。