何にせよ、彼らの系列でルシウスが会うのは4人目になる。

 ハスミン、フリーダヤ、ロータス。そしてリコ。

 多分、これまで会った中では一番、一般人に近い。能力的にも価値観的にも。

 もう料理人のオヤジさんへのレクチャーは一通り終わったそうで、冒険者たちと一緒に少し酒を入れつつ夕飯にするところだったそうだ。

(リンク)使いって、全員が魔力使いかと思ってました」
「儂は元は北部の実業家でね。病気で死にかけてたところを聖女ロータス様に救ってもらったんだ」
「そのまま実業家は続けなかったの?」
(リンク)に目覚めた後、実業家としての儂の使命はもう終わったなって感じたんだよね。しばらくファミリーの仲間たちと一緒にいろいろ試して、一番向いてたのが薬師だったんだ」

 以前リコが持っていた資産などは大半を処分して寄付したが、僅かに残った屋敷や金銭は別のファミリーが管理人として管理を続けているそうだ。

 ライスワインの小さなグラスを片手に、アジの刺身やたたきに舌鼓を打ちながらリコが話してくれた。



 今日は集まっている冒険者の数がいつもより多かったので、料理人のオヤジさんがブッフェ形式にしてくれている。

 ルシウスとフリーダヤが釣ってきたアジは大型のクーラーボックスから溢れるほどあったので、必然的にアジ祭りとなった。

 刺身やたたきは、たっぷりの生姜や大葉、ネギなどと一緒に大皿へ。
 醤油やポン酢、あるいはレモンなどお好みのタレで食べる。

 シンプルな塩焼きも、頭を落としたものが並んでいる。
 これは必ず押さえておきたいやつ。アジを一番素朴に味わえる。

 他にソテーや、甘辛い醤油タレの蒲焼きもある。

 エスカベッシュという、白ワインビネガーで作るアジのマリネはビール派やワイン派たちに人気のようだ。

 アサリと一緒に煮込んだアクアパッツァもなかなかの人気だ。

「すり身でつみれ汁もあるよ。浜大根入り」
「つみれ!」

 よくイワシなどを近場の漁師が売りに来たとき作ってくれるやつだ。
 味噌味スープがとても美味しいが、今回は塩味のスープのようだ。
 アジのつみれは今回ルシウスも初めて食べる。どんな味がするのだろう?

 なお、浜大根は浜辺に生えている大根の野生種だ。
 生だと苦味と渋味があるが、加熱するとふつうに食べられる。



「いやいや、飯が美味くてビックリしたよね。ゲンジ君には薬師スキルも伝授したから、今後は回復機能のある薬膳メニューを開発してくれるんじゃないかな」

 アジ料理にご機嫌の薬師リコが爆弾を投下した。

「回復機能ってつまり……」
「ただでさえ美味いオヤジさんのメシが……」
「ポーション化する、だと……?」

 それもう最強じゃん、と冒険者たちが戦慄している。



 そうして皆が夕飯を楽しんでいると、オヤジさんがまた厨房から新たな料理を持ってきた。

 大皿に盛りに盛られたそれは、アジフライ。
 カラッとキツネ色に上がったそれは、匂いからして殺人級だ。
 添え物のキャベツスライスなど新鮮サラダもたっぷりと。

「ソースかタルタルソース、好きなほうで食べてね」

 とカットレモンも添えて、希望者にアジフライを配膳していくオヤジさん。
 アジフライの山がみるみるうちに消えていく。

 基本、オヤジさんが作る料理は何でも安定して美味いのだが、フライ物のときのオヤジさん特製のタルタルソースはヤバかった。

 ふつうのタルタルソースだと、マヨネーズに玉ねぎやパセリのみじん切りを入れて、茹で卵のみじん切りは入れたり入れなかったり。

 オヤジさんの場合、玉ねぎは酢漬けの浅漬けで、さらにオリーブオイル漬けのニンニクを刻んだものが少し入っている。
 そこに玉ねぎを漬けていた酢や、ニンニクを漬けていたオリーブオイルでマヨネーズを少々伸ばし、今回は茹で卵も加えたバージョン。

 レモンはお好みで各自で絞るので、タルタルソースには入っていない。