ポーションなど薬は一階フロアにあるので、とりあえずルシウスを食堂まで連れて行くことにした女性二人だ。
 幸い、日焼けが痛いだけで、歩けないほどの怪我などはない。

 どうしたどうした、と既に酒が入っていた男たちの中から魔術師のフリーダヤがやってくる。
 クレアやハスミンに椅子の背もたれを抱くように座らされて、シャツを脱がされた半裸のルシウスの背中を見て、あっという顔になっている。

「日焼けか! これは気が付かなかったなあ」
「我が師よ、どうしてちゃんと日焼け避けしてあげなかったの……」
「一応ボートに日除けはかけてたんだけどね。暑いからってTシャツ脱いで泳いでたりしたからなあ」

 半日ずっと。
 そして今は、夏真っ盛りの8月。
 冷風装置は近くに置いていたものの、よく熱中症にならなかったというところだ。

「それ真夏日に一番アカンやつ……」

 冒険者の誰かか呟いた。

 一同が治癒魔法の使える聖女のロータスを見るも。
 当のロータスはアジの骨煎餅を咥えて、却下してきた。

「見たところ、命に別状があるわけではない。抗炎症の軟膏があるでしょ、塗って数日で治るわよ」
「日焼けの炎症はアロエが効くぞ!」

 唐突に出てきた赤ら顔の丸っこいオッサンが、べろーんと幅広のアロエの葉っぱを持って厨房のほうから掛け寄ってきた。

「え、誰?」

 初めて見る顔だ。
 短い癖っ毛の黒髪に丸顔で、頬の肉も発達して皮膚がツヤツヤで酒焼けの赤ら顔。
 体型も、シャツやズボンの下の肩や太腿に分厚い筋肉が付いていて、全体的に丸っこい印象の壮年男性だ。
 背は高めだが、陽気な笑い顔をしているので威圧感のようなものは感じさせない。

「儂は薬師リコという。聖女のロータス様の弟子だよ」
「あ、そういう繋がりですかー」

 ということは、魔術師フリーダヤと聖女ロータスのファミリーの一員だ。

 その薬師リコはその場でナイフを使ってアロエの半透明の果肉を切り出し、両手で絞り出した汁をルシウスの日焼けで真っ赤になった肌に塗りこんでくれた。

「お前さん、夏は暑くても外に出るときは長袖のシャツを着るか、断熱と冷涼付与のある装備を付けなきゃ駄目だよ。ここは海辺だから内陸よりは涼しいけど、やっぱり注意しないとね」
「はあい」

 まともな注意に、さすがに反論できなかった。油断していたルシウスが悪い。
 もっというなら、ずっと年上のフリーダヤが気を付けてやればここまでにはならなかったはず。

「アロエはここのギルドの周りにも生えてたね。もしまた日焼けや火傷するようなら、朝晩塗るといいよ」
「ありがとうございます!」
「日焼けしてしばらくは、頭がカッカすることもあるから、アロエの入ったジュースを何日か飲んどくといい。レシピをゲンジ君に教えておくからさ」

 ちなみにゲンジ君というのが、料理人のオヤジさんの名前である。



 薬師リコに塗ってもらったアロエの効果は抜群だった。
 その場でじんじんとした痛みがスーッと引いていく。
 聞けば、身体の熱をスムーズに取ってくれる薬草だそうで、火傷用のポーションに使われることも多いそうだ。

 その薬師リコはルシウスたちがボートで海上に出た後の今日の朝にギルドに到着して、それからずっと料理人のオヤジさんに薬師のレクチャーをしていたらしい。

「儂は忙しくてな。地元に患者も待ってるし、すぐトンボ帰りしなきゃらんのよ。すまんね」

 この後、夕食だけココ村支部で食べた後、またすぐ薬師として活動している円環大陸の北部まで戻らなければならないらしい。

「えっ。北部からココ村のあるここって、かなり距離ありません!?」

 ココ村のあるゼクセリア共和国は南西部にある。
 北部から南西部。とても遠い。
 ルシウスの故郷アケロニア王国は北西部だから、更にその先だ。
 ちなみに、アケロニア王国からココ村までは、高速用の馬車でかっ飛ばしても一週間以上かかる。

「師匠に空間転移で連れてきてもらったのよ。儂はそこまで魔力がないからさ」
「くうかんてんい」
(リンク)使いで魔力の多い者は、空間を飛び越えて遠いところまで移動できるのさ」
「なるほどー」

 アイテムボックスが使えるほどだ。
 それも(リンク)使いの特典のようなものか。

 空間転移は使えたら便利そうだ。
 少しまた、ルシウスは(リンク)への興味を覚えた。