海底に沈んでいた黒い魔石群から放たれる邪悪な魔力で、海の中で回遊していた魚や、海底を歩いていた海老や貝などが禍々しい魔力を帯び巨大化した瞬間を目撃した。
 人間の脚はその時点で生えている。

 お魚さんモンスターたちはボート上のルシウスとフリーダヤを襲うことはなく、ココ村海岸を目指していった。
 あとは海岸で冒険者たちが討伐するいつものやつだ。

 二人は念のためしばらく海上に留まり、第二波がないことを確認してまた魚釣りに戻った。

 そこからはアジが爆釣れだ。
 銀色や金色に光るアジは、お魚さんモンスターが来襲して過疎化するまでは、ミスリルアジやオリハルコンアジと呼ばれ、ブランド魚としてココ村の貴重な収入源だったと聞く。


 ルシウスたちが冒険者ギルドに戻ったのは午後の2時過ぎ。
 昼食も終わり、料理人のオヤジさんは休憩に入ったそうで、食堂にはいなかった。

 フリーダヤもロータスを探しに行ってしまったので、ルシウスは厨房を借りてアジの下拵えだけしておくことにした。
 いつもオヤジさんがルシウスたち冒険者に出してくれる料理を参考にすれば、そう難しくない。

 三枚おろしにして、食べ応えのありそうな大きなものは刺身用に皮を剥いでバットへ広げておく。

 小さめのものは唐揚げやフライ用。
 エラやウロコにゼイゴ、内臓、背骨小骨を除去して背開きにしておく。

 背骨と、背骨周りに残った身は塩を少しだけ振って、ザルに乗せて風通しの良い日陰で少し乾かしておく。
 ちょうど裏口を出たところに専用の、虫除けの網のかかった棚があるのでそちらへ。
 酒飲みの大人たちはこの手の骨近くの身を炙って焼いたものが好きなのだ。

「アジ、すき。海の近くだとこんなにお魚が美味しいって初めて知ったよね」

 ルシウスの故郷は、鮭が名産だけあって川はあるが海はない。
 川魚は鮭はともかく淡白な味のものが多いので、アジのような脂の乗った魚とはまるで違う。

「焼き魚も絶対美味しいやつ〜♪」

 こちらはウロコを洗い落とし、内臓だけびゅいっと抜いておく。

 あとは冷蔵庫へ保存しておけば料理人のオヤジさんが美味しく調理してくれるはずだ。

 気づけば時刻は3時を回っている。
 今日は早朝から休みなく海上で動いたので疲れた。
 ドリンクコーナーからおやつ代わりにスイカのスムージーをゴクゴクして、夕飯の時間までシャワーを浴びて汚れを落としてから宿直室でお昼寝することにした。



 夜になって、姿の見えないルシウスを受付嬢のクレアと女魔法使いのハスミンが、夕飯に呼びに来てくれたのだが。

「うええ……せなか、いたいよう……っ」

 日焼けのダメージでルシウスがベッドの上、うつ伏せになってしくしく泣いていた。

「ルシウス君のおばか! 昼間にお外出るときはちゃんと日焼け止め塗らなきゃダメだって言ったじゃないですかー!!!」
「んまあ。顔も首から背中まで真っ赤じゃないの」
「いたいーあついー!」

 みーみールシウスが悲鳴をあげていて痛々しい。

「日焼け止め塗ってたもんん……」

 塗らないと、この二人がタッグを組んでくまなくべったり塗りに来るので、渋々ちゃんと自分で塗るようにはしていた。

 ただ、半日以上も海上にいたので、汗と海水ですっかり落ちてしまっただけだ。

「あちゃあ。熱、結構持っちゃってますね。ルシウス君の治癒力なら明日には治ってそうですけど……とりあえず下に行って冷やしましょう」