面白いことに、環を出している間は、普段フリーダヤに感じていたイラッと感が見当たらなかった。
「まだ環を出せている今のうちに、何か私に訊きたいことはあるかい?」
そう言われてみると、やはり質問はこれだろう。
「結局、環っていうのは何なんですか?」
「それ、やっと訊いてくれたねえ」
やっとも何も、勝手に人に覚醒だの何だの伝授してくる危ない人たちだから、ルシウスは近寄りたくなかっただけだ。
「一番広い概念としては、自分が世界そのものであることを思い出すための術式だ。特に人間は個人として個性的になるほど自然から離れてしまったからね。自然回帰の術というのが、まず第一」
え、そんなに大きな話だったの? とルシウスは驚いた。
予備知識では、新世代の魔力使いたちが使う環は、魔力を自力以外からの外部調達を可能にする術式だったと記憶している。
観念的な話なのかといえば、この口調だとそうでもなさそうだ。
彼と同じ環を自分も腰回りに出しているお陰なのか、フリーダヤの言葉はそのまま額面通りに受け取っても良いような気がした。
「発現条件が『執着をなくすこと』ってどういうこと?」
「自分と世界を隔てている枠を取っ払えってことなんだ。ふつうは執着を環を使いたいときだけ止める。人間の執着は言葉や感情、身体の感覚などと複雑に絡みついているから、人によって執着の引き金になっているものは違う」
とりあえず単純に“執着を止めろ”とだけ指示して、どのような反応を相手が見せるかで、必要な指導を変えていくという。
「現代人は思考で頭が一杯になっていることが多いから、頭の中の言葉を止めさせることが多いね」
「もしかして、ロータスさんが僕のおでこを突いたのもそれ?」
「そう。その瞬間、ビックリして頭の中が真っ白になっただろ? そこを狙って、既に環が使える者の魔力を流すと、わりと簡単に発現させることができる」
「なるほど……だからいきなりだったんですね……」
前触れがあったら、ルシウスとて構えてしまっただろうし。
「環のメリットは、他者や外界といった環境から魔力を調達できることにある。実際は自分こそが世界なわけだから、現象的には世界が個である自分を自然と助けてくれるように見える」
釣り竿の先が反応している。魚がかかったようだ。
フリーダヤが釣り竿を操って釣り糸を引き寄せると、先には中サイズの銀色のアジがかかっていた。
手早く釣り針を外して、アジは氷と海水の入ったクーラーボックスに放り込んで氷締めだ。
「ちなみにこれ、釣り針に餌は付けてない。餌なしでも魚が釣れる。それが環使い」
「ほんと!? それはすごい!」
また釣り針を遠くに投げている。確かに餌も何も付いていなかった。
待つこと数十秒。
浮きが反応したので釣り糸を手繰り寄せてみると、やはりアジが食いついていた。今回はちょっと小型だ。
「じゃあ、環が使えると、何でも願いごとが叶うってこと?」
「そう上手くいくものでもない。人間の人生は、生まれ持った肉体や精神と、外部環境との兼ね合いで決まってくるからね」
ちなみにそういった、人間の宿命や運命を見るための手法に占術がある。
本来占い師のハスミンは、その領域の研究を行っているそうな。
具体的に人生に現世利益をもたらす手法については、魔力使いたちの一族それぞれが秘伝を抱える傾向にある。
古い時代なら、呪師、呪術師と呼ばれる者たちが、呪詛とともに請け負っていたとされる。
「まだ環を出せている今のうちに、何か私に訊きたいことはあるかい?」
そう言われてみると、やはり質問はこれだろう。
「結局、環っていうのは何なんですか?」
「それ、やっと訊いてくれたねえ」
やっとも何も、勝手に人に覚醒だの何だの伝授してくる危ない人たちだから、ルシウスは近寄りたくなかっただけだ。
「一番広い概念としては、自分が世界そのものであることを思い出すための術式だ。特に人間は個人として個性的になるほど自然から離れてしまったからね。自然回帰の術というのが、まず第一」
え、そんなに大きな話だったの? とルシウスは驚いた。
予備知識では、新世代の魔力使いたちが使う環は、魔力を自力以外からの外部調達を可能にする術式だったと記憶している。
観念的な話なのかといえば、この口調だとそうでもなさそうだ。
彼と同じ環を自分も腰回りに出しているお陰なのか、フリーダヤの言葉はそのまま額面通りに受け取っても良いような気がした。
「発現条件が『執着をなくすこと』ってどういうこと?」
「自分と世界を隔てている枠を取っ払えってことなんだ。ふつうは執着を環を使いたいときだけ止める。人間の執着は言葉や感情、身体の感覚などと複雑に絡みついているから、人によって執着の引き金になっているものは違う」
とりあえず単純に“執着を止めろ”とだけ指示して、どのような反応を相手が見せるかで、必要な指導を変えていくという。
「現代人は思考で頭が一杯になっていることが多いから、頭の中の言葉を止めさせることが多いね」
「もしかして、ロータスさんが僕のおでこを突いたのもそれ?」
「そう。その瞬間、ビックリして頭の中が真っ白になっただろ? そこを狙って、既に環が使える者の魔力を流すと、わりと簡単に発現させることができる」
「なるほど……だからいきなりだったんですね……」
前触れがあったら、ルシウスとて構えてしまっただろうし。
「環のメリットは、他者や外界といった環境から魔力を調達できることにある。実際は自分こそが世界なわけだから、現象的には世界が個である自分を自然と助けてくれるように見える」
釣り竿の先が反応している。魚がかかったようだ。
フリーダヤが釣り竿を操って釣り糸を引き寄せると、先には中サイズの銀色のアジがかかっていた。
手早く釣り針を外して、アジは氷と海水の入ったクーラーボックスに放り込んで氷締めだ。
「ちなみにこれ、釣り針に餌は付けてない。餌なしでも魚が釣れる。それが環使い」
「ほんと!? それはすごい!」
また釣り針を遠くに投げている。確かに餌も何も付いていなかった。
待つこと数十秒。
浮きが反応したので釣り糸を手繰り寄せてみると、やはりアジが食いついていた。今回はちょっと小型だ。
「じゃあ、環が使えると、何でも願いごとが叶うってこと?」
「そう上手くいくものでもない。人間の人生は、生まれ持った肉体や精神と、外部環境との兼ね合いで決まってくるからね」
ちなみにそういった、人間の宿命や運命を見るための手法に占術がある。
本来占い師のハスミンは、その領域の研究を行っているそうな。
具体的に人生に現世利益をもたらす手法については、魔力使いたちの一族それぞれが秘伝を抱える傾向にある。
古い時代なら、呪師、呪術師と呼ばれる者たちが、呪詛とともに請け負っていたとされる。