冒険者ギルド、ゼクセリア共和国ココ村支部は危機に瀕していた。

 本気でヤバかった。

 ギルドマスターも職員たちも、顔を合わせれば「ここマジヤバい」が口癖になるほど。ココ村支部なだけに。

 どのくらいヤバいかというと、存続の危機だ。

 不規則に大量発生する魔物。

 ゼクセリア共和国という国がまだ新しく、予算を割けない状況。
 いつ魔物がくるかわからないが、だからと言って冒険者たちを常駐させるだけの予算もない。

 手詰まりだったが、冒険者ギルドはこの世界にある唯一の大陸、円環大陸全土にネットワークのある機関だ。

 しかし、助けを各国に求めたが、なかなか高ランクの冒険者たちが集まらない。


「もうダメぽ……」


 受付嬢まで受付カウンターに突っ伏して涙するぐらい酷い有様であった。

 サブギルドマスターは、ゼクセリア共和国の首都に行って、ココ村支部の苦境を首脳部に訴えに行っている。
 そろそろ半月になるが、良い連絡はまだない。



 そんな僻地の冒険者ギルドに、救世主がやってきた。

 名前はルシウス。
 まだ十四歳の少年だ。

 青みがかった銀髪を少年らしく短く切り揃え、湖面の水色の瞳を持つ、何とも麗しい容貌のやや小柄な美少年である。

 アケロニア王国という円環大陸の北西部にある魔法と魔術の大国からやってきた魔法剣士だった。

 来歴を確認すると、リースト伯爵家の次男でお貴族様ときた。



 彼を派遣してきたのは、アケロニア王国の王女グレイシア。

 書状には、アケロニアも今はなかなか他国に人員を避けないことの謝罪がまず述べられていた。


「そうか……同盟国のタイアドと戦争するかもしれねえのか。そりゃ、確かに厳しいよな」


 アケロニア王国にとって、タイアド王国は先王ヴァシレウスの王女、今の国王テオドロスの姉にあたる人物が輿入れしている。

 だが嫁入り先の王家で粗末な扱いを受けて早逝してしまっているので、以来両国の関係はものすごく悪い。


「『その代わり、火力強めで一騎当千の者を一人向かわせる』か。まだ幼く人間的に未熟だが、実力は保証する、と。まあ確かに強かったな」


 髭面大男のギルドマスターは、一階フロアの討伐品の売却・換金所を見た。
 そこでは、今日も討伐されたばかりのお魚さんモンスターの魔石を鑑別する職員を、ルシウス少年が楽しそうに見学している。

 本人はまだ子供で好奇心旺盛。

 フットワークが軽く、魔物が来れば即動ける。

 来ないときには適当に好きなことをやって遊んで時間を潰していて、刺激のない海岸沿いの冒険者ギルド内にいても、特に飽きた様子もない。

 何より強い。年齢を考えると有り得ないほど強い。
 お魚さんモンスターが30匹来たら、ルシウス一人で半分は倒してしまう。


「もう一生、アケロニアの王女様にゃ頭上がらねえかもなあ……」


 何でこんな子供を、と憤りを感じていた時間は本当に最初の、ほんの僅かな時間だけだった。

 可愛い顔して、すごくやる。



 ただし、この子供には少々面倒くさい説明書が付いていた。


『実力は我が国が自信を持って保証する。キリキリ働かせてくれたまえ』


『その代わり、世間知らずの甘ったれにしっかり社会というものを教えてやってほしい』


 優秀だからといってVIP待遇にはしなくて良い、という手紙が書状に添えられていたのだ。

 むしろ、ガンガンに厳しめで構わないとのこと。


「厳しめったってなあ。来て一週間も経たねえのに、すっかりうちのエースなんだけど」


 髭面ギルドマスターは頭を掻きながら、「ま、考えてみるか」と頭を捻ることにした。