夏も終わりの8月下旬。
「ランクアップおめでとさん。ルシウス・リーストをAランクに昇格する!」
「ありがとうございます!」
来る日も来る日もお魚さんモンスターを討伐しまくって早2ヶ月。
最低ランクからスタートしたルシウスも、ついにAランクまで冒険者ランクが上がった。
夕方、髭面ギルマスのカラドンに呼び出されたと思ったら、まさかのランクアップ。
そして冒険者証も更新されたのだった。
ランクアップしたからどうということはないのだが、異例のハイスピード昇格で他の冒険者たちからは、やっかみ混じりで散々に揉まれた。
「くそー先越されたあああ!」
「えへへ。お先にごめんね!」
そして食堂では、何と料理人のオヤジさんがお祝いにスイーツを作ってくれたのである。
「気に入ってくれるといいんだけど」
と控えめなオヤジさんが差し出してきたのは、ホールのゼリーケーキだった。
鮮やかなエメラルドグリーンのゼリーの中に、海藻や岩が色付きのキャンディーやクリーム、チョコレートで作られていて、更に。
「お魚さんが泳いでるー!?」
そう、こちらもゼリーやフルーツで様々なお魚さんがエメラルドグリーンの海の中を泳いでいる。
そんなゼリーケーキだった。
オヤジさんは料理だけでなく、製菓もいけるお人だったのだ。
「わあ、鮭、鮭がいる!」
「こっちはカニと海老か!」
「これ鯛か。まさにめで鯛ってやつ〜」
そして夕飯は、ルシウスの好きなサーモンパイだった。
ランクアップも嬉しい、お祝いケーキも嬉しい。
大好物まで出てきてもう大興奮だ。
食後は皆でメロンソーダ味のゼリーケーキを美味しくいただいて、さあ解散というところで。
「ルシウス。ランクアップのお祝いに私からアイテムボックスを授けようと思うんだけど、受け取ってくれるかい?」
魔術師フリーダヤがにこやかに笑いながら来た。
「う。そ、そりゃ、欲しいなとは思うけど」
アイテムボックスは現状、環使いしか持てない。
それにアイテムボックスさえあれば、こうしておうちから離れていても、おうちで大切にしていたぬいぐるみや玩具も入れておける。
次々送られてくるせいで保管場所がなく、泣く泣く捨てざるを得なかったおうちのパパからのお手紙の束も持ち歩けるだろう。
でも、最近来たこの男と聖女は、どうにも要注意な気がする。
ルシウスの中の警報器が鳴りっぱなしなのだ。
「ルシウス君。環は使えて損はないのよ。アイテムボックスもあって困るものじゃないでしょ?」
「そりゃそうだけど」
それなりに親しくなっていた女魔法使いのハスミンの追撃。
さりげなく食堂の出入口への道を塞がれた。
しまった、逃げられない!
「そうそう、あると便利だからねー」
「だけど」
トン、とまた聖女ロータスに無言で額を突かれた。
「!」
ルシウスの腰回りに環が出現する。
いつもならすぐ消えてしまうルシウスの環に、フリーダヤが即座に片手を突っ込んだ。
「えっ!?」
「はいはい、アイテムボックス、組み込んでおいたからねー。これで私とロータス系列の環使いと物品その他のやり取りができるようになるから」
「アイテムボックスもこれで完備ね! バッチリ!」
フリーダヤとハスミンが盛り上がっている。
その傍らで聖女のロータスも満足そうだ。
「……本人の許可なく勝手なことするって、すごく印象悪いんですけど……?」
思いっきり眉間に皺を寄せて嫌そうな顔になる。
しかし環使いたちは、ルシウスの恨み節など聞いちゃいない。
結果、ますます、フリーダヤとロータスから逃げ回るルシウスなのだった。