「新手が来たぞー! デビルズサーモンだー!!!」
「サーモン? ……鮭か!」
鮭ならルシウスの大好物だ。
故郷アケロニア王国のルシウスのおうちの領地は鮭が名産品なのだ。
ルシウスも子供の頃から鮭漁を手伝い、日々おいしく食していた。
しかもこのデビルズサーモン、デカい。
年のわりにちょっと小柄なルシウスよりも大きい。
可食部はじゅうぶんである。いける!
色は普通の鮭より黒くて、表面がツヤツヤしているが気になるほどではなかった。
「川に登ってくる前の鮭って美味しいんだよねー」
黒光りするデビルズサーモンにも二本の脚が生えていたが、そこはあえて不問にするとしよう!
「あんな大っきい鮭倒せたら、兄さんに自慢できるじゃない! よーし行っくぞー!」
ギルドマスターや冒険者たちの後ろから、たたたっと素早く砂の上を駆けていく。
青銀の短い髪を風に靡かせて。
さくっとブーツの足が砂に沈む。
すぐに身体強化の術を使い、上手く重心移動して平地と同じように安定して砂の上を走れるよう工夫する。
「キシャアアアアアア!」
脚の生えたデビルズサーモンが吠える。
いや待って。鮭はそんな咆哮はしない。
「あ、顔や口はちゃんと鮭だね」
吠えるデビルズサーモンの大口には、ビッシリと鋭い歯が生えている。
「ルシウスー! そいつは肉食だ、噛まれると痛えぞ!」
ギルドマスターが慌てて、離れた場所から駆け寄ってくる。
「噛まれる前に片をつけるよ。せーの!」
ルシウスは鉄剣を左手に持ち替えて、右手で思いっきり、デビルズサーモンの頭をぶん殴った。
ボゴッ
ぶん殴られたデビルズサーモンは、そのまま海岸の砂の上に沈んだ。
ピクピクと両脚が痙攣している。
頭部は反対側に折れ曲がっているが、泡を吹いてるところを見ると、辛うじてまだ生きているようだ。
「ギルドマスター! お魚さんにトドメ刺すのどうしたらいいのー!?」
「他の魔物と一緒だ、心臓が魔力の核になってるから、そこを剣でぶっ刺せ!」
「了解でーす」
片手で持っていた鉄剣を両手で持ち、デビルズサーモンを蹴り飛ばして腹のほうを自分に向けた。
魚類の心臓は大抵、顔の下と胴体の境目あたりにある。
「ざくー」
躊躇なく突き刺した鉄剣を引き抜き、血液が溢れてくる寸前、デビルズサーモンの黒い巨大はパァッと一瞬だけ発光して消えてなくなった。
砂の上には、ルシウスの拳よりやや小さいぐらいのサーモンピンク色の魔石が落ちている。
「うん。やりかたはわかった」
魔石をウエストポーチに突っ込んで、まだ別のお魚さんたちと戦っている、ギルドマスターや冒険者たちを見る。
半数は討伐できたようだが、まだ半分残っている。
やはり脚があって俊敏に動く個体がいることと、足場の悪い砂浜での戦闘がネックのようだ。
お魚さん討伐、終了!
そこからはルシウス少年の独壇場だった。
軽い体重を生かして砂の上を俊敏に走り回り、お魚さんたちを身体強化した拳でぶん殴って回る。
そのまま自分が倒せそうなら、剣で急所の心臓をぶっ刺して魔石に変えていく。
冒険者たちに後を任せて良さそうなら、そのまま次のお魚さんへ。
海岸の強い日差しの下、青銀の髪が陽の光を反射してキラキラ輝いているのが何とも、可愛らしい容貌と相まって麗しい少年である。
そうして、何十匹といたすべてのお魚さんタイプの魔物を倒すまで、一時間とかからなかった。
「お、おいおい、ギルドマスター。何なんだあの坊主……」
嬉々として魔石を拾い集めているルシウスを、呆気に取られた冒険者たちが見つめていた。
「アケロニア王国の王女様お墨付きの助っ人だ。まだガキだけど、さすがに強いな、魔法剣士……」
しみじみ、髭面ギルドマスターが呟いた。
魔法剣士とは、魔力で生み出した魔法剣で戦う剣士のことで、魔法使いの亜種とされている。
この世界では、魔力使いは『魔法使い』と『魔術師』の二種類がいる。
魔法使いのほうが持っている魔力量が多く、多彩な術を使う。
魔術師は、魔法の下位互換である魔術の使い手だ。
とはいえ、魔術は魔力さえあれば誰でも使えるように必要魔力をセーブして術式を使いやすく構築したものなので、魔法使いでも魔術を使う者は多かった。
「ああー!? お魚さん、みんな魔石になっちゃったじゃん!? デビルズサーモンは!? 今晩は絶対にサーモン料理食べたかったのに!」
ルシウスが今さら気づいたように悲痛な叫びをあげていた。
「魚が食いたかったのか? 魔物の肉を残したい場合は心臓じゃないとこにトドメ刺さねえとダメなんだよ」
例えば、先ほどのルシウスのように、頭部をぶん殴ったときそのまま息の根を止めれば良いわけだ。
ふんふん、と髭面ギルドマスターの話を聞いたはいいものの、結局すべて心臓を刺して倒してしまった今回はお魚料理は無理そうだ。
ルシウスは残念そうな顔になって両肩を落とすのだった。
冒険者となって最初の戦闘は、こうして反省を残しつつも幕を閉じたのであった。
「サーモン? ……鮭か!」
鮭ならルシウスの大好物だ。
故郷アケロニア王国のルシウスのおうちの領地は鮭が名産品なのだ。
ルシウスも子供の頃から鮭漁を手伝い、日々おいしく食していた。
しかもこのデビルズサーモン、デカい。
年のわりにちょっと小柄なルシウスよりも大きい。
可食部はじゅうぶんである。いける!
色は普通の鮭より黒くて、表面がツヤツヤしているが気になるほどではなかった。
「川に登ってくる前の鮭って美味しいんだよねー」
黒光りするデビルズサーモンにも二本の脚が生えていたが、そこはあえて不問にするとしよう!
「あんな大っきい鮭倒せたら、兄さんに自慢できるじゃない! よーし行っくぞー!」
ギルドマスターや冒険者たちの後ろから、たたたっと素早く砂の上を駆けていく。
青銀の短い髪を風に靡かせて。
さくっとブーツの足が砂に沈む。
すぐに身体強化の術を使い、上手く重心移動して平地と同じように安定して砂の上を走れるよう工夫する。
「キシャアアアアアア!」
脚の生えたデビルズサーモンが吠える。
いや待って。鮭はそんな咆哮はしない。
「あ、顔や口はちゃんと鮭だね」
吠えるデビルズサーモンの大口には、ビッシリと鋭い歯が生えている。
「ルシウスー! そいつは肉食だ、噛まれると痛えぞ!」
ギルドマスターが慌てて、離れた場所から駆け寄ってくる。
「噛まれる前に片をつけるよ。せーの!」
ルシウスは鉄剣を左手に持ち替えて、右手で思いっきり、デビルズサーモンの頭をぶん殴った。
ボゴッ
ぶん殴られたデビルズサーモンは、そのまま海岸の砂の上に沈んだ。
ピクピクと両脚が痙攣している。
頭部は反対側に折れ曲がっているが、泡を吹いてるところを見ると、辛うじてまだ生きているようだ。
「ギルドマスター! お魚さんにトドメ刺すのどうしたらいいのー!?」
「他の魔物と一緒だ、心臓が魔力の核になってるから、そこを剣でぶっ刺せ!」
「了解でーす」
片手で持っていた鉄剣を両手で持ち、デビルズサーモンを蹴り飛ばして腹のほうを自分に向けた。
魚類の心臓は大抵、顔の下と胴体の境目あたりにある。
「ざくー」
躊躇なく突き刺した鉄剣を引き抜き、血液が溢れてくる寸前、デビルズサーモンの黒い巨大はパァッと一瞬だけ発光して消えてなくなった。
砂の上には、ルシウスの拳よりやや小さいぐらいのサーモンピンク色の魔石が落ちている。
「うん。やりかたはわかった」
魔石をウエストポーチに突っ込んで、まだ別のお魚さんたちと戦っている、ギルドマスターや冒険者たちを見る。
半数は討伐できたようだが、まだ半分残っている。
やはり脚があって俊敏に動く個体がいることと、足場の悪い砂浜での戦闘がネックのようだ。
お魚さん討伐、終了!
そこからはルシウス少年の独壇場だった。
軽い体重を生かして砂の上を俊敏に走り回り、お魚さんたちを身体強化した拳でぶん殴って回る。
そのまま自分が倒せそうなら、剣で急所の心臓をぶっ刺して魔石に変えていく。
冒険者たちに後を任せて良さそうなら、そのまま次のお魚さんへ。
海岸の強い日差しの下、青銀の髪が陽の光を反射してキラキラ輝いているのが何とも、可愛らしい容貌と相まって麗しい少年である。
そうして、何十匹といたすべてのお魚さんタイプの魔物を倒すまで、一時間とかからなかった。
「お、おいおい、ギルドマスター。何なんだあの坊主……」
嬉々として魔石を拾い集めているルシウスを、呆気に取られた冒険者たちが見つめていた。
「アケロニア王国の王女様お墨付きの助っ人だ。まだガキだけど、さすがに強いな、魔法剣士……」
しみじみ、髭面ギルドマスターが呟いた。
魔法剣士とは、魔力で生み出した魔法剣で戦う剣士のことで、魔法使いの亜種とされている。
この世界では、魔力使いは『魔法使い』と『魔術師』の二種類がいる。
魔法使いのほうが持っている魔力量が多く、多彩な術を使う。
魔術師は、魔法の下位互換である魔術の使い手だ。
とはいえ、魔術は魔力さえあれば誰でも使えるように必要魔力をセーブして術式を使いやすく構築したものなので、魔法使いでも魔術を使う者は多かった。
「ああー!? お魚さん、みんな魔石になっちゃったじゃん!? デビルズサーモンは!? 今晩は絶対にサーモン料理食べたかったのに!」
ルシウスが今さら気づいたように悲痛な叫びをあげていた。
「魚が食いたかったのか? 魔物の肉を残したい場合は心臓じゃないとこにトドメ刺さねえとダメなんだよ」
例えば、先ほどのルシウスのように、頭部をぶん殴ったときそのまま息の根を止めれば良いわけだ。
ふんふん、と髭面ギルドマスターの話を聞いたはいいものの、結局すべて心臓を刺して倒してしまった今回はお魚料理は無理そうだ。
ルシウスは残念そうな顔になって両肩を落とすのだった。
冒険者となって最初の戦闘は、こうして反省を残しつつも幕を閉じたのであった。