冒険者ギルド、ココ村支部に常駐している冒険者は、現在のところアケロニア王国から派遣されている魔法剣士のルシウスと、女魔法使いのハスミンのみ。

 他はぽつぽつと、ギルドマスターのカラドンを慕って他国からやってくる冒険者たちや、ココ村海岸のお魚さんモンスターの評判を聞いて腕試しにやってくる冒険者がソロ、あるいはパーティーでやってきて、数日から一週間単位で現地滞在といったところだ。

 宿泊は、ソロ冒険者ならギルド職員用の寮の部屋を貸し出したり、人数のいるパーティーの場合は最寄りのヒヨリという内陸の町の宿を利用している。



 その日、8月の夏で気温がぐっと上がる昼時の少し前にココ村支部にやってきたのは、若い男女二人組だった。

 男のほうは年は二十代半ばくらいだろうか。
 薄緑色の長い髪を、後頭部で紐で無造作に括ったひょろっとした優男風の印象で、白く長いローブ姿だ。魔法使いか魔術師だろう。

 女のほうはまだ二十歳そこそこに見える。
 ラベンダー色のセミロングの髪と、薄い褐色の肌が神秘的な印象の美女だ。
 素朴な綿のワンピースとサンダル姿で冒険者には見えなかったが、魔力使いは武装しなくても戦えるものだ。
 雰囲気からして、男の単なる付き添いというわけでもなさそうだった。

 ちょうど例の飯マズ料理人の当番の日にやってくるとは、何とも運のない冒険者たちだった。

 彼らは受付で滞在手続きを取った後、食堂で昼食を取っていた。
 そう、飯マズ料理人のマズ飯を。

「うわー。兄ちゃんたち気の毒すぎるわ」

 冒険者たちは気の毒そうに二人連れを見守っている。

 男女は牛のステーキ定食を頼んでいたが、一口二口食べて撃沈していた。



「あれ、新人さんー?」

 ちょうどお魚さんモンスターを倒した後のこと。
 海岸からギルドに戻ってきていたルシウスが入り口近くのテーブル席で待機していようと思ったところ、いつも使う場所に見慣れぬ先客を見つけた。

 定食の前で悶えている若い男女ふたりを見て、首を傾げる。

「うう、くっそマズ……。ねえ、そこの君。ここってさあ、もっと美味い飯はないの?」
「ああ、それは工夫すると美味くなりますよ」

 男女の前に食べかけの定食のトレーがあるのを見て、即座に状況を察した。
 飯マズの洗礼を受けてしまったのだ。
 
 ルシウスは、以前ギルマスのカラドンから教わった、飯マズ料理の食べ方を指南することにした。

 壁際に飯マズ料理人の担当日だけ置いてある、小麦の皮トルティーヤとソースやドレッシング類を持って、また男女のテーブルまで戻った。

「ちょっとフォークとナイフ借りますねー」

 皿の上の肉の塊を細かく切って、野菜と一緒にトルティーヤにのっけていく。

「辛いソース、大丈夫な人たち?」
「大丈夫」
「私も」

 頷いて、チリソースで味付けしてくるくるつわと端から巻いて、ふたりに次々と手渡していった。

「え、うま……これ、ほんとにあのクソマズだった肉!?」
「この辛いソース、私好きかも」

 せっかくなので、同じテーブルで自分も(嫌々、飯マズ料理人の調理した定食を持ってきて)食事する振りをしながら話を聞いてみることにした。