冒険者ギルド、ココ村支部のギルドマスター、カラドンからの救援要請について。
「王女でさえなければ、わたくしが行きたかったですね。カラドン殿がいなければ、わたくしは産まれてなかったかもですし」
「それを言うなら、国王でさえなければ、私が行きたかったというやつだ。カラドン君は亡き妃とお前の命の恩人だからなあ」
グレイシア王女様とテオドロス国王様、二人がしみじみ頷き合っている。
高ランク冒険者のカラドンは、二十数年前はアケロニア王国内の冒険者ギルドを拠点にして、ダンジョン探索を請け負っていた時期がある。
その頃、ちょうど旅行中だった当時まだ王太子だった現国王のテオドロスと妃が、別荘地に出没した魔物に襲われかける事件が起こった。
そのとき、負傷してしまった護衛騎士たちに代わってテオドロスたちを助けてくれた冒険者の一人が、まだ若かった頃のカラドンなのである。
王都に帰還して少し経つと、妃の懐妊が判明した。そう、旅行中の懐妊だ。
あのときカラドンがいなかったら、アケロニア王家は未来の王妃と、王女を失っていたかもしれない。
この恩はいつか必ず返す、と思って二十数年。
この間にテオドロスの正妃は亡くなってしまったが、恩を忘れることはなかった。
そのカラドン本人からの救援要請に何としてでも応えたいと強く思ってはいても、間の悪いことに敵性国家タイアド王国との戦争間近の大トラブル発生時期と重なってしまった。
そのタイアド王国との戦争は回避できたものの、いくつか問題が残っている。
アケロニア王国は魔法と魔術の大国と呼ばれているが、実のところ円環大陸全体においては、魔力使いの数は年々減少傾向にあり、アケロニア王国も例外ではなかった。
それでもまだまだ、優秀な魔法使いや魔術師を擁しているからこそ、下手に他国へ出したくないというジレンマがある。
他国が、一介の冒険者ギルドに支援しても良いものか? の問題もあった。
カラドンのいるココ村支部のゼクセリア共和国は民主主義国家だからうるさく言わないと信じたいところだが、これが相手先の国が王政国家なら内政干渉を疑われて現地入りするのも一苦労だったはずだ。
そういった種々の問題をどうクリアすべきか、と王族三人が頭を悩ませているところに華麗に登場したのが、大好きなお兄ちゃんの新婚旅行について行けずに不貞腐れていた、リースト伯爵家の次男、魔法剣士のルシウスであった。
王族の彼らがルシウスの派遣を決めた理由は、まずタイミングが良かったから。
鴨がリーキを背負ってやってきたかの如く。
それに、近頃はリースト伯爵家の兄弟仲が微妙で、特に兄のカイルのほうが弟ルシウスの存在のプレッシャーに押し潰されそうになっていたことを、皆が心配していた。
ココ村支部のあるゼクセリア共和国は馬車で一週間以上かかる遠方の国だ。
一時的にふたりを離して、少しカイルを落ち着かせる必要があった。
ちょうど本人は結婚したところだし、嫁と熱々の新婚期間を過ごさせてやろうという配慮もあった。
あとは、ルシウス本人が人類の古代種で、日頃から元気を有り余らせていて発散させる場所がほとんどないことが挙げられる。
ルシウス自身は別に乱暴者ではないし、主に亡き母親の躾の甲斐あって、アケロニアの男子らしい立派な少年に育っている。
それでも、国内環境では全力で力を振るえる環境がなく、学園での授業にも身が入らずサボり気味との報告が上がっていた。
それを考えると、今こうしてココ村支部で毎日お魚さんモンスターを倒しまくる日々は、適度に魔力を発散できて都合が良い。
「カラドン殿からの報告書を見る限り、まあまあ上手くやってるようじゃないか」
「本人、ココ村支部での生活が楽しくて、最近ではホームシックも起こすことがないようです」
リースト伯爵家には、飛竜便を貸し出している。
一日と空けず手紙や物資のやり取りが可能なので、案外寂しさを感じずに済んでいるというところか。
「あとはココ村支部周辺の異常を解明できれば言うことなし、か」
そう、人間の脚が生えた大量のお魚さんモンスター出没の件だ。
「そういう解析は、ルシウスには荷が重いですよねえ」
国王のテオドロスも苦笑している。
ルシウスは確かに、あの年で完成された魔法剣士だが、研究者や分析家ではない。まだ学生で知識や経験も足りなかった。
「やはり、追加の人員を派遣せねばならぬでしょう」
かといって、誰を送り込めば良いものやら。
アケロニア王国の貴族や優秀な平民はすべて国の軍属だし、それ以外となると国内で活動している冒険者に依頼を出すことになる。
そう考えると、まだ学生で家以外に属さないルシウスの存在は実に都合が良かった。
まだしばらく、王族の皆さんが頭を悩ませる状態は続きそうである。
「王女でさえなければ、わたくしが行きたかったですね。カラドン殿がいなければ、わたくしは産まれてなかったかもですし」
「それを言うなら、国王でさえなければ、私が行きたかったというやつだ。カラドン君は亡き妃とお前の命の恩人だからなあ」
グレイシア王女様とテオドロス国王様、二人がしみじみ頷き合っている。
高ランク冒険者のカラドンは、二十数年前はアケロニア王国内の冒険者ギルドを拠点にして、ダンジョン探索を請け負っていた時期がある。
その頃、ちょうど旅行中だった当時まだ王太子だった現国王のテオドロスと妃が、別荘地に出没した魔物に襲われかける事件が起こった。
そのとき、負傷してしまった護衛騎士たちに代わってテオドロスたちを助けてくれた冒険者の一人が、まだ若かった頃のカラドンなのである。
王都に帰還して少し経つと、妃の懐妊が判明した。そう、旅行中の懐妊だ。
あのときカラドンがいなかったら、アケロニア王家は未来の王妃と、王女を失っていたかもしれない。
この恩はいつか必ず返す、と思って二十数年。
この間にテオドロスの正妃は亡くなってしまったが、恩を忘れることはなかった。
そのカラドン本人からの救援要請に何としてでも応えたいと強く思ってはいても、間の悪いことに敵性国家タイアド王国との戦争間近の大トラブル発生時期と重なってしまった。
そのタイアド王国との戦争は回避できたものの、いくつか問題が残っている。
アケロニア王国は魔法と魔術の大国と呼ばれているが、実のところ円環大陸全体においては、魔力使いの数は年々減少傾向にあり、アケロニア王国も例外ではなかった。
それでもまだまだ、優秀な魔法使いや魔術師を擁しているからこそ、下手に他国へ出したくないというジレンマがある。
他国が、一介の冒険者ギルドに支援しても良いものか? の問題もあった。
カラドンのいるココ村支部のゼクセリア共和国は民主主義国家だからうるさく言わないと信じたいところだが、これが相手先の国が王政国家なら内政干渉を疑われて現地入りするのも一苦労だったはずだ。
そういった種々の問題をどうクリアすべきか、と王族三人が頭を悩ませているところに華麗に登場したのが、大好きなお兄ちゃんの新婚旅行について行けずに不貞腐れていた、リースト伯爵家の次男、魔法剣士のルシウスであった。
王族の彼らがルシウスの派遣を決めた理由は、まずタイミングが良かったから。
鴨がリーキを背負ってやってきたかの如く。
それに、近頃はリースト伯爵家の兄弟仲が微妙で、特に兄のカイルのほうが弟ルシウスの存在のプレッシャーに押し潰されそうになっていたことを、皆が心配していた。
ココ村支部のあるゼクセリア共和国は馬車で一週間以上かかる遠方の国だ。
一時的にふたりを離して、少しカイルを落ち着かせる必要があった。
ちょうど本人は結婚したところだし、嫁と熱々の新婚期間を過ごさせてやろうという配慮もあった。
あとは、ルシウス本人が人類の古代種で、日頃から元気を有り余らせていて発散させる場所がほとんどないことが挙げられる。
ルシウス自身は別に乱暴者ではないし、主に亡き母親の躾の甲斐あって、アケロニアの男子らしい立派な少年に育っている。
それでも、国内環境では全力で力を振るえる環境がなく、学園での授業にも身が入らずサボり気味との報告が上がっていた。
それを考えると、今こうしてココ村支部で毎日お魚さんモンスターを倒しまくる日々は、適度に魔力を発散できて都合が良い。
「カラドン殿からの報告書を見る限り、まあまあ上手くやってるようじゃないか」
「本人、ココ村支部での生活が楽しくて、最近ではホームシックも起こすことがないようです」
リースト伯爵家には、飛竜便を貸し出している。
一日と空けず手紙や物資のやり取りが可能なので、案外寂しさを感じずに済んでいるというところか。
「あとはココ村支部周辺の異常を解明できれば言うことなし、か」
そう、人間の脚が生えた大量のお魚さんモンスター出没の件だ。
「そういう解析は、ルシウスには荷が重いですよねえ」
国王のテオドロスも苦笑している。
ルシウスは確かに、あの年で完成された魔法剣士だが、研究者や分析家ではない。まだ学生で知識や経験も足りなかった。
「やはり、追加の人員を派遣せねばならぬでしょう」
かといって、誰を送り込めば良いものやら。
アケロニア王国の貴族や優秀な平民はすべて国の軍属だし、それ以外となると国内で活動している冒険者に依頼を出すことになる。
そう考えると、まだ学生で家以外に属さないルシウスの存在は実に都合が良かった。
まだしばらく、王族の皆さんが頭を悩ませる状態は続きそうである。