それからも、ココ村の冒険者ギルドのルシウスからはたびたび、お魚さんモンスターや、現地の飯ウマ料理人の作ったという料理が届いた。

 中にはルシウス自ら作った料理が入っていることもある。

 それらはすべて、ルシウスの実家のリースト伯爵家に送られてくるのだが、父親のメガエリスは息子自慢を兼ねて必ず半分、王家に献上しに来るのだ。



「父上、お祖父様。ルシウスが送ってきたものを食すと具合が良くなります。これはやはり……」

 午後、タイミングが合って父親や祖父とお茶を一緒にできたとき、グレイシアは念のため彼らに確認しておくことにした。

 料理の封入された魔法樹脂のブロックをひとつ用意して、ドーンとテーブルの上に置いて指先で透明な樹脂の表面を突っついた。
 すると、ほわん、とネオンブルーの魔力が立ち昇る。ルシウスの持つ魔力の色だ。

 うむ、と先王のヴァシレウスが頷いた。

「聖なる魔力の効果だろうな。私もだいぶ不調が改善されてきた。テオドロス、お前は?」
「若い頃に作った古傷の痛みが、いつの間にか消えてましたね。そういえば父上、おぐしや髭の白髪が減りましたねえ」

 そんなことを、現国王の息子テオドロスと話していた。

 アケロニア王族は皆、黒髪黒目が特徴だが、今年79歳のヴァシレウスは髪や髭の三分の一ほどは白髪になって色が抜けていた。
 数年前に大病して以来、一気に増えていたのだが、言われてみればその白髪の量が最近になって劇的に減っている。



「剣聖なら、聖なる魔力の行使は剣を振るうときだけですよね。ルシウスは扱う魔法や行動のすべてに聖なる魔力が絡む」
「明らかに、ココ村の冒険者ギルドに行く前と後とでは、魔力の質にも大きな違いがある。“英雄カラドン”の指導の賜物か?」
「あるいは、大量の魔物を討伐してスキルアップしたかですね」
「両方かな」

 そう、ココ村支部のギルドマスターのカラドンは、SSランク冒険者の大剣の剣士で、英雄の称号持ち。
 逸話に事欠かない豪快な上位冒険者のひとりである。

 だが、そろそろ現役を引退して後進を育てたいと言い出した彼のために冒険者ギルドの本部が用意したのが、環境が良く、出没モンスターの数も少ないココ村海岸の支部長の椅子だった。

 ところが実際、彼が自分のパーティーメンバーの一部を連れてココ村支部に赴任してみれば、そこはとんでもない過疎ギルド。
 その上、それまでいないはずだった、見たこともない巨大な脚の生えたお魚さんモンスターの襲来。

 それでも赴任から半年は数少ないスタッフとともにお魚さんモンスターに対応していたのだが、慣れない新米ギルドマスター業と並行しての魔物退治はやはり相当に厳しかったらしい。

 もう支部壊滅寸前です、ヘルプ! と片っ端から知り合いに救援要請を出した先のひとつが、ここアケロニア王国の王家だった。