「すごいや、センスもクソもない造形! ふつう、『お魚さんに脚生えてる』っていったら人魚さんを想像するじゃない!?」

 まさか、本当にそのまま『脚の生えた魚』がくるとは思わなかった。

「いや、人魚ならそのまま人魚って言うだろ……」

 様々な種類のお魚さんたちが毎回数十匹、海から海岸に大挙して押し寄せてくる。

 これを仕留めて、町の方まで侵攻させないよう食い止めるのが、冒険者ギルド、ココ村支部の使命であった。



 まだ武器も何も持ってなかったルシウスの装備は、冒険者ギルドからの貸し出し品ばかりだ。

 シャツとブーツは自前。
 革ベスト、ポーションや薬などを入れるウエストポーチ、そして量産品の鉄の剣を借りることになった。

「僕が習ってきた魔物と全然違うんだけど」

 ルシウスのおうちは魔法の大家で、一族の者はほとんどが魔法剣士だ。もちろんルシウスも。
 幼い頃から修行をしていて、戦う技術はもちろん、討伐する魔物や魔獣のことも勉強させられてきた。

「お魚さんタイプの魔物ってさ、ふつうは海の中にいて、船を襲うもんだって習ったのにい」

 なんか違う。

 少なくとも、ルシウスが幼い頃にパパやお兄ちゃんに読んでもらった絵本にも、もうちょっと大きくなってから読んだ図鑑にも、脚の生えたお魚さんなんてものはなかった。

「何でこんなことに。魚に脚が生えてたら、それもう魚類って言わないよね、ただの水陸両用生物じゃない!」

「ルシウスー! 無駄口叩いてる暇はねえぞ、……来るぞ!」

 自分も大剣を構えた冒険者ギルドの髭面ギルドマスターが怒鳴ってくる。

「わかってる。わかってるけど、こんな気持ち悪い魔物倒すの僕いやだあああああ!」

「冒険者の皆さんの心情を代弁してくれてありがとよ! オラッ、行くぜー!!!」

 のしのし、と艶かしい生足で歩いてくる魚たちに向かって、ギルマスが率先して駆けていく。

 後には十数人の冒険者たちも続く。
 剣を持つ剣士や、杖持ちの魔力使いなどメンツは多彩だ。



「うええ……しかもあいつら、攻撃色バリバリで食えなさそうだし。あっちなんてフグじゃん、毒持ってて駄目なやつ!」

 お魚さんタイプの魔物は一種類だけではなかった。

 ここ、ココ村と対岸のカーナ王国との間の海で泳いでいる魚を中心に魔物化しているようで、複数の種類が出没している。


「しかもあの脚って食べられるの? 味は魚? それとも人肉???」

「ルシウスー! てめぇ、一人だけ見物決め込んでんじゃねえぞー!」

「だってえ」


 キモいし美味しそうでもないし、戦いのモチベーションが上がらない。

 と思ったら少年ルシウスの視界に、驚きの光景が飛び込んできた。


 故郷でも馴染みのあった、大好きなお魚さんがやってきたのだ。