「あっ! ジュード! 外にいたの? 中にいると思って探したじゃないっ」

 換金を終えたエイラが少し膨れた顔をして出てきた。そのまぬけな表情にジュードはさっきまでの張りつめた感情が解れていくのを感じる。

「ごめん。中は人が多くて」
「まぁいいけど。それより見てこれ!」

 エイラが見せてくる手には硬貨がパンパンに入った巾着袋が握られている。

「結構いい値段ついたんだな」
「残念ながら金貨ではないけどねっ」

 そう言って笑うエイラの手を取るとジュードは飲食店街へと向かって歩き出す。

 「それで何か美味しいもの食べに行こう」
 「うん!」



――――――――――

「わぁー! どれも美味しそうで決められないっ」

 露店が立ち並ぶ通りを歩きながらエイラは両手を頬に当てキョロキョロとしている。

「昨日はルルに採って貰った魚食べたから、肉、食べようぜ」
「そうだね! お肉食べよう」

 二人はそれぞれ、肉が売ってある店で自分が食べたい串肉を買った。

 だが、ジュードは何やら店主と揉めている。

「兄ちゃん悪いけど、この店にはそれを返せるまでの釣りはおいてないんだわ。せめて銀貨までにしてくれよ」

 金貨で払おうとしたジュードはお釣が足りないからと受け取って貰えていない。つまり、肉も買えない。

「おじさん、これでお願いします」

 エイラが換金したお金からちょうどの金額を払い、肉を受け取るとジュードの手を引き近くのベンチに座った。

「さあ、食べよう!」

 エイラは勢いよく肉にかぶり付くが、ジュードはじっと肉を見つめる。

「エイラ、ありがとう。俺、偉そうなこと言ったのに結局払ってもらって」
「何言ってるの。元々これは二人のお金だよ。ほら、早く食べないと冷たくなっちゃうよ」

 エイラに促され食べ始めたジュードは思わず声が漏れた。

「うまい……」

 呟いたジュードの顔を覗き込むとエイラは満足そうに微笑む。

「だよね! 私こんな美味しいお肉初めて食べたよ。自分で稼いだお金で食う飯はうまい! ってこういうことだね」

 エイラの言葉にジュードは今まで自分がどれだけ恵まれた環境で育ってきたのかを思い知った。そして母に渡された金貨しか持っていないことも不甲斐なく感じた。

「俺、この街で情報収集しながら少しお金を稼ぎたい」
「あ、私もそう思ってた! それでねジュード、私に戦い方を教えて欲しんだ。妖精の魔法を使うにはコツがあるんでしょ?」

 エイラは今まで精霊の源の力はあまり使いたくないと思っていた。だがこの先、旅する上でちゃんと妖精の力を使いこなせるようにならなければけないと思い直していた。

「ジュード、お願い!」

 上目遣いでお願いしてくるエイラの顔にジュードが少し見とれていると

「お願いっ」

 エイラとジュードの顔の間に同じく上目遣いで首をかしげるルルが突然現れた。

「っルル!」

 ジュードは驚いて咄嗟に顔を反らす。

「ジュード、僕のこと忘れてたでしょ」
「わ、忘れてないよ。それより、ずっと姿見せてくれてたらいいじゃないか」
「だって契約してない人にずっと姿見せてるのって疲れるんだもん」

 ルルは笑いながらまた姿を消した。

「ルルにもね、ジュードに戦い方教わった方がいいって言われたの。だめかな?」
「わかった、いいよ」

 フィブがいなくなり、思うように戦えなかったジュードは自分も剣術の訓練をしようとエイラの申し出に了承した。

「やった! ありがとうジュード」
「うわっ、串! 危ないって」

 ジュードは串を持ったまま抱きついてくるエイラを咎めながも優しく抱きとめた。

 しばらくランドールに滞在することを決めた二人は無期限で滞在が可能な宿の部屋を借りた。

「ちゃんと二部屋借りられて良かったね」
「明日から訓練始めるから、寝坊するなよ」
「大丈夫だよ! じゃあおやすみ」
「ああ。おやすみ」

 エイラとジュードは受付を済ませるとすぐ各自部屋へと入った。

 エイラが部屋のベッドに腰掛けるとルルが心配そうに顔を覗く。

「エイラ、くれぐれも力を使い過ぎないようにね」
「わかってるよ、大丈夫。それにジュードの前ではルルの力しか使わないし」

 エイラに精霊の源が宿った時にルルから、力を使い過ぎた精霊賢者は短命だったと教えられている。だからエイラは今まであまり力を使っていない。

「それでも、ここの妖精たちはエイラに興味津々だよ」
「ねぇルル、どうして力を使い過ぎると短命になるの?」
「それは、合意のない妖精の力を無理やり使うからだよ」

 保持者からの強制的な命令によって無理やり力を使わされる妖精にも負担がかかっている。その反動が保持者にも返ってくるのだった。

「じゃあ、みんなに合意を得れば良いってこと?」
「そんな単純なことじゃないよ……」

 ルルは呆れながらため息をつくとエイラの手のひらに小さな滴を落とした。

「とりあえず、僕の力を使いこなせるようになってね」


――――――――――

 エイラが眠った後、ルルはエイラの寝顔を見ながらスッと部屋を出ていく。向かったのはハルの所だ。だが、ハルに用がある訳ではない。

「エマ」
「あら、ルル久しぶりね」
「久しぶりって、さっき会ったじゃないか」

 エマは風の妖精だ。十年前までエイラやハルの住む村に住んでいた。

「エマ、あれからずっとハルの側にいたの?」

 エマはハルの父の契約妖精だった。戦闘のためではなく、農業や土木作業のために契約していたため、オチューグに襲われた時には太刀打ちできず、ハルの父がエマに最後に言い残したのがハルを守ることだった。

「そうよ。この十年、ずっとハルと一緒にいる」
「でも契約はしてないよね。ハルは違う妖精と契約してる」

 ハルは水の妖精と契約している。契約していないエマのことはハルは見えていない。

「いいの。私が勝手に側にいるだけ。ルルこそ、すぐに死んでいく人間とはもう関わりたくないって言ってたのに、あの子と一緒にいるのね」
「エイラが、保持者になったのは僕のせいなんだ……」
「え? どういうこと?」
「エマ、そのことでお願いがあるんだ。エイラには秘密で」

――――――――――

 ルルはエイラには秘密にしていることがある。それは精霊の源をルルがエイラに呼び寄せたということ。
 十年前、村が焼き払われた後、毎日毎日泣きながらも灰をかき集め、土地を耕し懸命に生きるエイラをルルはずっと見ていた。
 
『この、か弱く幼い少女にどうか力を下さい』

 そう願ううちに少女には精霊の源が宿った。ルルにとっても予想外だった。
 けれどもルルは知っていた。精霊の源が人間を選ぶのではない。妖精が精霊の源を人間に呼び寄せているのだと。

 何百年も昔、同じようなことがあった。

 昔、ルルが冒険者の契約妖精だった頃、どんなにあがいても倒すことの出来ない魔物と対峙した時
『僕にもっと力があれば』
 そう思った瞬間、冒険者は眩しいほどの光に包み込まれると「全ての妖精が見える」と言い出した。精霊の源が宿ったのだ。

 それから精霊賢者となった冒険者は世界中の魔物を次々と倒し、そして呆気なく亡くなってしまった。

――――――――――

「エイラを保持者にしたかった訳じゃないんだ。だからエイラのためだったら僕はなんだってする」

 ルルはエマにあることをお願いするとエイラのところへと戻って行った。