ジュードはゲイルに会えたことを嬉しそうにしているが、ゲイルは腰に手を置き、不思議そうな目を向けている。
「ところで、ジュードはなんでこんなところで居るんだ? 十五になったら騎士団に入るって言ってたじゃないか」
ゲイルの言葉にジュードは途端に顔を険しくすると拳を握り震わせた。
「騎士団に入るのは止めたんだ。精霊の源を探すために」
「精霊の源ってジュード、お前っ」
「わかってる! それ以上言わないで」
何か言いたそうなゲイルだったが、ジュードの険悪な表情にそれ以上は何も言わなかった。
「それにしてもこんな可愛い彼女連れて旅してるなんてジュードもなかなかやるじゃないか!」
「か、彼女じゃありません!」
急に彼女呼ばわりされたエイラは手をブンブンと振り必死に否定する。
「エイラとはお互い探しものを見つけるために一緒に旅することにしたんだ」
ジュードはエイラの方を向くと思い出したように尋ねる。
「ところで、エイラの探しものは見つかりそうなの?」
「いや、この森にはないみたい」
「そうなんだ……」
申し訳なさそうに肩を落としたエイラにジュードもつられて肩を落とす。
「お前たち、そんな暗い顔をするな! ここにお宝があるじゃないか」
ゲイルはそう言って倒れているキメラの額を短剣で抉ると中から黒光りする石を取り出した。
「魔石?」
「そうだよ。俺たち冒険者はこれを採るためにこの森に入ってるんだ。キメラの魔石は高く売れるぞ」
ゲイルはキメラから取り出した魔石をポンッとジュードに投げ渡した。
「くれるの?」
「獲物の横取りはご法度だ。これはお前たちのもんだよ」
ジュードは受け取ると魔石をエイラに差し出す。
「これはエイラが持ってて」
「え? うん、わかった……」
エイラは手のひらに乗せられた魔石をポケットにしまった。
「そういえばジュード、フィブはどうしたんだよ」
妖精と契約する方法を教えたのも、フィブの魔法を使った戦い方を教えたのもゲイルだ。キメラと戦うジュードが魔法を使っていなかったことを疑問に思っていた。
「いなくなったんだ……」
「いなくなったぁ?! お前何したんだよ」
ゲイルは驚いて声が裏返っている。
「何もしていない! フィブが、急にいなくなった……だから、フィブを探すのをエイラとルルにも手伝ってもらってる」
「ルル?」
「エイラの契約妖精だよ」
「エイラちゃん妖精と契約してるのか? あの水の球はエイラちゃんの契約妖精の魔法?」
ゲイルはエイラの方を向き珍しそうに聞いてくる。
「あ、はい……」
元々、女性は妖精と契約することは少ない。日常生活を送るだけなら妖精と契約していなくても不便はないし、自ら傷を付け血印を描くことに抵抗がある者も多かった。
「そうか! まぁ旅を続けるならもう少し戦い方を覚えたほうがよさそうだな」
「はは、そうですね……」
思っていた以上に戦えなかった上、本当は契約していないエイラは苦笑するしかない。
(ねえ君、ゲイルさんにエイラが保持者だってこと言わないでね)
ルルがゲイルの契約妖精にお願いしてくれている。
(内緒なの? わかった!)
ゲイルの契約妖精はあっさり了承してくれた。
「そういえば、ゲイルさんも妖精と契約しているんですよね?」
「ああ、リンだ。木の妖精だよ」
リンは紹介されると、元々見えているエイラにウインクし、ポッと姿を現すようにジュードにも見えるようにした。
「エイラさん、はじめまして。よろしくね」
「はじめまして、エイラです」
「ジュードも久しぶり」
「ああ、リン久しぶり」
ゲイルにお世話になっていた頃、リンはジュードに姿を見せており、フィブとも仲が良かった。
「なあジュード、この森に精霊の源はないと思うぜ」
「そうなの?」
「この森にはよく来るが他の冒険者からもそんな話は全く聞かないしな。目的のものがないんだったらこの先には進まない方がいいぜ」
「そうなんだ……違う場所を探しに行く方がいいか……」
この後どうしようかと悩んでいたエイラは、思いがけずゲイルがジュードを説得してくれたことにほっとした。
「ジュード、幻妖の森の後はどこに行くつもりだったの?」
「特には決めてない」
「じゃあ、このまま西側に抜けてランドールのギルド街に行けよ。さっきの魔石でも売れば旅の資金になるし、色んなとこから人が集まるから探し物とやらの情報も手に入るかもよ」
ランドールは冒険者の街と呼ばれているが、商業都市でもあり、色々な国から珍しい食べ物や装備品などが集められ売られている。
また、ギルド街では冒険者たちがそれぞれ仕事を請け負ったり訓練を受ける場所もある。
ゲイルも冒険者としてランドールを拠点とし、各地を旅して回っている。
「あそこは出入りの激しい街だから換金だけならギルド登録しなくてもしてくれるぜ」
「そうなんだ。エイラ、このままランドールに行くのでいい?」
「うん。それがいいと思う」
ジュードとエイラはランドールへ行くことに決めた。
「じゃあ、俺はこれから魔石集めてくるから! しばらくランドールに居るならまた会うかもな」
「そうだね。ゲイルさん、また」
「お気をつけて」
ゲイルは二人に手を振るとリンと森の奥へと進んで行った。
――――――――――
「フィブは、この森にはいないよな……?」
ランドールに向かうため森を西側へ進んでいる時、ジュードがぼそりと呟く。ちらりとルルをみるがその表情は半ば諦めているようだった。
「森の奥はわからないけど、今まで通ってきた所にはいなかったよ」
「そうだよな……」
フィブがいなくなってから初めて戦い、想像以上に自分の弱さを思い知らされた。今までどれだけフィブに助けられていたのかも。
「ジュードはいつからフィブと契約してたの?」
「八年前。六歳の時に父上が亡くなって、どうしても強くなりたくてゲイルさんにお願いして妖精と契約する方法を教えてもらったんだ」
「そうなんだ。そんなに前から……」
ジュードは父が亡くなってすぐに契約をしようとしたが、六歳の少年と契約してくれる妖精はなかなかおらず、二年かけてやっと契約してくれたのがフィブだった。
それからゲイルにフィブの魔法と剣術を使った訓練をつけてもらい、十五になれば父と同じように騎士団に入ると決めていた。
だが、騎士団に入る直前で入団を辞退し、精霊の源を探す旅に出ることにしたのだ。
「ところで、ジュードはなんでこんなところで居るんだ? 十五になったら騎士団に入るって言ってたじゃないか」
ゲイルの言葉にジュードは途端に顔を険しくすると拳を握り震わせた。
「騎士団に入るのは止めたんだ。精霊の源を探すために」
「精霊の源ってジュード、お前っ」
「わかってる! それ以上言わないで」
何か言いたそうなゲイルだったが、ジュードの険悪な表情にそれ以上は何も言わなかった。
「それにしてもこんな可愛い彼女連れて旅してるなんてジュードもなかなかやるじゃないか!」
「か、彼女じゃありません!」
急に彼女呼ばわりされたエイラは手をブンブンと振り必死に否定する。
「エイラとはお互い探しものを見つけるために一緒に旅することにしたんだ」
ジュードはエイラの方を向くと思い出したように尋ねる。
「ところで、エイラの探しものは見つかりそうなの?」
「いや、この森にはないみたい」
「そうなんだ……」
申し訳なさそうに肩を落としたエイラにジュードもつられて肩を落とす。
「お前たち、そんな暗い顔をするな! ここにお宝があるじゃないか」
ゲイルはそう言って倒れているキメラの額を短剣で抉ると中から黒光りする石を取り出した。
「魔石?」
「そうだよ。俺たち冒険者はこれを採るためにこの森に入ってるんだ。キメラの魔石は高く売れるぞ」
ゲイルはキメラから取り出した魔石をポンッとジュードに投げ渡した。
「くれるの?」
「獲物の横取りはご法度だ。これはお前たちのもんだよ」
ジュードは受け取ると魔石をエイラに差し出す。
「これはエイラが持ってて」
「え? うん、わかった……」
エイラは手のひらに乗せられた魔石をポケットにしまった。
「そういえばジュード、フィブはどうしたんだよ」
妖精と契約する方法を教えたのも、フィブの魔法を使った戦い方を教えたのもゲイルだ。キメラと戦うジュードが魔法を使っていなかったことを疑問に思っていた。
「いなくなったんだ……」
「いなくなったぁ?! お前何したんだよ」
ゲイルは驚いて声が裏返っている。
「何もしていない! フィブが、急にいなくなった……だから、フィブを探すのをエイラとルルにも手伝ってもらってる」
「ルル?」
「エイラの契約妖精だよ」
「エイラちゃん妖精と契約してるのか? あの水の球はエイラちゃんの契約妖精の魔法?」
ゲイルはエイラの方を向き珍しそうに聞いてくる。
「あ、はい……」
元々、女性は妖精と契約することは少ない。日常生活を送るだけなら妖精と契約していなくても不便はないし、自ら傷を付け血印を描くことに抵抗がある者も多かった。
「そうか! まぁ旅を続けるならもう少し戦い方を覚えたほうがよさそうだな」
「はは、そうですね……」
思っていた以上に戦えなかった上、本当は契約していないエイラは苦笑するしかない。
(ねえ君、ゲイルさんにエイラが保持者だってこと言わないでね)
ルルがゲイルの契約妖精にお願いしてくれている。
(内緒なの? わかった!)
ゲイルの契約妖精はあっさり了承してくれた。
「そういえば、ゲイルさんも妖精と契約しているんですよね?」
「ああ、リンだ。木の妖精だよ」
リンは紹介されると、元々見えているエイラにウインクし、ポッと姿を現すようにジュードにも見えるようにした。
「エイラさん、はじめまして。よろしくね」
「はじめまして、エイラです」
「ジュードも久しぶり」
「ああ、リン久しぶり」
ゲイルにお世話になっていた頃、リンはジュードに姿を見せており、フィブとも仲が良かった。
「なあジュード、この森に精霊の源はないと思うぜ」
「そうなの?」
「この森にはよく来るが他の冒険者からもそんな話は全く聞かないしな。目的のものがないんだったらこの先には進まない方がいいぜ」
「そうなんだ……違う場所を探しに行く方がいいか……」
この後どうしようかと悩んでいたエイラは、思いがけずゲイルがジュードを説得してくれたことにほっとした。
「ジュード、幻妖の森の後はどこに行くつもりだったの?」
「特には決めてない」
「じゃあ、このまま西側に抜けてランドールのギルド街に行けよ。さっきの魔石でも売れば旅の資金になるし、色んなとこから人が集まるから探し物とやらの情報も手に入るかもよ」
ランドールは冒険者の街と呼ばれているが、商業都市でもあり、色々な国から珍しい食べ物や装備品などが集められ売られている。
また、ギルド街では冒険者たちがそれぞれ仕事を請け負ったり訓練を受ける場所もある。
ゲイルも冒険者としてランドールを拠点とし、各地を旅して回っている。
「あそこは出入りの激しい街だから換金だけならギルド登録しなくてもしてくれるぜ」
「そうなんだ。エイラ、このままランドールに行くのでいい?」
「うん。それがいいと思う」
ジュードとエイラはランドールへ行くことに決めた。
「じゃあ、俺はこれから魔石集めてくるから! しばらくランドールに居るならまた会うかもな」
「そうだね。ゲイルさん、また」
「お気をつけて」
ゲイルは二人に手を振るとリンと森の奥へと進んで行った。
――――――――――
「フィブは、この森にはいないよな……?」
ランドールに向かうため森を西側へ進んでいる時、ジュードがぼそりと呟く。ちらりとルルをみるがその表情は半ば諦めているようだった。
「森の奥はわからないけど、今まで通ってきた所にはいなかったよ」
「そうだよな……」
フィブがいなくなってから初めて戦い、想像以上に自分の弱さを思い知らされた。今までどれだけフィブに助けられていたのかも。
「ジュードはいつからフィブと契約してたの?」
「八年前。六歳の時に父上が亡くなって、どうしても強くなりたくてゲイルさんにお願いして妖精と契約する方法を教えてもらったんだ」
「そうなんだ。そんなに前から……」
ジュードは父が亡くなってすぐに契約をしようとしたが、六歳の少年と契約してくれる妖精はなかなかおらず、二年かけてやっと契約してくれたのがフィブだった。
それからゲイルにフィブの魔法と剣術を使った訓練をつけてもらい、十五になれば父と同じように騎士団に入ると決めていた。
だが、騎士団に入る直前で入団を辞退し、精霊の源を探す旅に出ることにしたのだ。