「ジュード、おはよう!」
昨日とは打って変わってハツラツとした様子のエイラはまだ日も昇らないうちから、ソファーで横になるジュードを早く起きろと言わんばかりに揺さぶる。
「エイラ、ちょっと起きるの早すぎないか?」
文句を言いながらも目を擦り、横になった体を起こしたジュードは目一杯背伸びをして立ち上がった。
「出発するの一日遅れちゃったからね。少しでも取り戻さないと!」
「終焉の森までけっこうかかるし、あんまり変わらない気がするけど……」
ジュードは渋々身支度を整えると小屋を出た。
「あー! 終焉の森まで飛んで行けたらいいのに!」
先に小屋を出ていたエイラが空に向かって両手を広げ無茶苦茶なことを叫んでいる。ジュードは冷めた目を向けているがエマが、珍しく突拍子もないことを言い出した。
「じゃあ、飛んだらいいじゃない」
「「えっ!?」」
ジュードも、飛んで行きたいと言った張本人のエイラでさえもエマの発言に驚いている。
「私を誰だと思ってるのよ」
「えっと……エマ?」
「違うわよ! 私を何の妖精だと思ってるのよって言ってるの!」
エマは腰に手を当てエイラとジュードの頭より少し上を飛びならがら得意気に鼻息を吐く。
「エイラ、意識を集中して。イメージを固めて……」
エイラはエマに言われた通りイメージする。
――――――――――
「うわー! すごいねエマ! 本当に飛んでるみたい」
エイラはエマの風の魔法で体が浮いたように軽くなり、風を切るように駆け抜けていく。
「風の魔法はこんなことも出来るんだな」
エイラの横を同じように駆けるジュードも感心している。
「大分安定してきたし、もっと速くしてもいいわよ」
「これ以上速いのはちょっと怖いよ」
今でも十分速く進んでいる。これ以上速くなれば本当に風になるみたいだ。
「速い方が気持ちいいのに」
「エマはスピード狂だったんだな」
「あら、そのおかげで数日でフィブを見つけることが出来たのよ。感謝して欲しいわ」
ルルが、エマにフィブを探してきて欲しいと頼んだのはエマが風の妖精だったというのもある。風になり、どんな場所でも駆け抜けていくことができるエマだからこそ、フィブを見つけて来てくれると確信していた。
「ああ。凄く、感謝してるよ」
「僕も、エマが来てくれなかったら今ごろはもう消えてしまっていたかもしれない。ありがとう、エマ」
いつも大人しく口数の少ないフィブもエマに感謝の気持ちを伝えた。
その後も止まることなく走り続け、日が沈む頃には随分と終焉の森近くまで来ていた。
「あと少しで終焉の森だね」
「今日はここらで泊まって、明日終焉の森に入ろう」
「うん。そうだね」
川の近くの木の根元に腰を下ろし、野営の準備を始める。小枝や枯れ葉を集め、フィブに火を着けてもらった。
「初めて野営した時のこと思い出すね」
「あの時はルルが魚捕って来てくれたな」
この場所も近くに川があるが、もう暗くて視界が悪い。魚を捕る道具もないため、エイラとジュードだけで魚を捕ることは難しいだろう。
二人は川から水を汲むと村の畑から持って来ていた少しの野菜と乾物を小さな鍋に入れて煮込む。
火にかかった鍋を眺めながらエイラは膝を抱えて座りポツリと話し始めた。
「私、なるべく精霊の源の力は使わないようにしてきたつもりだった。だけど、自分で思ってた以上にあの力に頼ってたんだなって気づいた」
「エイラ……」
「今だって、エマやフィブの力にこんなに助けられてる。きっと今までルルには本当にたくさん、迷惑かけてたのかなって……」
エイラは、以前ジュードが言っていた自分の無力さというものをひしひしと感じていた。
「妖精はけっこう単純な生き物なのよ。そんなに思い詰めなくても大丈夫だから」
「でも、ルルは私に本当のことを言ってくれなかった」
エマはルルを思い落ち込んだエイラを励まそうとするが、それでもエイラの心が晴れることはない。
「妖精はね、人よりもはるかに多く存在していて、その尽きることのない命の時間を過ごしてるの。その中で人と関わっている妖精はごく僅かだわ。なんやかんや言ってルルは人が好きなのよ」
「そうだといいな……」
出来上がったスープをすすり、冷えた体が温かくなるのを感じる。
「鍋、持ってきて良かったな」
「うん、美味しい」
ジュードはエイラのお皿に並々スープを注ぎ入れる。
「いっぱい食べて、いっぱい寝て、明日ルルを迎えに行こう」
「そうだよね。いつまでも落ち込んでちゃだめだよね! こんなんじゃルルも戻ってきてくれない」
エイラはスープをかき込むように口いっぱいにして食べた。
「エイラは、強いな」
「え? そうかな。へっぽこだと思うけど」
「いや、そういう意味じゃない」
ジュードはずっと、強くなりたいと思っていた。強くなるために小さな頃から訓練をしてきた。精霊の源を手に入れるために強く気高い人間ならなければと旅に出た。けれど、本当の強さとはそういうことではないと、エイラと出会い、共に旅をして気付いた。
「エイラは強くなりたいと思う俺よりよっぽど強いよ。強く、生きてる」
エイラはジュードの言う『強い』という意味は分かっていた。
「両親がいなくなった時も村の人たちがいてくれた。村がなくなってもじじ様がいくれて、ルルもいてくれた。ルルは今はいないけど、ジュードもエマもフィブも、側にいてくれてる。私はいつも一人じゃない。それだけで十分なんだ」
「だけど」そう言いながら木々の隙間から見える星空を眺め手を伸ばすと届かない星を掴むようにぎゅっと握る。
「いつの間にか欲張りになったみたい。こうやって、みんなが側にいてくれても私、ルルのこと諦められない」
きっとここで諦めてしまえば側にいることが出来るのに、側にいないことを当たり前だと思うようになってしまう。それに慣れることが怖かった。
「それは当たり前だよ。欲張りなんかじゃない。誰だって大切な人とはずっと一緒にいたいと思うものだよ」
二人はスープを食べ終えると、荷物を枕に横になった。
昨日とは打って変わってハツラツとした様子のエイラはまだ日も昇らないうちから、ソファーで横になるジュードを早く起きろと言わんばかりに揺さぶる。
「エイラ、ちょっと起きるの早すぎないか?」
文句を言いながらも目を擦り、横になった体を起こしたジュードは目一杯背伸びをして立ち上がった。
「出発するの一日遅れちゃったからね。少しでも取り戻さないと!」
「終焉の森までけっこうかかるし、あんまり変わらない気がするけど……」
ジュードは渋々身支度を整えると小屋を出た。
「あー! 終焉の森まで飛んで行けたらいいのに!」
先に小屋を出ていたエイラが空に向かって両手を広げ無茶苦茶なことを叫んでいる。ジュードは冷めた目を向けているがエマが、珍しく突拍子もないことを言い出した。
「じゃあ、飛んだらいいじゃない」
「「えっ!?」」
ジュードも、飛んで行きたいと言った張本人のエイラでさえもエマの発言に驚いている。
「私を誰だと思ってるのよ」
「えっと……エマ?」
「違うわよ! 私を何の妖精だと思ってるのよって言ってるの!」
エマは腰に手を当てエイラとジュードの頭より少し上を飛びならがら得意気に鼻息を吐く。
「エイラ、意識を集中して。イメージを固めて……」
エイラはエマに言われた通りイメージする。
――――――――――
「うわー! すごいねエマ! 本当に飛んでるみたい」
エイラはエマの風の魔法で体が浮いたように軽くなり、風を切るように駆け抜けていく。
「風の魔法はこんなことも出来るんだな」
エイラの横を同じように駆けるジュードも感心している。
「大分安定してきたし、もっと速くしてもいいわよ」
「これ以上速いのはちょっと怖いよ」
今でも十分速く進んでいる。これ以上速くなれば本当に風になるみたいだ。
「速い方が気持ちいいのに」
「エマはスピード狂だったんだな」
「あら、そのおかげで数日でフィブを見つけることが出来たのよ。感謝して欲しいわ」
ルルが、エマにフィブを探してきて欲しいと頼んだのはエマが風の妖精だったというのもある。風になり、どんな場所でも駆け抜けていくことができるエマだからこそ、フィブを見つけて来てくれると確信していた。
「ああ。凄く、感謝してるよ」
「僕も、エマが来てくれなかったら今ごろはもう消えてしまっていたかもしれない。ありがとう、エマ」
いつも大人しく口数の少ないフィブもエマに感謝の気持ちを伝えた。
その後も止まることなく走り続け、日が沈む頃には随分と終焉の森近くまで来ていた。
「あと少しで終焉の森だね」
「今日はここらで泊まって、明日終焉の森に入ろう」
「うん。そうだね」
川の近くの木の根元に腰を下ろし、野営の準備を始める。小枝や枯れ葉を集め、フィブに火を着けてもらった。
「初めて野営した時のこと思い出すね」
「あの時はルルが魚捕って来てくれたな」
この場所も近くに川があるが、もう暗くて視界が悪い。魚を捕る道具もないため、エイラとジュードだけで魚を捕ることは難しいだろう。
二人は川から水を汲むと村の畑から持って来ていた少しの野菜と乾物を小さな鍋に入れて煮込む。
火にかかった鍋を眺めながらエイラは膝を抱えて座りポツリと話し始めた。
「私、なるべく精霊の源の力は使わないようにしてきたつもりだった。だけど、自分で思ってた以上にあの力に頼ってたんだなって気づいた」
「エイラ……」
「今だって、エマやフィブの力にこんなに助けられてる。きっと今までルルには本当にたくさん、迷惑かけてたのかなって……」
エイラは、以前ジュードが言っていた自分の無力さというものをひしひしと感じていた。
「妖精はけっこう単純な生き物なのよ。そんなに思い詰めなくても大丈夫だから」
「でも、ルルは私に本当のことを言ってくれなかった」
エマはルルを思い落ち込んだエイラを励まそうとするが、それでもエイラの心が晴れることはない。
「妖精はね、人よりもはるかに多く存在していて、その尽きることのない命の時間を過ごしてるの。その中で人と関わっている妖精はごく僅かだわ。なんやかんや言ってルルは人が好きなのよ」
「そうだといいな……」
出来上がったスープをすすり、冷えた体が温かくなるのを感じる。
「鍋、持ってきて良かったな」
「うん、美味しい」
ジュードはエイラのお皿に並々スープを注ぎ入れる。
「いっぱい食べて、いっぱい寝て、明日ルルを迎えに行こう」
「そうだよね。いつまでも落ち込んでちゃだめだよね! こんなんじゃルルも戻ってきてくれない」
エイラはスープをかき込むように口いっぱいにして食べた。
「エイラは、強いな」
「え? そうかな。へっぽこだと思うけど」
「いや、そういう意味じゃない」
ジュードはずっと、強くなりたいと思っていた。強くなるために小さな頃から訓練をしてきた。精霊の源を手に入れるために強く気高い人間ならなければと旅に出た。けれど、本当の強さとはそういうことではないと、エイラと出会い、共に旅をして気付いた。
「エイラは強くなりたいと思う俺よりよっぽど強いよ。強く、生きてる」
エイラはジュードの言う『強い』という意味は分かっていた。
「両親がいなくなった時も村の人たちがいてくれた。村がなくなってもじじ様がいくれて、ルルもいてくれた。ルルは今はいないけど、ジュードもエマもフィブも、側にいてくれてる。私はいつも一人じゃない。それだけで十分なんだ」
「だけど」そう言いながら木々の隙間から見える星空を眺め手を伸ばすと届かない星を掴むようにぎゅっと握る。
「いつの間にか欲張りになったみたい。こうやって、みんなが側にいてくれても私、ルルのこと諦められない」
きっとここで諦めてしまえば側にいることが出来るのに、側にいないことを当たり前だと思うようになってしまう。それに慣れることが怖かった。
「それは当たり前だよ。欲張りなんかじゃない。誰だって大切な人とはずっと一緒にいたいと思うものだよ」
二人はスープを食べ終えると、荷物を枕に横になった。