エイラとジュードはペレス村へとやって来た。二人はまずエイラが住んでいた小屋へと入る。
「ただいまぁ」
小屋の中はエイラとジュードが初めて会い、出発した時のままだ。
「狭いな……」
エイラに続いて小屋に入ったジュードがぼそりと呟いたのをエイラは聞き逃さない。
「あ! 今バカにしたでしょ。そりゃジュードの家に比べたら貧相な家だけどね!」
「い、いや、別にそういうつもりて言ったんじゃ……」
狼狽えるジュードにエイラはふふっ、と笑うとじじ様の位牌に手を合わす。
「じじ様、本当は生きている時にちゃんと話を聞きたかったけど。明日、じじ様に言われた石鎚を退けてみます」
村に着いた時にはもう日が沈んでいたため、その日は小屋へ泊まることにした。エイラはベッドへ横になり、ジュードはソファーに座る。
「ねぇ、やっぱり私がそっちで寝るよ。前もソファーで寝てもらったけど、狭くてなんだか可哀想だった」
「いや、俺はこっちで大丈夫。野宿するよりよっぽどいいし。エイラがベッド使えよ」
「でも……」
小さな小屋の小さなソファーはジュードが寝るにはあまりにも小さすぎる。じじ様が生前使っていたベッドはじじ様が亡くなった後片付けてしまった。なるべく小屋を広く使いたかったが、こんなことなら残しておけば良かったと少し後悔した。
「じゃあさ、ベッドで一緒に寝る?」
「は、はぁ?! 何言ってんだよ」
「私、ジュードとなら一緒に寝てもいいよ」
「バカなこと言ってないでさっさと寝ろ」
ジュードはそのままソファーに横になるとはみ出た足を投げ出し腕を組んで目を閉じた。
「おやすみ、ジュード」
「おやすみ」
「途中で体ツラくなったらいつでも入ってきていいからね」
「もういいって」
目を閉じたままのジュードにエイラは優しく微笑むとベッドの少し端によって横向きになり、目を閉じて眠った。
ジュードはそんなエイラをチラリと確認したが、絶対に一緒には寝ないと固く心に誓ってもう一度目を閉じた。
――――――――――
「結構、登るんだな」
次の日の早朝から神台のある場所へ行くために山へ登り始めたが、昼を過ぎてもまだ着かない。
「そうなんだよね。けっこう神台まで行くの大変なんだよ。でも、もうすぐ着くよ」
神台が遠かったために、十年前村が襲われた時エイラとじじ様が山を降りた時には全てが終わっていた。だが、遠かったおかげで、エイラとじじ様は助かったのだ。
その後少し歩くと、山の頂上へと到着した。頂上から反対側に少し下った所に神台がある。
「石鎚を退かすんだろ? どれが石鎚なんだ?」
「これのことだよ」
エイラが指差した石鎚とは神台の台の部分だった。人が一人寝転べるほどの大きさがある。
「崖崩れがあった時に山を固めるのにこの石鎚を使って、それを神台にしたんだって言ってた」
「そうなんだ。じゃあ、これを退かそう」
エイラとジュードは二人で石鎚を持ち上げようとするが、びくともしない。
「エマ、力を貸してもらえる?」
「もちろんよ」
エイラは石鎚が風に吹かれ浮き上がり滑り落ちるようイメージする。
イメージ通りにはいっていないが、石鎚がガタガタ浮きはじめた。ジュードはタイミングを見計らい、石鎚が大きく揺れた瞬間勢いよく押した。
――ドッシーン!!
石鎚が退かされると、そこには大きな穴が空いており、中には階段があった。
「え……何ここ……」
「洞窟になってるんだ」
エイラは初めて見るその様子に呆気に取られている。ジュードは中を覗き込むと、フィブに頼み、火で明かりを灯した。
「石鎚を退けろってことは中に入れってことだろ? 行こう」
躊躇なくその薄暗い階段を下っていくジュードの後ろをエイラは恐る恐る付いて行く。
「こんな場所があるなんて全然知らなかった。じじ様本当に何にも言わないんだから」
もうこの世にはいないじじ様に文句を言いながら進んでいると、広い空間に突き当たった。
「フィブ、もう少し明るくしよう」
広く、暗い空間を明るく照らすように炎を大きくすると、そこに腰の高さほどの岩があり、岩の上には一冊の本が置かれてある。題名も著者も書いていない本だったが、エイラは中を開き、手書きのそれを見て直ぐに誰が書いたものかわかった。
「じじ様の字だ」
エイラはページを捲ると一枚の紙がハラハラと落ちる。それはじじ様からエイラへの短い手紙だった。
『エイラ、その力を背負いきれなくなった時、ルルと一緒に終焉の森へ行きなさい。ルルには全てお願いしてある』
その手紙の内容にエイラの顔はみるみる強張っていく。
「え……? どういうこと? ルルに、お願いしてある?」
ルルはじじ様から話を聞いていた。じじ様は終焉の森へ行けば精霊の源を森へ還せることができるとわかって、ルルに頼んでいたのだろう。
「ルルが、ユグドラシルに還しに行こうって言ったんだろ?」
「そうだよ。だから私はユグドラシルを探す旅に出たんだよ」
エイラは訳が分からなかった。ルルはなぜユグドラシルに精霊の源を還そうと言ったのか。なぜ、ルルがユグドラシルの中に留まらなければならなかったのか。
「なぁ、ルルは今、ユグドラシルにいるのか?」
「えっ……?」
ジュードの疑問にエイラは動揺した。もし、ルルがユグドラシルにいないのなら、エイラは全てルルに騙されていたことになる。
「ルルは、精霊の源を手に入れたかったとか……?」
ジュードはショックを受けるエイラの様子を伺いながらも、考えられる理由を少し言いにくそうに呟く。
「ルルも精霊の源なんていらないって言ってたわよ」
ずっと黙ってエイラとジュードの話を聞いていたエマが口を開いた。
「ルルは自分が精霊の源を手に入れてどうこうしようなんて思ってなかったと思うわ」
「なら、どうして……」
「エイラを、終焉の森に連れて行きたくなかったのか?」
「けど、ユグドラシルに還すのも、終焉の森へ還すのも変わらないんじゃ……」
「理由はルルに直接聞きに行こう」
ジュードとエイラはじじ様の本を持ち、山を降りた。
ルルは一人で終焉の森へ行ったのかもしれない。早く終焉の森へ行きたい気持ちを抑え小屋に戻ると、昨夜と同じようにエイラはベッドへ横になり、ジュードはソファーに腰掛けた。
――――――――――
「ジュード、起きてる?」
夜も更け、エイラとジュードが横になって暫くたった頃、眠れないエイラはジュードの名前を呼ぶ。
「早く寝ろよ」
「起きてたんだ」
「エイラの声で起きたんだよ」
「そっか。ごめん……」
寝ていたのに起こしてしまったのかと、エイラは謝罪しそのまま口をつぐんだ。
「なに?」
「えっ?」
「何か言いたいことがあるんじゃないの」
早く寝ろと言いながらも話を聞いてくれようとするジュードに申し訳なくなりながらエイラはシーツの中で体を丸める。
「言いたいことがあるわけじゃないの。ただ、眠れなくて……ごめんね。ジュードは寝てて」
ジュードは立ち上がるとエイラが寝ているベッド脇に腰掛け、震える声を抑えながら小さくなったエイラの背中を優しく撫でる。
「ルルはエイラのこと本当に大事に思ってるよ。それだけは断言できる」
「うん…………ありがとう」
ジュードが暫く背中をさすっていると、エイラは小さな寝息を立てて眠り始めた。
ジュードはエイラの顔を覗き込み、頬を伝う涙をそっと拭うとソファーへと戻り、眠りについた。
「ただいまぁ」
小屋の中はエイラとジュードが初めて会い、出発した時のままだ。
「狭いな……」
エイラに続いて小屋に入ったジュードがぼそりと呟いたのをエイラは聞き逃さない。
「あ! 今バカにしたでしょ。そりゃジュードの家に比べたら貧相な家だけどね!」
「い、いや、別にそういうつもりて言ったんじゃ……」
狼狽えるジュードにエイラはふふっ、と笑うとじじ様の位牌に手を合わす。
「じじ様、本当は生きている時にちゃんと話を聞きたかったけど。明日、じじ様に言われた石鎚を退けてみます」
村に着いた時にはもう日が沈んでいたため、その日は小屋へ泊まることにした。エイラはベッドへ横になり、ジュードはソファーに座る。
「ねぇ、やっぱり私がそっちで寝るよ。前もソファーで寝てもらったけど、狭くてなんだか可哀想だった」
「いや、俺はこっちで大丈夫。野宿するよりよっぽどいいし。エイラがベッド使えよ」
「でも……」
小さな小屋の小さなソファーはジュードが寝るにはあまりにも小さすぎる。じじ様が生前使っていたベッドはじじ様が亡くなった後片付けてしまった。なるべく小屋を広く使いたかったが、こんなことなら残しておけば良かったと少し後悔した。
「じゃあさ、ベッドで一緒に寝る?」
「は、はぁ?! 何言ってんだよ」
「私、ジュードとなら一緒に寝てもいいよ」
「バカなこと言ってないでさっさと寝ろ」
ジュードはそのままソファーに横になるとはみ出た足を投げ出し腕を組んで目を閉じた。
「おやすみ、ジュード」
「おやすみ」
「途中で体ツラくなったらいつでも入ってきていいからね」
「もういいって」
目を閉じたままのジュードにエイラは優しく微笑むとベッドの少し端によって横向きになり、目を閉じて眠った。
ジュードはそんなエイラをチラリと確認したが、絶対に一緒には寝ないと固く心に誓ってもう一度目を閉じた。
――――――――――
「結構、登るんだな」
次の日の早朝から神台のある場所へ行くために山へ登り始めたが、昼を過ぎてもまだ着かない。
「そうなんだよね。けっこう神台まで行くの大変なんだよ。でも、もうすぐ着くよ」
神台が遠かったために、十年前村が襲われた時エイラとじじ様が山を降りた時には全てが終わっていた。だが、遠かったおかげで、エイラとじじ様は助かったのだ。
その後少し歩くと、山の頂上へと到着した。頂上から反対側に少し下った所に神台がある。
「石鎚を退かすんだろ? どれが石鎚なんだ?」
「これのことだよ」
エイラが指差した石鎚とは神台の台の部分だった。人が一人寝転べるほどの大きさがある。
「崖崩れがあった時に山を固めるのにこの石鎚を使って、それを神台にしたんだって言ってた」
「そうなんだ。じゃあ、これを退かそう」
エイラとジュードは二人で石鎚を持ち上げようとするが、びくともしない。
「エマ、力を貸してもらえる?」
「もちろんよ」
エイラは石鎚が風に吹かれ浮き上がり滑り落ちるようイメージする。
イメージ通りにはいっていないが、石鎚がガタガタ浮きはじめた。ジュードはタイミングを見計らい、石鎚が大きく揺れた瞬間勢いよく押した。
――ドッシーン!!
石鎚が退かされると、そこには大きな穴が空いており、中には階段があった。
「え……何ここ……」
「洞窟になってるんだ」
エイラは初めて見るその様子に呆気に取られている。ジュードは中を覗き込むと、フィブに頼み、火で明かりを灯した。
「石鎚を退けろってことは中に入れってことだろ? 行こう」
躊躇なくその薄暗い階段を下っていくジュードの後ろをエイラは恐る恐る付いて行く。
「こんな場所があるなんて全然知らなかった。じじ様本当に何にも言わないんだから」
もうこの世にはいないじじ様に文句を言いながら進んでいると、広い空間に突き当たった。
「フィブ、もう少し明るくしよう」
広く、暗い空間を明るく照らすように炎を大きくすると、そこに腰の高さほどの岩があり、岩の上には一冊の本が置かれてある。題名も著者も書いていない本だったが、エイラは中を開き、手書きのそれを見て直ぐに誰が書いたものかわかった。
「じじ様の字だ」
エイラはページを捲ると一枚の紙がハラハラと落ちる。それはじじ様からエイラへの短い手紙だった。
『エイラ、その力を背負いきれなくなった時、ルルと一緒に終焉の森へ行きなさい。ルルには全てお願いしてある』
その手紙の内容にエイラの顔はみるみる強張っていく。
「え……? どういうこと? ルルに、お願いしてある?」
ルルはじじ様から話を聞いていた。じじ様は終焉の森へ行けば精霊の源を森へ還せることができるとわかって、ルルに頼んでいたのだろう。
「ルルが、ユグドラシルに還しに行こうって言ったんだろ?」
「そうだよ。だから私はユグドラシルを探す旅に出たんだよ」
エイラは訳が分からなかった。ルルはなぜユグドラシルに精霊の源を還そうと言ったのか。なぜ、ルルがユグドラシルの中に留まらなければならなかったのか。
「なぁ、ルルは今、ユグドラシルにいるのか?」
「えっ……?」
ジュードの疑問にエイラは動揺した。もし、ルルがユグドラシルにいないのなら、エイラは全てルルに騙されていたことになる。
「ルルは、精霊の源を手に入れたかったとか……?」
ジュードはショックを受けるエイラの様子を伺いながらも、考えられる理由を少し言いにくそうに呟く。
「ルルも精霊の源なんていらないって言ってたわよ」
ずっと黙ってエイラとジュードの話を聞いていたエマが口を開いた。
「ルルは自分が精霊の源を手に入れてどうこうしようなんて思ってなかったと思うわ」
「なら、どうして……」
「エイラを、終焉の森に連れて行きたくなかったのか?」
「けど、ユグドラシルに還すのも、終焉の森へ還すのも変わらないんじゃ……」
「理由はルルに直接聞きに行こう」
ジュードとエイラはじじ様の本を持ち、山を降りた。
ルルは一人で終焉の森へ行ったのかもしれない。早く終焉の森へ行きたい気持ちを抑え小屋に戻ると、昨夜と同じようにエイラはベッドへ横になり、ジュードはソファーに腰掛けた。
――――――――――
「ジュード、起きてる?」
夜も更け、エイラとジュードが横になって暫くたった頃、眠れないエイラはジュードの名前を呼ぶ。
「早く寝ろよ」
「起きてたんだ」
「エイラの声で起きたんだよ」
「そっか。ごめん……」
寝ていたのに起こしてしまったのかと、エイラは謝罪しそのまま口をつぐんだ。
「なに?」
「えっ?」
「何か言いたいことがあるんじゃないの」
早く寝ろと言いながらも話を聞いてくれようとするジュードに申し訳なくなりながらエイラはシーツの中で体を丸める。
「言いたいことがあるわけじゃないの。ただ、眠れなくて……ごめんね。ジュードは寝てて」
ジュードは立ち上がるとエイラが寝ているベッド脇に腰掛け、震える声を抑えながら小さくなったエイラの背中を優しく撫でる。
「ルルはエイラのこと本当に大事に思ってるよ。それだけは断言できる」
「うん…………ありがとう」
ジュードが暫く背中をさすっていると、エイラは小さな寝息を立てて眠り始めた。
ジュードはエイラの顔を覗き込み、頬を伝う涙をそっと拭うとソファーへと戻り、眠りについた。