「フィオナさん、お世話になりました」
「いいえ、お世話だなんて。こちらこそあなたたちのおかげでやっとあの家をどうにか出来そうだわ」
少しずつ、魔石の魔力で作られた木は小さくなっている。暫くすれば、魔石と共に消え去るだろう。家自体は潰れてしまい跡形もないが、残骸からオリヴァー博士の研究資料などは出てくるはずだ。
エイラとジュードはフィオナに見送られスターレンの街を出発した。
まずはもう一度ユグドラシルを見つけなければならない。
「私は眠ってて覚えてないけど、前は聖獣が教えてくれたんでしょ? また教えてくれないかな?」
「さぁ。あの聖獣、俺たちのことあんまり良くは思ってないからな」
そう言いながらも、聖獣の森はスターレンからそれほど遠くはなかったため、取り敢えず行ってみることにした。
――――――――――
聖獣の森に入り暫く歩いたが、変わらず静かなこの森は、いくら探しても聖獣は姿を現さない。
「聖獣さーん、いますか? 精霊の源、還してきましたよ」
エイラが小動物でも探すように声をかけるが、やはり姿は現さない。そうしているうちに、泉のあるところに着いた。
ジュードがおもむろに畔にしゃがみ込むと、自分の手を剣で軽く傷を付け、そっと泉に浸けた。
「えっ! ジュード何してるの?!」
エイラは急に自ら傷を付けたジュードの行動に驚きながら駆け寄る。ジュードは、泉から手を出し傷を確認した。
「やっぱり……前に来た時はこの泉で傷が治ったけど、今はだめみたいだ」
以前ジュードの足の傷が治った時、ルルがユグドラシルがあったからだろうと言っていた。ユグドラシルが消えて暫く経つと癒しの力がなくなるのかもしれない。
「そういえば、ルルが前に言ってたの。ユグドラシルは妖精も聖獣も魔物でさえも生み出すんだって。冒険者たちが倒しても倒しても魔物が現れるのはユグドラシルがあるからなんだって」
ユグドラシルは世界中を廻りその力を与え様々なものを生み出しながらこの世界を創っている。そして魔力を持つものはユグドラシルによって生かされている。
「聖獣は精霊の源を欲しがっていた。エイラを泉に浸けてたのは、精霊の源をユグドラシルの代わりにするためだったのかも」
「ユグドラシルがない間の魔力供給のために?」
「だとしたら、精霊の源を終焉の森に還すことを知ったら怒るかもしれないな」
聖獣を頼るのは難しいと判断した二人は、その日は聖獣の森で泊まり、その後またランドールに戻って情報を集めることにした。
フィブの魔法で火を起こし、焚き火をしながらエイラとジュードはじじ様が書いた本を見る。
「じじ様とオリヴァー博士は一度、精霊賢者の死に際に立ち会ったけど、その時精霊の源の姿を見ることはできなかった……」
「俺も、父上が亡くなる時は何も見えなかった」
精霊の源はその姿が見える時もあれば見えない時もあった。
「契約してない妖精でも力を使えば姿を見せることが出来るのと同じ感じかな?」
「精霊の源にはそういう意志はないだろ」
「まぁ、確かに……」
二人は時間があれば、精霊の源について話した。精霊賢者であったジュードの父のことも。
「父上が俺に『真実は自分の目で見極めろ』って言い残して亡くなったんだ。俺はまだその言葉の意味を良く分かってない」
ジュードはずっとその言葉の意味を考え、何かあればいつも思い出している。それでも父の言葉の真意はまだ理解できなかった。
「私も、昔じじ様に言われてよく分からなかったことがあるの。毎月神台にお供えに行くけど、神様って本当にいるの? て聞いたら『目に見えるものは目に見えないもので創られているんだよ』って。今だによく分からないんだよね」
お互いに、お互いが言われた言葉を考えながら少しの沈黙が流れていた。すると突然、エイラが目を見開き勢いよく立ち上がる。
「あぁ!! 神台だ!!!」
「急に何? どうしたんだよ、座れよ」
ジュードは急に大声を出すエイラを冷めた目で宥めているが、エイラは何かを思い出しそわそわした様子だ。
「神台! 神台だよ!」
「だから神台がなんだよ」
エイラはしゃがむとジュードの前に手を着き詰め寄る。
「じじ様が亡くなる少し前に、もし今の自分の身の上で困ったことがあったら神台の石鎚を退けろって! もしかしたら、何か精霊の源に関係あるんじゃないかな?」
じじ様はずっとエイラが精霊源を宿していることについて何も言わなかったが、自分が亡くなりエイラが一人になった時のために遺しているものがあった。
「なんでもっと早く言わなかったんだよ」
「だって今まで忘れてたんだもん」
二人はランドールに行くのは一旦止め、エイラの村へと行くことにした。
――――――――――
「ねぇ、エマはハルのお父さんの契約妖精だったんだよね? いつからあの村にいたの?」
「私は契約する少し前からよ。元々色んなところをふらふらしてたけど、ハルの父親と契約してあの村に住むようになったの」
「そうなんだ……」
「ルルは随分前からあの村にいたみたいだけどね」
ルルは何百年も昔に契約していた冒険者が亡くなった後、あの村へたどり着き、穏やかなその村に住み着いた。それがエマがルルから聞いていたことだった。
「ルルはじじ様のお祖父さんのことを知っていたのかな……」
ルルに早く会いたい。聞きたいことも沢山ある。
「ところでさ、エイラの村の名前は? ないの?」
ジュードが村の話をしているエイラとエマに、ずっと気になっていたことを聞いた。
「村の名前? ペレス村だよ」
「ペレス?」
じじ様の名前はジョージ・ペレス。村の名前とじじ様の姓が一緒だ。
「ちなみに私もエイラ・ペレス。村の人はみんな村の外で名前を名乗る時ペレス姓を名乗るの」
「そうなんだ……ペレス村……」
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
ジュードは村に名前はないのかもしれないと思っていた。父が亡くなった後、父が焼き払ってしまったその村を地図で調べたが、そこに村の名は無かった。
(全て終わって王都へ帰ったら地図に村の名前を載せよう)
ジュードは密かにそんなことを考えていた。
「いいえ、お世話だなんて。こちらこそあなたたちのおかげでやっとあの家をどうにか出来そうだわ」
少しずつ、魔石の魔力で作られた木は小さくなっている。暫くすれば、魔石と共に消え去るだろう。家自体は潰れてしまい跡形もないが、残骸からオリヴァー博士の研究資料などは出てくるはずだ。
エイラとジュードはフィオナに見送られスターレンの街を出発した。
まずはもう一度ユグドラシルを見つけなければならない。
「私は眠ってて覚えてないけど、前は聖獣が教えてくれたんでしょ? また教えてくれないかな?」
「さぁ。あの聖獣、俺たちのことあんまり良くは思ってないからな」
そう言いながらも、聖獣の森はスターレンからそれほど遠くはなかったため、取り敢えず行ってみることにした。
――――――――――
聖獣の森に入り暫く歩いたが、変わらず静かなこの森は、いくら探しても聖獣は姿を現さない。
「聖獣さーん、いますか? 精霊の源、還してきましたよ」
エイラが小動物でも探すように声をかけるが、やはり姿は現さない。そうしているうちに、泉のあるところに着いた。
ジュードがおもむろに畔にしゃがみ込むと、自分の手を剣で軽く傷を付け、そっと泉に浸けた。
「えっ! ジュード何してるの?!」
エイラは急に自ら傷を付けたジュードの行動に驚きながら駆け寄る。ジュードは、泉から手を出し傷を確認した。
「やっぱり……前に来た時はこの泉で傷が治ったけど、今はだめみたいだ」
以前ジュードの足の傷が治った時、ルルがユグドラシルがあったからだろうと言っていた。ユグドラシルが消えて暫く経つと癒しの力がなくなるのかもしれない。
「そういえば、ルルが前に言ってたの。ユグドラシルは妖精も聖獣も魔物でさえも生み出すんだって。冒険者たちが倒しても倒しても魔物が現れるのはユグドラシルがあるからなんだって」
ユグドラシルは世界中を廻りその力を与え様々なものを生み出しながらこの世界を創っている。そして魔力を持つものはユグドラシルによって生かされている。
「聖獣は精霊の源を欲しがっていた。エイラを泉に浸けてたのは、精霊の源をユグドラシルの代わりにするためだったのかも」
「ユグドラシルがない間の魔力供給のために?」
「だとしたら、精霊の源を終焉の森に還すことを知ったら怒るかもしれないな」
聖獣を頼るのは難しいと判断した二人は、その日は聖獣の森で泊まり、その後またランドールに戻って情報を集めることにした。
フィブの魔法で火を起こし、焚き火をしながらエイラとジュードはじじ様が書いた本を見る。
「じじ様とオリヴァー博士は一度、精霊賢者の死に際に立ち会ったけど、その時精霊の源の姿を見ることはできなかった……」
「俺も、父上が亡くなる時は何も見えなかった」
精霊の源はその姿が見える時もあれば見えない時もあった。
「契約してない妖精でも力を使えば姿を見せることが出来るのと同じ感じかな?」
「精霊の源にはそういう意志はないだろ」
「まぁ、確かに……」
二人は時間があれば、精霊の源について話した。精霊賢者であったジュードの父のことも。
「父上が俺に『真実は自分の目で見極めろ』って言い残して亡くなったんだ。俺はまだその言葉の意味を良く分かってない」
ジュードはずっとその言葉の意味を考え、何かあればいつも思い出している。それでも父の言葉の真意はまだ理解できなかった。
「私も、昔じじ様に言われてよく分からなかったことがあるの。毎月神台にお供えに行くけど、神様って本当にいるの? て聞いたら『目に見えるものは目に見えないもので創られているんだよ』って。今だによく分からないんだよね」
お互いに、お互いが言われた言葉を考えながら少しの沈黙が流れていた。すると突然、エイラが目を見開き勢いよく立ち上がる。
「あぁ!! 神台だ!!!」
「急に何? どうしたんだよ、座れよ」
ジュードは急に大声を出すエイラを冷めた目で宥めているが、エイラは何かを思い出しそわそわした様子だ。
「神台! 神台だよ!」
「だから神台がなんだよ」
エイラはしゃがむとジュードの前に手を着き詰め寄る。
「じじ様が亡くなる少し前に、もし今の自分の身の上で困ったことがあったら神台の石鎚を退けろって! もしかしたら、何か精霊の源に関係あるんじゃないかな?」
じじ様はずっとエイラが精霊源を宿していることについて何も言わなかったが、自分が亡くなりエイラが一人になった時のために遺しているものがあった。
「なんでもっと早く言わなかったんだよ」
「だって今まで忘れてたんだもん」
二人はランドールに行くのは一旦止め、エイラの村へと行くことにした。
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「ねぇ、エマはハルのお父さんの契約妖精だったんだよね? いつからあの村にいたの?」
「私は契約する少し前からよ。元々色んなところをふらふらしてたけど、ハルの父親と契約してあの村に住むようになったの」
「そうなんだ……」
「ルルは随分前からあの村にいたみたいだけどね」
ルルは何百年も昔に契約していた冒険者が亡くなった後、あの村へたどり着き、穏やかなその村に住み着いた。それがエマがルルから聞いていたことだった。
「ルルはじじ様のお祖父さんのことを知っていたのかな……」
ルルに早く会いたい。聞きたいことも沢山ある。
「ところでさ、エイラの村の名前は? ないの?」
ジュードが村の話をしているエイラとエマに、ずっと気になっていたことを聞いた。
「村の名前? ペレス村だよ」
「ペレス?」
じじ様の名前はジョージ・ペレス。村の名前とじじ様の姓が一緒だ。
「ちなみに私もエイラ・ペレス。村の人はみんな村の外で名前を名乗る時ペレス姓を名乗るの」
「そうなんだ……ペレス村……」
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
ジュードは村に名前はないのかもしれないと思っていた。父が亡くなった後、父が焼き払ってしまったその村を地図で調べたが、そこに村の名は無かった。
(全て終わって王都へ帰ったら地図に村の名前を載せよう)
ジュードは密かにそんなことを考えていた。