エイラとジュードはランドールを出て数日後、スターレンの街へと到着した。
「大きな建物がいっぱいだね」
大学や研究所、図書館などが立ち並び、煙突から煙が出ている建物もある。
「街に入ってすぐは色んな施設が集まってるところなんだ。奥に行けば、商店街も住宅街もあるよ」
「そうなんだ! まずは図書館に行くでしょ?」
「ああ、オリヴァー博士に会う前に博士が書いた本を読んで行った方がいいしな」
二人はランドールの中心にある、国で一番大きく、国内全ての書物が集められているというスターレン国立図書館へと向かった。
広大な敷地に大きな二階建ての本館があり、噴水のある広場を挟んだ隣に別館がある。
ジュードは以前父と来た時、別館で精霊の源について調べたのを思い出し、エイラと別館に入った。
「うわぁ、当たり前だけど本ばっかりだね」
床から天井までの本棚にびっしりと揃えられた本たちは新しいものからかなり古いものまで入り乱れて並んでいる。
「これは、探すのも大変かもしれないな」
エイラとジュードは手分けしてオリヴァー博士の本を探す。高いところにある本はエマとフィブにも探すのを手伝ってもらった。
「ねぇエイラ『魔法と属性』オリヴァー・ハドソンっていう本があるわよ」
エマが本を抜き出し、風で浮かせながらエイラの腕の中へ運ぶ。
「あ! これだよ」
「こっちにも『妖精の誕生と終焉』って本があるけど」
ジュードが見つけた本も著者オリヴァー・ハドソンと書かれている。
「他にもあるみたいだよ」
フィブもいくつかオリヴァー博士の本を見つけたようだった。同じ著者の本であるのに、バラバラの場所に置かれてある。
「探すの大変そうだね」
その後も手分けしてオリヴァー博士の本を探したが、魔法や魔力、妖精について書かれた本はあっても、精霊の源そのものについて書かれた本は見つからなかった。
「魔法についての本しかないのかな?」
「でも、確かに父上は精霊の源について書いてあるんだって言って熱心に本を読んでたんだ……」
「そうなんだ……まぁ、まだ探してないところもあるし、もしかしたら本館にあるのかも」
その日はもう遅かったため、次の日もう一度探しに来ることにした。
――――――――――
次の日は先に本館へと入った。
本館は、本だけしかない別館と違い、広い読書スペースや談話室、研究室などもありたくさんの人が利用している。
まず二人は受付へ行き精霊の源について書かれた本がないか聞いてみた。
「ああ、その本でしたら別館にありますよ」
ジュードの記憶通り、別館にあるようだ。だが、昨日あれだけ探したのに見つけることは出来なかった。
「その本の著者はオリヴァー・ハドソンですか?」
「はい。ですがその本は共著になります。良かったらご案内しましょうか? 確かに少し分かりにくいんですよ」
その申し出に甘え、案内してもらうことにした二人は受付の女性について別館へと入っていく。
入り口から向かって左の通路の通り突き当たりを右へ進むと半地下のようなスペースがある。数段の階段を降り、奥へ進むと受付の女性は一つの本棚を指差す。
「これです。この、著者ジョージ・ペレス、オリヴァー・ハドソンと書いてある本が精霊の源についての本ですよ」
受付の女性は説明を終えると本館へと戻って行った。
「エイラ?」
エイラは案内された場所でじっと本を見つめ動かなくなっている。
ジュードはその様子を不思議に思い声をかける。
「ジョージ・ペレス……」
「共著の人がどうかした?」
「これ、じじ様の名前なの……」
偶然同じ名前なのか、この本の著者がじじ様なのかエイラは頭が混乱してくる。
「とりあえず、読んでみよう」
「そう、だね」
薄暗いその場所から『精霊の源と賢者』という本を持ち出し、小さな机が置いてある読書スペースで本を開いた。
――精霊の源、それは魔力の集合体であり、四枚の羽を模した姿をしている。四枚の羽はそれぞれ水、火、風、木の属性の魔力を持ち、全ての妖精と共鳴する。
「ルルが言ってたことと同じだね」
「ああ」
その先も読み進めると、途中からある精霊賢者の生涯についてが書かれてあった。
――メイソン・ペレス
著者ジョージ・ペレスの祖父であった彼は齢六十にして精霊の源を宿すことになった。
メイソンは小さな村に生まれ育ち、家庭を持つごく普通の農夫だった。
メイソンが六十になった頃、村の隣の山が崖崩れを起こし村に土砂が村を襲う。その時、メイソンに精霊の源が宿ったのだ。
メイソンはその力を持って土砂から村人を救い、山を再建させる。そして、間もなくメイソンは急激に体が衰弱し、亡くなった。
精霊の源を宿した僅か数日ほどのことであった。
これが村人しか知らない、たった数日間の精霊賢者メイソンの生涯だった。
メイソンの孫であるジョージ・ペレスはメイソンが亡くなる瞬間、精霊の源が大気に放たれるのを目にしていた。羽の姿をしたそれがメイソンの体から離れていくと重なっていた四枚の羽がバラバラになり、それぞれが大気中を彷徨うように浮遊している。暫くすると一枚ずつの羽が大気中から光を集め、その輝きを増すとまた四枚が重なり羽ばたきならが消えていった。
その後ジョージは精霊の源を研究するための旅に出た。そして精霊の源を研究しているオリヴァーと出会い共に探究を重ね、二人でいくつかの文献を残すとジョージは故郷の村へと帰っていった。
――――――――――
「昔、崖崩れのあった村……うちの村だ」
十年前魔物に村が襲われた時、エイラとじじ様が行っていた神台のある山がその山だ。崖崩れがあった後に山に神台を造り毎月お供え物をしているんだとじじ様が言っていた。
「じゃあ、やっぱりこの著者はじじ様なのか……」
「じじ様、自分のお祖父さんが精霊賢者だったなんて、一言も言ってなかった」
七歳で精霊の源を宿したエイラはルルから教えられたことをじじ様にも伝えた。じじ様は「そうか」しか言わず、その後もずっと村で変わらない生活を送っていた。
「他にもジョージ・ペレスの本がないか探してみよう」
「うん」
だが、半地下の本棚には他にジョージ・ペレスの本もオリヴァー博士との共著も見つからない。精霊の源について書いてあるのもその一冊だけだった。
「いくつかの文献を残した、って書いてあったんだけどな……」
「また受付の人に聞きに行こうか」
「そうだね」
エイラとジュードはもう一度本館の受付へ行き、先ほど案内してくれた女性にジョージ・ペレスの本がないか訪ねる。
「ここにあるのはあの本だけなんです」
「他の場所にはあるということですか?!」
エイラは他にもじじ様の本があることに興奮しながら受付へ前のめりになり聞く。
「他は全てオリヴァー博士の自宅に保管していると思います」
「あの、俺たちそのオリヴァー博士に会いたいんですが、家を教えてもらえませんか?」
オリヴァー博士が持っているなら話も聞かせてもらい、本も読ませてもらうのが早いと思った。だが、受付の女性は困ったように首を横に振る。
「いや……オリヴァー博士はもう亡くなっていて……」
「「えっ……」」
オリヴァー博士は数年前、街で突然倒れそのまま病院で亡くなった。その後、他の研究者たちがオリヴァー博士の自宅の整理に向かおうとしたが、様々な現象で行く手を阻まれ誰も博士の家に入ることが出来ず、今でも生前と同じ状態のまま放置されていた。
「たぶん、妖精の仕業だろうと博士の家へ向かった者は言っていましたが、中に入れた者は一人もいないんです」
「そんな……」
エイラは肩を落とし項垂れるが、ジュードは何か考え込む。
「あの、もし中へ入れたら博士の家のものを見てもいいですか?」
「ええ、たぶんいいと思いますけど……少し待って下さい」
受付の女性は立ち上がりパタパタと駆けて行くと、何処からか白衣を着た女性を連れて戻ってきた。
「彼女はフィオナさん、オリヴァー博士の助手だった方なんです。博士のことは彼女に聞いて下さい」
「フィオナです、よろしく。博士の家へ行きたいんでしょう? さっそく行きましょう」
フィオナはエイラとジュードを見てにこりと微笑むと手招きして図書館の外へと出るとオリヴァー博士の家へと向かった。
「大きな建物がいっぱいだね」
大学や研究所、図書館などが立ち並び、煙突から煙が出ている建物もある。
「街に入ってすぐは色んな施設が集まってるところなんだ。奥に行けば、商店街も住宅街もあるよ」
「そうなんだ! まずは図書館に行くでしょ?」
「ああ、オリヴァー博士に会う前に博士が書いた本を読んで行った方がいいしな」
二人はランドールの中心にある、国で一番大きく、国内全ての書物が集められているというスターレン国立図書館へと向かった。
広大な敷地に大きな二階建ての本館があり、噴水のある広場を挟んだ隣に別館がある。
ジュードは以前父と来た時、別館で精霊の源について調べたのを思い出し、エイラと別館に入った。
「うわぁ、当たり前だけど本ばっかりだね」
床から天井までの本棚にびっしりと揃えられた本たちは新しいものからかなり古いものまで入り乱れて並んでいる。
「これは、探すのも大変かもしれないな」
エイラとジュードは手分けしてオリヴァー博士の本を探す。高いところにある本はエマとフィブにも探すのを手伝ってもらった。
「ねぇエイラ『魔法と属性』オリヴァー・ハドソンっていう本があるわよ」
エマが本を抜き出し、風で浮かせながらエイラの腕の中へ運ぶ。
「あ! これだよ」
「こっちにも『妖精の誕生と終焉』って本があるけど」
ジュードが見つけた本も著者オリヴァー・ハドソンと書かれている。
「他にもあるみたいだよ」
フィブもいくつかオリヴァー博士の本を見つけたようだった。同じ著者の本であるのに、バラバラの場所に置かれてある。
「探すの大変そうだね」
その後も手分けしてオリヴァー博士の本を探したが、魔法や魔力、妖精について書かれた本はあっても、精霊の源そのものについて書かれた本は見つからなかった。
「魔法についての本しかないのかな?」
「でも、確かに父上は精霊の源について書いてあるんだって言って熱心に本を読んでたんだ……」
「そうなんだ……まぁ、まだ探してないところもあるし、もしかしたら本館にあるのかも」
その日はもう遅かったため、次の日もう一度探しに来ることにした。
――――――――――
次の日は先に本館へと入った。
本館は、本だけしかない別館と違い、広い読書スペースや談話室、研究室などもありたくさんの人が利用している。
まず二人は受付へ行き精霊の源について書かれた本がないか聞いてみた。
「ああ、その本でしたら別館にありますよ」
ジュードの記憶通り、別館にあるようだ。だが、昨日あれだけ探したのに見つけることは出来なかった。
「その本の著者はオリヴァー・ハドソンですか?」
「はい。ですがその本は共著になります。良かったらご案内しましょうか? 確かに少し分かりにくいんですよ」
その申し出に甘え、案内してもらうことにした二人は受付の女性について別館へと入っていく。
入り口から向かって左の通路の通り突き当たりを右へ進むと半地下のようなスペースがある。数段の階段を降り、奥へ進むと受付の女性は一つの本棚を指差す。
「これです。この、著者ジョージ・ペレス、オリヴァー・ハドソンと書いてある本が精霊の源についての本ですよ」
受付の女性は説明を終えると本館へと戻って行った。
「エイラ?」
エイラは案内された場所でじっと本を見つめ動かなくなっている。
ジュードはその様子を不思議に思い声をかける。
「ジョージ・ペレス……」
「共著の人がどうかした?」
「これ、じじ様の名前なの……」
偶然同じ名前なのか、この本の著者がじじ様なのかエイラは頭が混乱してくる。
「とりあえず、読んでみよう」
「そう、だね」
薄暗いその場所から『精霊の源と賢者』という本を持ち出し、小さな机が置いてある読書スペースで本を開いた。
――精霊の源、それは魔力の集合体であり、四枚の羽を模した姿をしている。四枚の羽はそれぞれ水、火、風、木の属性の魔力を持ち、全ての妖精と共鳴する。
「ルルが言ってたことと同じだね」
「ああ」
その先も読み進めると、途中からある精霊賢者の生涯についてが書かれてあった。
――メイソン・ペレス
著者ジョージ・ペレスの祖父であった彼は齢六十にして精霊の源を宿すことになった。
メイソンは小さな村に生まれ育ち、家庭を持つごく普通の農夫だった。
メイソンが六十になった頃、村の隣の山が崖崩れを起こし村に土砂が村を襲う。その時、メイソンに精霊の源が宿ったのだ。
メイソンはその力を持って土砂から村人を救い、山を再建させる。そして、間もなくメイソンは急激に体が衰弱し、亡くなった。
精霊の源を宿した僅か数日ほどのことであった。
これが村人しか知らない、たった数日間の精霊賢者メイソンの生涯だった。
メイソンの孫であるジョージ・ペレスはメイソンが亡くなる瞬間、精霊の源が大気に放たれるのを目にしていた。羽の姿をしたそれがメイソンの体から離れていくと重なっていた四枚の羽がバラバラになり、それぞれが大気中を彷徨うように浮遊している。暫くすると一枚ずつの羽が大気中から光を集め、その輝きを増すとまた四枚が重なり羽ばたきならが消えていった。
その後ジョージは精霊の源を研究するための旅に出た。そして精霊の源を研究しているオリヴァーと出会い共に探究を重ね、二人でいくつかの文献を残すとジョージは故郷の村へと帰っていった。
――――――――――
「昔、崖崩れのあった村……うちの村だ」
十年前魔物に村が襲われた時、エイラとじじ様が行っていた神台のある山がその山だ。崖崩れがあった後に山に神台を造り毎月お供え物をしているんだとじじ様が言っていた。
「じゃあ、やっぱりこの著者はじじ様なのか……」
「じじ様、自分のお祖父さんが精霊賢者だったなんて、一言も言ってなかった」
七歳で精霊の源を宿したエイラはルルから教えられたことをじじ様にも伝えた。じじ様は「そうか」しか言わず、その後もずっと村で変わらない生活を送っていた。
「他にもジョージ・ペレスの本がないか探してみよう」
「うん」
だが、半地下の本棚には他にジョージ・ペレスの本もオリヴァー博士との共著も見つからない。精霊の源について書いてあるのもその一冊だけだった。
「いくつかの文献を残した、って書いてあったんだけどな……」
「また受付の人に聞きに行こうか」
「そうだね」
エイラとジュードはもう一度本館の受付へ行き、先ほど案内してくれた女性にジョージ・ペレスの本がないか訪ねる。
「ここにあるのはあの本だけなんです」
「他の場所にはあるということですか?!」
エイラは他にもじじ様の本があることに興奮しながら受付へ前のめりになり聞く。
「他は全てオリヴァー博士の自宅に保管していると思います」
「あの、俺たちそのオリヴァー博士に会いたいんですが、家を教えてもらえませんか?」
オリヴァー博士が持っているなら話も聞かせてもらい、本も読ませてもらうのが早いと思った。だが、受付の女性は困ったように首を横に振る。
「いや……オリヴァー博士はもう亡くなっていて……」
「「えっ……」」
オリヴァー博士は数年前、街で突然倒れそのまま病院で亡くなった。その後、他の研究者たちがオリヴァー博士の自宅の整理に向かおうとしたが、様々な現象で行く手を阻まれ誰も博士の家に入ることが出来ず、今でも生前と同じ状態のまま放置されていた。
「たぶん、妖精の仕業だろうと博士の家へ向かった者は言っていましたが、中に入れた者は一人もいないんです」
「そんな……」
エイラは肩を落とし項垂れるが、ジュードは何か考え込む。
「あの、もし中へ入れたら博士の家のものを見てもいいですか?」
「ええ、たぶんいいと思いますけど……少し待って下さい」
受付の女性は立ち上がりパタパタと駆けて行くと、何処からか白衣を着た女性を連れて戻ってきた。
「彼女はフィオナさん、オリヴァー博士の助手だった方なんです。博士のことは彼女に聞いて下さい」
「フィオナです、よろしく。博士の家へ行きたいんでしょう? さっそく行きましょう」
フィオナはエイラとジュードを見てにこりと微笑むと手招きして図書館の外へと出るとオリヴァー博士の家へと向かった。