「ジェイコブ団長、お久しぶりです」

 ジュードは王宮の建物から出てきたジェイコブに声をかけた。

「ジュード君、久しぶりだね。もう帰らないのかと思っていたよ」

 ジェイコブは見下したような視線をジュードに向ける。そして、横にいるエイラにも。

「マリアンヌ王女という婚約者がいながら他の女性を連れているのか。いい身分だな」

 ジュードは黙ってジェイコブの方を向いたままエイラを自分の後ろへと隠すように前へ出る。

「ジェイコブ団長、先ほどあなたが厨房でいるのを見ましたよ。あなたは王太子暗殺を企て王宮コックに毒薬を渡しましたね」

「そんな証拠がどこにある」

 あくまでもジェイコブはシラを切るつもりだ。

「ヘンリー伯父上は捕まりましたよ」
「っ! あいつは……」

 あの後、近衛兵を呼びヘンリーは気を失ったまま拘束された。先ほどのコックの男が毒薬を持っていればヘンリーとジェイコブの企みも明るみになるだろう。

「毒薬を持ったコックも捕まるでしょう。言い逃れはできません」
「ははっ、ははははは」

 ジェイコブはジュードの言葉に不気味な笑い声をあげた。

「さっきの男は関係ない。もう遅いんだよ。このままバレなければ王太子は死にアンドリューを王女の婚約者に仕立て上げようと思っていたのに。お前は帰ってくるしヘンリーは捕まる。私の計画が丸つぶれだ」

 ジェイコブは釈放されたばかりで剣を持っていなかったが、手を振りかざすと鋭い氷の剣が現れた。

「ジュード! お前には消えて貰う!」

 ジェイコブは氷の剣をジュードに向け切りかってくる。

「エイラ! 下がって! フィブ行くよ」

 ジュードも剣を抜きフィブの炎を纏うと、ジェイコブと剣を交える。

――カンッカンッカンッ

 ジュードも善戦しているが、相手はやはり騎士団長だ。体格の差もあり互角に戦っているように見えてかなり押されている。それに火属性の魔法と水属性の魔法では火の方が部が悪い。

「ルル、私たちも」

 エイラはジェイコブに向かって氷の矢を飛ばす。

――シュッ、シュッ

 氷の矢はジェイコブの頬や腕を掠める。

「っ!」

「エイラ! 殺すなよ」
「それはわかってる!」

 その時、ジェイコブは巨大な水氷の渦を二人めがけて噴出した。

「ジュード!」

 エイラは氷の盾と風の力を使い、渦を弾きとばす。だが、四方八方に翔んだ氷が王宮の城壁を次々と壊していく。そこにはちょうどジェイコブを捕らえようと集まってきた騎士たちがいた。

「危ない!」

――――――――――

「あっ……」

 身構えた騎士たちは時間が止まったかのように固まり、城壁を見上げる。

 崩れかけた城壁は大量の木の蔓によって支えられ、四方八方に翔んでいた氷は強力な炎によって溶かされていた。

「もう、そこまでだ!」

 ジュードは一瞬の隙にジェイコブを取り押さえ、そのまま騎士たちが拘束し連れて行った。


「エイラ! 大丈夫!? 力、使っただろ」

「うん。大丈夫」

 少し息が乱れてはいるが、ドラコンを倒した時ほど体調が悪くなってはいない。

「ここにいるのは騎士たちと契約してる妖精も多いから、きっと自分から協力してくれだんだと思う」

「そうか。なら良かった」

 二人が騎士たちに連れていかれるジェイコブを見送っていると、アンドリューが慌てた様子で駆けてきた。

「ジュード! 王太子が倒れた!」
「「えっ!」」
「既に毒を摂取してたみたいだ。遅延性の毒だよ」

 アンドリューが取り押さえた男の話では昨日辞めたコックは配膳まで担当していたということ。その後王太子のところへ向かったが、アンドリューが着いてすぐに毒味役をしていた給仕が血を吐いて倒れた。周りが混乱しているところに王太子も血を吐いて倒れてしまったのだ。

「もう遅いとはこのことだったのか!」

 ジュードとエイラも王太子の元へと向かった。

 ベッドには王太子と給仕が寝ており、医師たちが忙しなく処置をしているが、あまり良い状況とは言えない。

「お兄様……」

 マリアンヌはベッド横で王太子の手を握っている。国王は医師たちと何やら言い争っていた。

「今から行っても間に合いません!」
「だからといって何もせずに諦めるのか! 誰も行かぬのなら私が聖獣の森へ行く!」
「陛下! 無茶を言わないで下さい」

 解毒するには聖獣の森に生息する薬草が必要だった。だが、今から行って帰ってきたのではもう間に合わないだろうと医師と国王が揉めていたのだ。

 話を聞いていたエイラが言い合っている国王と医師に遠慮がちに声をかける。

「あの、もしかしてその薬草って……」

 エイラがポケットから忘れかけていた麻袋を取り出し医師に差し出す。

「こ、これは万陽花!」
「なにっ!?」

 国王も詰め寄り興奮しながら麻袋の中を確認する。

「ここに来る前、聖獣の森で見つけて採っていたんです。使ってください」
「ありがたい! 早く飲ませなければ!」

 医師は万陽花の根を調合するために急いで部屋を出て行く。

 少しすると、解毒薬を持ってきた医師が戻ってきて、王太子と給仕に飲ませる。
 
 二人の青ざめた顔色は次第に良くなり、呼吸も安定してきた。

「もう大丈夫でしょう。暫くすれば、目を覚ますと思います」

 医師の言葉に国王はエイラの手をぎゅっと握り何度も頭を下げる。

「君は息子の命の恩人だ。ありがとう。本当に、ありがとう」
「い、いえ」

 ジュードやマリアンヌ、アンドリュー、周りにいる者も皆、安心したように肩を撫で下ろした。

――――――――――

 捕らえられたヘンリーとジェイコブは王太子暗殺の罪を認めた。

 ヘンリーは十年前の件でジェイコブに脅され、王太子を暗殺するために遅延性の毒薬を入手しジェイコブに渡した。そしてジェイコブは王宮のコックを買収すると王太子に毒を飲ませるよう指示したのだった。ジェイコブは自ら一定期間投獄されることで王太子が毒殺される時のアリバイを作るこにした。それが、夜会での王太子襲撃の真相だった。あくまでも嫌疑をかけられるだけで、証拠不十分、暗殺者から王太子を守ったという立場であれば釈放された後は称賛されてるであろうなんてことを考えていた。

 だが、思いの他早く釈放されることになり、釈放された時点でまだ王太子は健在、その上ジュードとマリアンヌが仲良くデートしているところを目撃し、ジェイコブは慌てて状況を確認しようと王宮へ向かう。買収したコックに会いに厨房へ行ったが、コックは辞めており毒は既に投与されたことを確信したジェイコブは意気揚々と帰ろうとしたところにジュードに引き留められた。

 ヘンリーとジェイコブは王太子暗殺という大罪を企てた罪で終身刑を言い渡されることになる。そして毒を投与した後、コックを辞め逃げていた男も騎士団によってすぐに捕らえられた。