数日後、その日も草原で魔石や薬草を採取しギルドで換金してから宿へと戻った。
「よっ! お二人さん。ランドールはどうだ?」
「「ゲイルさん!」」
宿に入ると待合のソファーにゲイルが座っていた。ジュードとエイラはゲイルのところへ駆け寄る。
「訓練施設に行ったり、魔物狩りもしてるよ」
「ゲイルさんに言われた通り、ジュードに教えてもらって戦い方を覚えました」
二人とも、ドラゴンのことは敢えて言わなかった。
「そうか! それは偉いな」
ゲイルはソファーから立ち上がると両手で二人の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「ゲイルさんもこの宿に泊まってるの?」
「いや、幻妖の森から戻ってギルドに行ったら新入り二人組がこの宿に泊まってるって聞いたから待ってたんだ。お前たち飯いくぞ」
そう言うとゲイルは二人を連れ出し馴染みの店へと入った。
「すごく賑やかですね」
一見普通の食堂のようだが、強靭な男性たちばかりが酒を酌み交わし、料理はどれも初めて見るものばかり並んでいる。
「この店は冒険者御用達なんだ。自分で採ってきた魔物の調理もしてくれるんだぜ」
「え。俺、普通の店が良かった」
「ジュード! 贅沢言うんじゃないぞ」
三人のテーブルに運ばれて来たのは大きなお皿に乗った魔物の足の肉だった。
「俺が採ってきた魔物だ。遠慮せず食えよ」
「ええ……」
「わぁ、すごいですね。いただきますっ」
ジュードは渋っているが、エイラは躊躇うことなく食べ始める。
「ん、美味しい。ジュードこれ美味しいよ?」
食べないジュードにエイラは美味しいと勧めるが、ジュードは少し引いた目で見ていてやはり食べようとはしない。
「俺、普通の肉が良かった」
「坊っちゃんぶってんじゃないぞジュード!」
「ゲイルさん、坊っちゃんは禁句ですよ。怒られますよ」
エイラは換金所でのことを思い出しゲイルに耳打ちする。
「ジュード、お前はまだそんなこと言ってんのか。スカしてんなよ」
「そんなんじゃないよっ! わかったよ。食べればいいんだろ」
渋々食べ始めたジュードは文句を言いながらも次々と食べ進めていく。
「どうだ、美味いだろ」
「まぁ、食べれないことはない」
素直ではないジュードに懐かしく思いながらゲイルは満足そうに笑った。
「そういえば、探し物の情報収集は進んでるのか?」
エイラとジュードは食べていた手を止めると首を横に振る。
「そういうのはまだ」
ふーん、と相槌を打ち方ながらゲイルはエイラの方を向く。
「ところで、エイラちゃんが探してるものって何なんだ?」
「それ、俺もまだ聞いてない」
ジュードもエイラの方を見たが、エイラは困った顔をして言うべきか頭を悩ませる。チラッとルルに目線を向ける。
「何を探してるかくらいは言ってもいいんじゃない」
そう言いふわりと笑うルルを見てエイラは正直に言うことにした。
「私はユグドラシルを探してるんです」
「「ユグドラシル!?」」
ジュードとゲイルは予想外の探し物に驚いている。
「エイラちゃんなんでそんなもん探してるんだ?」
「えっと……お願い事をしようと思って……」
「エイラ、あれは迷信じゃない?」
ユグドラシルを見た者は願い事が叶うと昔から言い伝えられていた。だが、実際に見た者が願いが叶ったという話はなく、今ではユグドラシルを見ても何も起こらないと、その話はお伽噺のように語り継がれているだけだ。
「でもまぁ、自分の目で確かめてみたくて」
「二人とも、難儀なもん探してるなあ!」
ゲイルはジュードの肩をパシパシ叩き笑っていると突然「あ!」と何かを思い出したように手を止めた。
「そういや、ここにユグドラシル見たってやつがいたぜ」
「えっ! そうなんですか?」
ゲイルの発言にエイラは前のめりになる。
「ああ、この店のマスターの弟子だよ」
ゲイルはカウンターの方へ体を向けると厨房で料理をしている男性に声をかけた。
「マスター! 今弟子は街に居るのか?」
「ああ、今は遠出の仕事は行ってないからもうすぐ帰ってくるよ」
マスターは魔物を捌きながら返事をしてくれる。
「そいつはまだ若いが、小さい頃からマスターについて冒険者やってんだ」
「そうなんですね」
――カランカランッ
「噂をすりゃ帰ってきたぜ」
三人がドアの方へ目を向けると店に入ってきたのはハルだった。
「ハル!」
エイラがその場で立ち上がりハルに手を振る。
「エイラ。なんでこんな店に居るの?」
エイラに気付いたハルは呆れた顔で三人が座っているテーブルの側に来た。
「おいおいハル! こんな店とはなんだよ!」
マスターがカウンターから顔を覗かせ怒ってるがハルは気にすることもなく話を続ける。
「ゲイルさん、こんなむさ苦しい店にエイラを連れて来ないで下さいよ」
「なんだよ。お前たち知り合いか?」
ゲイルはエイラとハルを交互に見なが驚く。
「私たち、昔同じ村に住んでいた幼なじみなんです」
「同じ村で、幼なじみ。へぇ」
そう言いながらゲイルはジュードの方をチラッと見ると、視線に気付いたジュードはゲイルを無言で睨み付けた。
「ハルは、このお店に住んでるの?」
「そうだよ。十年前逃げた先で助けてくれたのがここのマスターでそれからずっとお世話になってる」
十年前村が魔物に襲われ、ハルが逃げ込んだ森で助けてくれたのが当時まだ冒険者現役だったマスターだ。マスターに連れられランドールに来てからはマスターについてハルも冒険者をはじめた。マスターが引退し、食堂を始めてからも一緒に住んでいる。
「なぁハル、前にユグドラシルを見たって言ってなかったか? エイラちゃんが探してるんだとよ」
「ああ、聖獣の森で見たよ。ちょうど一年前くらいかな」
聖獣の森はその名の通り聖獣が住んでいる森だ。
「あの森にしか生息しない薬草があって、薬屋からの依頼で時々行くんだ。森の中心に大きな泉があるんだけどあの日だけなぜか泉の中に泉が埋めつくされるくらいの大きな樹があったんだ」
「泉の中に大きな樹……」
エイラはハルの話に固唾をのむ。
「後からあの森によく出入りしている冒険者に聞いたら、それはユグドラシルだって教えてくれた。一年に一度くらい現れるらしい」
ハルがユグドラシルを見たのはちょうど一年前。一年に一度現れるとしたら今が聖獣の森に現れる時期かもしれない。
「ねぇジュード、私聖獣の森に行きたい」
「そうだな。行ってみよう」
二人はさっそく明日の朝、聖獣の森へ向かうことに決めた。
「よっ! お二人さん。ランドールはどうだ?」
「「ゲイルさん!」」
宿に入ると待合のソファーにゲイルが座っていた。ジュードとエイラはゲイルのところへ駆け寄る。
「訓練施設に行ったり、魔物狩りもしてるよ」
「ゲイルさんに言われた通り、ジュードに教えてもらって戦い方を覚えました」
二人とも、ドラゴンのことは敢えて言わなかった。
「そうか! それは偉いな」
ゲイルはソファーから立ち上がると両手で二人の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「ゲイルさんもこの宿に泊まってるの?」
「いや、幻妖の森から戻ってギルドに行ったら新入り二人組がこの宿に泊まってるって聞いたから待ってたんだ。お前たち飯いくぞ」
そう言うとゲイルは二人を連れ出し馴染みの店へと入った。
「すごく賑やかですね」
一見普通の食堂のようだが、強靭な男性たちばかりが酒を酌み交わし、料理はどれも初めて見るものばかり並んでいる。
「この店は冒険者御用達なんだ。自分で採ってきた魔物の調理もしてくれるんだぜ」
「え。俺、普通の店が良かった」
「ジュード! 贅沢言うんじゃないぞ」
三人のテーブルに運ばれて来たのは大きなお皿に乗った魔物の足の肉だった。
「俺が採ってきた魔物だ。遠慮せず食えよ」
「ええ……」
「わぁ、すごいですね。いただきますっ」
ジュードは渋っているが、エイラは躊躇うことなく食べ始める。
「ん、美味しい。ジュードこれ美味しいよ?」
食べないジュードにエイラは美味しいと勧めるが、ジュードは少し引いた目で見ていてやはり食べようとはしない。
「俺、普通の肉が良かった」
「坊っちゃんぶってんじゃないぞジュード!」
「ゲイルさん、坊っちゃんは禁句ですよ。怒られますよ」
エイラは換金所でのことを思い出しゲイルに耳打ちする。
「ジュード、お前はまだそんなこと言ってんのか。スカしてんなよ」
「そんなんじゃないよっ! わかったよ。食べればいいんだろ」
渋々食べ始めたジュードは文句を言いながらも次々と食べ進めていく。
「どうだ、美味いだろ」
「まぁ、食べれないことはない」
素直ではないジュードに懐かしく思いながらゲイルは満足そうに笑った。
「そういえば、探し物の情報収集は進んでるのか?」
エイラとジュードは食べていた手を止めると首を横に振る。
「そういうのはまだ」
ふーん、と相槌を打ち方ながらゲイルはエイラの方を向く。
「ところで、エイラちゃんが探してるものって何なんだ?」
「それ、俺もまだ聞いてない」
ジュードもエイラの方を見たが、エイラは困った顔をして言うべきか頭を悩ませる。チラッとルルに目線を向ける。
「何を探してるかくらいは言ってもいいんじゃない」
そう言いふわりと笑うルルを見てエイラは正直に言うことにした。
「私はユグドラシルを探してるんです」
「「ユグドラシル!?」」
ジュードとゲイルは予想外の探し物に驚いている。
「エイラちゃんなんでそんなもん探してるんだ?」
「えっと……お願い事をしようと思って……」
「エイラ、あれは迷信じゃない?」
ユグドラシルを見た者は願い事が叶うと昔から言い伝えられていた。だが、実際に見た者が願いが叶ったという話はなく、今ではユグドラシルを見ても何も起こらないと、その話はお伽噺のように語り継がれているだけだ。
「でもまぁ、自分の目で確かめてみたくて」
「二人とも、難儀なもん探してるなあ!」
ゲイルはジュードの肩をパシパシ叩き笑っていると突然「あ!」と何かを思い出したように手を止めた。
「そういや、ここにユグドラシル見たってやつがいたぜ」
「えっ! そうなんですか?」
ゲイルの発言にエイラは前のめりになる。
「ああ、この店のマスターの弟子だよ」
ゲイルはカウンターの方へ体を向けると厨房で料理をしている男性に声をかけた。
「マスター! 今弟子は街に居るのか?」
「ああ、今は遠出の仕事は行ってないからもうすぐ帰ってくるよ」
マスターは魔物を捌きながら返事をしてくれる。
「そいつはまだ若いが、小さい頃からマスターについて冒険者やってんだ」
「そうなんですね」
――カランカランッ
「噂をすりゃ帰ってきたぜ」
三人がドアの方へ目を向けると店に入ってきたのはハルだった。
「ハル!」
エイラがその場で立ち上がりハルに手を振る。
「エイラ。なんでこんな店に居るの?」
エイラに気付いたハルは呆れた顔で三人が座っているテーブルの側に来た。
「おいおいハル! こんな店とはなんだよ!」
マスターがカウンターから顔を覗かせ怒ってるがハルは気にすることもなく話を続ける。
「ゲイルさん、こんなむさ苦しい店にエイラを連れて来ないで下さいよ」
「なんだよ。お前たち知り合いか?」
ゲイルはエイラとハルを交互に見なが驚く。
「私たち、昔同じ村に住んでいた幼なじみなんです」
「同じ村で、幼なじみ。へぇ」
そう言いながらゲイルはジュードの方をチラッと見ると、視線に気付いたジュードはゲイルを無言で睨み付けた。
「ハルは、このお店に住んでるの?」
「そうだよ。十年前逃げた先で助けてくれたのがここのマスターでそれからずっとお世話になってる」
十年前村が魔物に襲われ、ハルが逃げ込んだ森で助けてくれたのが当時まだ冒険者現役だったマスターだ。マスターに連れられランドールに来てからはマスターについてハルも冒険者をはじめた。マスターが引退し、食堂を始めてからも一緒に住んでいる。
「なぁハル、前にユグドラシルを見たって言ってなかったか? エイラちゃんが探してるんだとよ」
「ああ、聖獣の森で見たよ。ちょうど一年前くらいかな」
聖獣の森はその名の通り聖獣が住んでいる森だ。
「あの森にしか生息しない薬草があって、薬屋からの依頼で時々行くんだ。森の中心に大きな泉があるんだけどあの日だけなぜか泉の中に泉が埋めつくされるくらいの大きな樹があったんだ」
「泉の中に大きな樹……」
エイラはハルの話に固唾をのむ。
「後からあの森によく出入りしている冒険者に聞いたら、それはユグドラシルだって教えてくれた。一年に一度くらい現れるらしい」
ハルがユグドラシルを見たのはちょうど一年前。一年に一度現れるとしたら今が聖獣の森に現れる時期かもしれない。
「ねぇジュード、私聖獣の森に行きたい」
「そうだな。行ってみよう」
二人はさっそく明日の朝、聖獣の森へ向かうことに決めた。