次の日の朝、エイラとジュードはギルド登録所に来ていた。
「結局、登録することになったね」
「訓練施設も使いたいし、しばらく滞在するなら登録しといた方が仕事もしやすいしな」
二人はとりあえず冒険者としてギルドに登録すると簡単な説明を受けギルド登録証を貰った。
「一通り妖精の魔法の使い方を覚えてから、魔物討伐の仕事をしよう」
ジュードにそう言われ、訓練施設にやって来た。訓練施設には疑似魔物がいたり、的当、藁切、闘技場などがある。
「すごく広い場所だね」
はじめに来たのは何もないただ芝生の広がる場所だった。
「妖精の魔法は契約者のイメージと創造で作られるんだ。まずはエイラのイメージした通りにルルの水を出す練習から始めよう」
「イメージ……」
エイラは目をつむり大きな水の球をイメージする。頭部しか覆うことのできなかったキメラを、丸ごと包み込める程の大きさをイメージしたつもりだったが。
――ザッバアーンッ
「…………」
「…………」
辺りを覆いつくす影が出来るほどの大きな水球が頭上に現れるとあっという間に弾け芝生の広場は辺り一面水浸しになった。
「おいおい、なにしてるだよ」
「いやぁ、びしょ濡れじゃんっ」
「す、すみませんっ」
近くにいた他の冒険者が火の魔法と風の魔法ですぐに乾かしてくれた。幸い怒られることはなかったが、随分と迷惑をかけてしまった。
「エイラ、一体どんなイメージしたんだよ」
まさか、こんなことになるとは思っていなかったエイラは苦笑し、ルルの方を向く。
「今の、ルルがやったの?」
「僕だけの力じゃないよ」
「えっ私、他の妖精の力も使っちゃった?」
「無理やりじゃないよ。近くにいた水の妖精たちが勝手に共鳴したんだ」
こそこそと話すエイラとルルにジュードが腰に手を当てため息を吐く。
「二人はさ、仲良いんだから魔法を使う時も呼吸を合わせて心を通わせてイメージを共有して!」
そしてスパルタ指導が始まった。
――――――――――
エイラはルルだけに意識を集中するように気をつける。手のひらほどの水球を出すと、勢いよく飛ばす。水球は的当の中心に当たった。
「当たった!」
「大分、コントロール出来るようになってきたな」
「だよね! けっこうコツ掴めてきた気がする」
ルルも満足そうにウンウン頷いている。
「水の妖精の魔法を戦闘用に使うなら氷を出した方がいいと思う」
そこに、エイラとジュードの後ろからハルが声をかけてきた。
「ハル!」
(っ!!)
突然のハルの登場にエイラは嬉しそうにしているが、ジュードは顔をしかめている。ハルはジュードの表情に気付きながらも気に留める様子はない。
――ヒュンッ
ハルが飛ばした氷の矢が的の中心を貫いた。
「わぁ! ハルすごいね」
「水の妖精は氷が出せるはずだよ。氷が出せれば矢にも剣にも砲弾にもなる」
「へぇ。そんな使い方があるんだ」
「戦闘の訓練を受けていたら誰でも知ってるよ」
ハルはそう言いながらジュードの方を向く。
「エイラにはまだ早いと思ったんだよ」
「そっか、ジュードもありがとう。ジュードのおかげでルルとの息も合ってきたしどんどん上達しそうだよ!」
エイラの無邪気な笑顔にジュードとハルはギスギスした空気を少し和らげると訓練を再開した。
――カンッカンカンッ
エイラが飛ばす氷の矢をジュードが剣を振り弾く。
「エイラ、もっと鋭く硬く、早く飛ばすようにイメージして」
エイラの横でハルが氷の出し方を教えている。
「わかった!」
――ヒュンッ
「っ、……」
エイラが飛ばした氷の矢が、剣を持つジュードの手の甲を掠めてしまう。
「ジュード! ごめん! 大丈夫!?」
「ああ、これくらい大丈夫」
エイラは駆け寄るとポケットからハンカチを取り出しジュードの手に巻きつける。
「大げさだよ」
「だめだよ、血が出てる。ちょっと休憩しよう」
エイラはジュードを座らせるとハルを呼ぶ。
「ハルー! 休憩しよー!」
「ああ」
ハルもエイラとジュードの側へ来ると腰を下ろした。
「お前は、妖精と契約してないんだな」
「ジュードはずっと契約してた妖精がいなくなっちゃって、今旅しながら探してるんだよ」
ジュードに対するハルの問い掛けにエイラが答える。
「けど、妖精の方がいなくなったんだろ? 諦めて新しい妖精と契約しないんだ」
ジュードは新しい妖精と契約するというハルの発言に反抗するように口を開く。
「八年もずっと一緒にやってきたんだ。急にいなくなるなんて何か理由があるはず。それに俺はずっとフィブと一緒だって約束した。だから他の妖精とは契約しない」
「八年も? へぇ。同じ妖精とずっと一緒だなんて。お前すごいな」
ハルは初めてジュードに優しく褒め言葉をかけた。
「ハルはいつ妖精と契約したの?」
「今の妖精とは一年前だよ。その前の妖精は新しく契約しようとしてた他の冒険者に乗り替えていった」
「えっ……そうなの?」
「この街ではそれが普通だよ」
ランドールには、元々住んでいる妖精と人間と契約することを目的としてやって来る妖精がいる。契約を目的としてやって来た妖精はより強い人間と契約するために乗り替えることは珍しくない。
「だから、いなくなったとはいえ八年も同じ妖精と一緒にいたお前が羨ましい」
「じゃあ強くなればいいだろ」
「え?」
「要は、他の誰よりも強くなれば妖精が乗り替えることはないだろ」
「お前、なかなか強気なこと言うよな」
「ずっと思ってたけど、お前お前、言うなよ。ジュードだよ」
「お前だって俺のこと名前で呼ばないだろ」
「名前でも、お前とも呼んでない。呼ばないし」
「生意気なやつ」
言い合いをしながらも打ち解けてきたジュードとハルを見ながらエイラは安心したように笑った。
その後またしばらく訓練を続け、気付いた頃にはもう日が沈んでいた。
「ねぇ、二人とも、そろそろ終わらない?」
「そうだな。もう遅いし終わろうか」
エイラはやっと終われることにホッと息を付くとハルの顔を見上げる。
「ハルもありがとね」
「ああ」
エイラとジュードはハルと別れると宿へと戻った。部屋へ入るとエイラはすぐにベッドへうつ伏せに倒れ込む。
「疲れたぁ。ルルは大丈夫? 魔力使いすぎてない?」
「僕は大丈夫だよ」
「そっか。良かった」
エイラの目は既に半分閉じ、今にも眠ってしまいそうになりながらもルルに話しかける。
「そういえば、ハルが水の妖精と契約してるとは思ってなかった」
「どうして?」
「昨日会った時、風の妖精の子がずっと近くにいたからその子と契約してるのかと思って。あ、でも今日は見かけなかったな」
エイラの言う風の妖精とはエマのことだろう。本当はルルの頼み事のためにハルの側からいなくなっていた。だが、エマのことはまだエイラには秘密だ。
「妖精は気まぐれだからね」
「そっかぁ。でも、ルルはずっと私の側に居てね」
「エイラ、僕……」
エイラはルルの返事を聞かないまま落ちるように眠ってしまった。ルルはエイラの寝顔を眺めながら「ごめんね」と寂しそうに呟いた。
「結局、登録することになったね」
「訓練施設も使いたいし、しばらく滞在するなら登録しといた方が仕事もしやすいしな」
二人はとりあえず冒険者としてギルドに登録すると簡単な説明を受けギルド登録証を貰った。
「一通り妖精の魔法の使い方を覚えてから、魔物討伐の仕事をしよう」
ジュードにそう言われ、訓練施設にやって来た。訓練施設には疑似魔物がいたり、的当、藁切、闘技場などがある。
「すごく広い場所だね」
はじめに来たのは何もないただ芝生の広がる場所だった。
「妖精の魔法は契約者のイメージと創造で作られるんだ。まずはエイラのイメージした通りにルルの水を出す練習から始めよう」
「イメージ……」
エイラは目をつむり大きな水の球をイメージする。頭部しか覆うことのできなかったキメラを、丸ごと包み込める程の大きさをイメージしたつもりだったが。
――ザッバアーンッ
「…………」
「…………」
辺りを覆いつくす影が出来るほどの大きな水球が頭上に現れるとあっという間に弾け芝生の広場は辺り一面水浸しになった。
「おいおい、なにしてるだよ」
「いやぁ、びしょ濡れじゃんっ」
「す、すみませんっ」
近くにいた他の冒険者が火の魔法と風の魔法ですぐに乾かしてくれた。幸い怒られることはなかったが、随分と迷惑をかけてしまった。
「エイラ、一体どんなイメージしたんだよ」
まさか、こんなことになるとは思っていなかったエイラは苦笑し、ルルの方を向く。
「今の、ルルがやったの?」
「僕だけの力じゃないよ」
「えっ私、他の妖精の力も使っちゃった?」
「無理やりじゃないよ。近くにいた水の妖精たちが勝手に共鳴したんだ」
こそこそと話すエイラとルルにジュードが腰に手を当てため息を吐く。
「二人はさ、仲良いんだから魔法を使う時も呼吸を合わせて心を通わせてイメージを共有して!」
そしてスパルタ指導が始まった。
――――――――――
エイラはルルだけに意識を集中するように気をつける。手のひらほどの水球を出すと、勢いよく飛ばす。水球は的当の中心に当たった。
「当たった!」
「大分、コントロール出来るようになってきたな」
「だよね! けっこうコツ掴めてきた気がする」
ルルも満足そうにウンウン頷いている。
「水の妖精の魔法を戦闘用に使うなら氷を出した方がいいと思う」
そこに、エイラとジュードの後ろからハルが声をかけてきた。
「ハル!」
(っ!!)
突然のハルの登場にエイラは嬉しそうにしているが、ジュードは顔をしかめている。ハルはジュードの表情に気付きながらも気に留める様子はない。
――ヒュンッ
ハルが飛ばした氷の矢が的の中心を貫いた。
「わぁ! ハルすごいね」
「水の妖精は氷が出せるはずだよ。氷が出せれば矢にも剣にも砲弾にもなる」
「へぇ。そんな使い方があるんだ」
「戦闘の訓練を受けていたら誰でも知ってるよ」
ハルはそう言いながらジュードの方を向く。
「エイラにはまだ早いと思ったんだよ」
「そっか、ジュードもありがとう。ジュードのおかげでルルとの息も合ってきたしどんどん上達しそうだよ!」
エイラの無邪気な笑顔にジュードとハルはギスギスした空気を少し和らげると訓練を再開した。
――カンッカンカンッ
エイラが飛ばす氷の矢をジュードが剣を振り弾く。
「エイラ、もっと鋭く硬く、早く飛ばすようにイメージして」
エイラの横でハルが氷の出し方を教えている。
「わかった!」
――ヒュンッ
「っ、……」
エイラが飛ばした氷の矢が、剣を持つジュードの手の甲を掠めてしまう。
「ジュード! ごめん! 大丈夫!?」
「ああ、これくらい大丈夫」
エイラは駆け寄るとポケットからハンカチを取り出しジュードの手に巻きつける。
「大げさだよ」
「だめだよ、血が出てる。ちょっと休憩しよう」
エイラはジュードを座らせるとハルを呼ぶ。
「ハルー! 休憩しよー!」
「ああ」
ハルもエイラとジュードの側へ来ると腰を下ろした。
「お前は、妖精と契約してないんだな」
「ジュードはずっと契約してた妖精がいなくなっちゃって、今旅しながら探してるんだよ」
ジュードに対するハルの問い掛けにエイラが答える。
「けど、妖精の方がいなくなったんだろ? 諦めて新しい妖精と契約しないんだ」
ジュードは新しい妖精と契約するというハルの発言に反抗するように口を開く。
「八年もずっと一緒にやってきたんだ。急にいなくなるなんて何か理由があるはず。それに俺はずっとフィブと一緒だって約束した。だから他の妖精とは契約しない」
「八年も? へぇ。同じ妖精とずっと一緒だなんて。お前すごいな」
ハルは初めてジュードに優しく褒め言葉をかけた。
「ハルはいつ妖精と契約したの?」
「今の妖精とは一年前だよ。その前の妖精は新しく契約しようとしてた他の冒険者に乗り替えていった」
「えっ……そうなの?」
「この街ではそれが普通だよ」
ランドールには、元々住んでいる妖精と人間と契約することを目的としてやって来る妖精がいる。契約を目的としてやって来た妖精はより強い人間と契約するために乗り替えることは珍しくない。
「だから、いなくなったとはいえ八年も同じ妖精と一緒にいたお前が羨ましい」
「じゃあ強くなればいいだろ」
「え?」
「要は、他の誰よりも強くなれば妖精が乗り替えることはないだろ」
「お前、なかなか強気なこと言うよな」
「ずっと思ってたけど、お前お前、言うなよ。ジュードだよ」
「お前だって俺のこと名前で呼ばないだろ」
「名前でも、お前とも呼んでない。呼ばないし」
「生意気なやつ」
言い合いをしながらも打ち解けてきたジュードとハルを見ながらエイラは安心したように笑った。
その後またしばらく訓練を続け、気付いた頃にはもう日が沈んでいた。
「ねぇ、二人とも、そろそろ終わらない?」
「そうだな。もう遅いし終わろうか」
エイラはやっと終われることにホッと息を付くとハルの顔を見上げる。
「ハルもありがとね」
「ああ」
エイラとジュードはハルと別れると宿へと戻った。部屋へ入るとエイラはすぐにベッドへうつ伏せに倒れ込む。
「疲れたぁ。ルルは大丈夫? 魔力使いすぎてない?」
「僕は大丈夫だよ」
「そっか。良かった」
エイラの目は既に半分閉じ、今にも眠ってしまいそうになりながらもルルに話しかける。
「そういえば、ハルが水の妖精と契約してるとは思ってなかった」
「どうして?」
「昨日会った時、風の妖精の子がずっと近くにいたからその子と契約してるのかと思って。あ、でも今日は見かけなかったな」
エイラの言う風の妖精とはエマのことだろう。本当はルルの頼み事のためにハルの側からいなくなっていた。だが、エマのことはまだエイラには秘密だ。
「妖精は気まぐれだからね」
「そっかぁ。でも、ルルはずっと私の側に居てね」
「エイラ、僕……」
エイラはルルの返事を聞かないまま落ちるように眠ってしまった。ルルはエイラの寝顔を眺めながら「ごめんね」と寂しそうに呟いた。