意地悪な継母と連れ子である二人の姉にいじめられるのが、ずっと続く訳ではないことを前世の記憶のおかげで私は知っていた。
 
 だからこそ、もう少しの辛抱だと耐えることが出来る。転生したということに気付いた私は決めたのだ。ガラスの靴は決して履かないと。どうしてか?って、私は王子様と結婚して幸せになるということを望んでいないからだ。
 


 今日は私の運命が大きく変わることになる日。夕方の掃除が終わった私は掃除用具を片付けてから、夕食を取るために一階のリビングへと向かった。

 案の定、継母であるヴィアラと姉二人のリゼとロナは私に何も言わずにそそくさとサリティア王国の第一王子バルド・ウィリアムが催す。
 夜にお城で行われるであろう舞踏会へと行ってしまった。私の招待状もあったが、ヴィアラが私の目の前で破り捨てた為、私は舞踏会に行くことは出来なくなった。
 
 しかし、私が知る童話『シンデレラ』の通りにお話が進むのなら、きっとこの後、私の前に妖精が現れて、妖精は魔法の杖を振り、舞踏会へ行けるように素敵な支度を整えてくれるのだろう。美しいドレスにかぼちゃから作った豪華な馬車。そして、燦然ときらめくガラスの靴。これから目にするであろう光景を思い浮かべて、私の気持ちは重くなる。

「はぁ…… 憂鬱だわ」

 私はため息をつき、リビングの窓から見える茜色に染まる空を見つめた。



 星々の光が暗い夜の空を瞬き始めた頃、私は家の外に出て、もう少ししたらやって来るであろう妖精が現れるのを待つことにした。

「本当は舞踏会なんて行きたくないのだけれど……」

 私が本音を声に漏らしたのと同時に、目の前に妖精が現れた。

「私の魔法で貴方を舞踏会に連れて行ってあげるわ」

 妖精はそう告げてから、魔法の杖をティティアーナに向けて降った。妖精の魔法のおかげで私が着ていた見窄らしい服は綺麗なドレスへと変わり、目の前にはかぼちゃから作ったであろう豪華な馬車が現れた。

「さあ、乗って。あ、そうだわ。一つ伝えておかなければならないことがあるの」

 ティティアーナは妖精が言った伝えておかなければならないことが12時を過ぎたら魔法が解けてしまう。ことだということを知っていたが、あえて何も言わなかった。

「貴方にかけた魔法は12時を過ぎたら解けてしまうわ。馬車もドレスも元の粗末な姿に戻ってしまうから、必ず12時までには舞踏会を出るようにしなさい」
「ええ、わかったわ」

 私は妖精の注意に強く頷き。12時過ぎないように城を出ることを固く約束して、かぼちゃの馬車に乗り込む。私を乗せたかぼちゃの馬車は舞踏会が行われている城へと向かい動き出した。



 舞踏会が行われているホールでは、煌びやかな音楽が流れ、綺麗なドレスを見に纏った貴婦人達と黒いスーツを着た紳士達がペアになって踊っている。
 ホールの両サイドには縦長のテーブルがあり、テーブルの上に敷かれた白いテーブルクロスの上には豪華な食事が並んでいた。

「あの娘にも舞踏会への招待状が出されるなんて本当に気に食わないわ」
「本当、同感ですわ。お母様」
「まあ、血が繋がっていないのですし、赤の他人も同然ですわよ」

 ティティアーナを家に残して出て行った継母のヴィアラと姉二人のリゼとロナは、ティティアーナが舞踏会に来れないことに哀れむことなく、計画通りに物事が進んで満足していた。
 この後、ティティアーナがやってくることなど思いもしない継母と姉達は、呑気にテーブルの上に並べられた豪華な食事を頬張りながら、ティティアーナの悪口を喋り続けるのだった。



「着いたわ。バルド王子殿下と会わないことを願うばかりね」

 私を乗せたかぼちゃの馬車は城の前に到着し、私はかぼちゃの馬車から降りて舞踏会が行われているであろうホールの方に目を向けてから歩き始める。
 
 舞踏会が行われているホールへと繋がる王城の中庭をコツコツと歩きながら、これから私はどうするべきか考えていた。

「正直、舞踏会には行きたくなかったのだけれど、せっかく妖精の魔法の力を借りて着飾ってもらったのだし、目立たぬように食事だけするとしましょうかしらね」

 ティティアーナは王子と会いませんように。と心の中で強く願いながら舞踏会が行われているホールへと歩みを進めた。