『若造。わしを誰だと思っておる。このままでは不便だと思って、イチにスピーカー機能を搭載した。これでこちらの声とそちらの声、双方の声が半径5メートル以内であれば聞こえるようになる。どうだ?聞こえるだろう?』

 茫然としながら周りを見回すと、全員が揃って驚いた顔をしている。蝶子も市もねねも蘭と目が合うとこくこくと首を縦に振った。つまり皆に蝶子の父親の声が聞こえているという事だ。

「凄っ!さすがおやっさん!伊達にノーベル賞貰ってないな。な?蝶子。……ん?どうした?」
「…すがっ……」
「ん?」
「流石父さん!その灰色の脳みそは見せかけだけじゃなかったのね!ここ最近は研究が思うようにいかなくてもう歳なのかな~って心配してたけど、やるじゃない!見直したわ!!」
 両手をブルブル震わせて叫ぶ蝶子に、ねねが怯えている。慌てて蝶子の肩に手を置いて落ち着かせようとしたが興奮が止まらない。
 というか何気に酷い言いようだ。蘭もだが。

「じゃあじゃあ、ねねちゃんにも聞こえるっていう事だから、力を使う事が出来るね。」
『力……とは?』
 イチの声だった。蝶子の父親、康三はきっとショックで項垂れているのだろう。案外繊細なのだ。

「ねねちゃんっていってね。『念写』の能力を持っているの。思い浮かべている事柄を紙に焼きつける事が出来るという力。タイムマシンの全容を市さんを通じてねねちゃんの力で紙に写せれば、タイムマシンを飛ばす事が……」
『残念ながら無理じゃ。』
「えっ?何処が無理なの?」
 復活した康三が割って入る。

『そのねねとやらは念写しか出来ないのであろう?』
「う、うん……」
『それではイチからそちらの市さんには通じても、ねねには届かない。』
「あ……そっかぁ……」
 がっくりと項垂れる蝶子。すると市が徐に頭を下げた。
「申し訳ありません!」
「え?何で市さんが謝るの?頭を上げて下さい!」
「わたしに『念写』の力があれば……」
「そんな事言ったって……」
 あたふたする蝶子を横目に、今まで黙っていた蘭が口を開いた。

「あの、おやっさん。」
『何だ。』
「スピーカーもつけられたんだから、モニターもつけられるんじゃないか?」
『……うん?モニター?』
「そう。そしたらそっちでイチが見た物が『共鳴』した市さんに繋がるかも知れない。どう?」
『うむ。なるほど。しかしそうなるとそっちにもモニターが必要になる。そこは戦国時代なのだろう?モニターなどある訳……』
「あります!」
 さっきのイチみたいに言葉を遮り、蘭は言った。

「蘭?何処にモニターがあるの?」
「蝶子。思い出せ。俺達が乗ってきたタイムマシン。あれに確かついていたはずだ。」
「あ!!」
 蝶子が口に手を当てて目を大きく見開く。蘭は一度深く頷くと言った。

「蝶子の部屋に俺が裏山から持ってきたタイムマシンの残骸がある。あそこを探せばモニターがあるはずだ。蝶子。」
「わかってる。……私がやるのね。」
「どういう事ですか?帰蝶様がやる、とは?」
 市の問いかけに蝶子は立ち上がって腰に手を当てた。

「そのモニターはきっと壊れている。だから私が直す。」
「蝶子。頼むぞ。」
「うん!」
「あぁ、それとおやっさん。タイムマシンを飛ばすにあたって相談が……」
『わかっておる。何度かに分けて欲しいと言うんじゃろう?安心しろ。分割して作っておるから。』
「ふっ……ホント流石だな。」
「?」
 蘭と康三の会話に市もねねもポカンとしていたが、蝶子だけはその意味がわかった。

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