月日は流れ、気づけば年が明けていた。
 朝から雪がちらつく寒いその日、秀吉とねねの婚儀がしめやかに取り行われた。

「ねねさん……ううん、ねね『ちゃん』って呼んでもいいわね。だってまだ《《15》》才なんだもん。」
 蝶子がそう言うと市も頷いた。
「でも綺麗ですね。今日の雪と白い肌が相まって、まるでこの世のものとは思えないくらい……」
 うっとりとした瞳でねねの方を見る市を、蝶子は横で微笑みながら見つめた。

 光秀の事を好きだとカミングアウトしてから、市は今までの事が嘘だと思うくらい恋の相談をしてきた。それは主君の妹と家来という身分違いの恋に加えて、市が恋愛に関して奥手だという問題もあるようだ。話す機会は比較的多いが、素直になれずに偉そうな態度を取ってしまい、後で後悔するというのを繰り返すのだとか。

 何だか自分を見ているみたいだと思いながら、蝶子なりに一生懸命アドバイスをする。というのがここ最近の蝶子の日常だった。

「ねねちゃんが秀吉のお嫁さんになって私達に協力してくれるのは有難いけど、ちゃんと力を使う事が出来るかなぁ?」
「どういう事ですか?」
「うん……あれから何回かイチから連絡あったけど、こっちから繋がった事ってないじゃない?それにイチと話せるのは今のところ市さんだけだし、ねねちゃんが上手く『念写』の力を発揮出来るのかなって心配なの。あ!別に市さんやねねちゃんの事を信用してないとかじゃないからね。何ていうか、その……」
「大丈夫です。わかっていますよ。帰蝶様の言いたい事は。でも不安になるのも仕方のない事だと思います。わたしもそうですから。」
「市さん……」
「帰蝶様もイチさんの声が聞こえるといいのですが。」
「……ん?今何て言いました?」
「え?帰蝶様もイチさんの声が聞こえるといいのですが。って。どうなさいました?」
 顎に手を当てて考え込む蝶子を心配そうに見つめる市。しばらく沈黙がその場を支配していたが、突然顔を上げた蝶子が叫んだ。

「次にイチから連絡きたら、父さんに頼みたい事があります!」

 その声は静かな部屋に響き渡り、鬼の形相の信長に怒鳴られたのは言うまでもない。

(そうだ!今は式の途中だった!ごめん……ねねちゃん、結婚式ぶち壊して……)

 目が合った蘭も怒ったような呆れたような顔をしていた……

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