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「蝶子!どうした?イチから連絡きたのか?」
 勢い良く襖を開けると、紙に筆を走らせている蝶子が顔を上げた。無言で頷いて見せる。蘭は逸る気持ちを抑えて市の側に座った。

「蘭丸が来ました。蘭丸、今イチさんと繋がっています。」
「!!」
 蘭にとっては初めて目にする『共鳴』の力。口を開けて茫然としていると市が話し始めた。

「『蘭さま、聞いて下さい。旦那様のタイムマシン作りは順調に進んでおります。今現在出来ているのは全体の五分の一ですが、このペースでいけば残りはあと二年……いや一年で完成予定だそうです。でも問題は完成したタイムマシンをどうやってそちらに飛ばすかという事。蘭さま、何かいいアイディアはありますか?』だそうです。帰蝶様。大丈夫ですか?」
「大丈夫。全部書けた。」
 筆を置いて顔を上げる蝶子から紙を受け取った蘭は、改めて紙面に目をやった。
 先程市が喋った内容が一字一句間違える事なく書かれている。蘭は頷いて市を見た。

「市様。伝えて下さい。タイムマシンを飛ばす方法は既に案はある。こっちで準備を整えるから、おやっさんは引き続き頑張ってくれ。……以上です。蝶子は何か言いたい事はあるか?」
「うん。……父さんに伝えて。体に気をつけて無理はしないでね。二年でも五年でも何年でも待ってるから。イチ、父さんを宜しくね。……以上です。」
 二人の言いたい事を全部イチに伝えた市は、ふぅっと息をついた。

「市さん!大丈夫ですか?」
「平気です。それよりもう途切れてしまいました。すみません。」
「謝る必要はありませんよ。今布団敷きますから、横になって下さい。蘭。」
「はいはい。」
 蘭は押し入れから布団を出すと奥の方に敷いた。その上に市を寝せる。市は青くなった顔を隠すように壁の方を向いて目を閉じた。

「すげ~初めて見た。ホントにイチと繋がったんだな。」
 小声でそう言うと蝶子が苦笑した。
「さっきイチに言った案ってこの間信長が言った……」
「しっ!市様に聞こえる。」
「あ、そっか!ごめん……」
 蝶子が慌てて口を手で抑える。蘭は市の様子を窺ってもう寝ている事を確認すると、更に小さい声で言った。

「あぁ。今川義元に『物体取り寄せ』の力で取り寄せてもらう。」
「でも……その為には危険な任務をしなきゃいけないのよ?大丈夫なの?それにもし失敗したら……」
「そんなのやらなきゃわかんねぇじゃん。」
「そうだけど……」
 眉をハの字にする蝶子に向かって微笑むと蘭は立ち上がった。

「とにかくこの事を信長に伝えないと。その上で作戦を練ろう。な?」
「うん……」
「じゃあ俺、信長を探してくる。市様をよろしく。」
 言うが早いか、足早に部屋から出て行った。

「……もう……心配くらいさせてよ。」
 小さな蝶子の本音は空気に紛れて消えていった……

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