「帰蝶?今からそれがお前の名前って訳?」
「そう。信長がつけてくれたの。」
市の部屋に戻ってきた蝶子は、蘭と市に新しい名前を披露した。
市は素敵な名前だと言ってくれたが、蘭は何故かしっくりこない様子だった。
「なぁ~んか面白くない。」
「はぁ?面白くないって何よ?名前なんだから面白いとか面白くないとか関係ないじゃん。」
「そういう事じゃなくてさ……」
「どういう事よ?」
「まぁまぁ。今日はそのくらいにして下さい。蘭丸は明日も朝早いのですからそろそろお部屋に戻られては?」
口喧嘩を始めそうな二人を市が止めに入る。言われた蘭はもう夜が遅い事に気づいて、慌てて立ち上がった。
「やばっ!明日は朝稽古だった!じゃあな、蝶子。市様、おやすみなさい。」
「はい。おやすみなさいませ。」
「……たくっ!何なの?あいつは……」
腕を組んで悪態をつく蝶子を、市は意味ありげな微笑みで見つめていた。
(もしかしたら蘭丸はお兄様に……ふふっ。帰蝶様にはわたしの分まで幸せになってもらいたいものです。)
市は自分の想い人の事を思い浮かべて密かにため息をついたのだった。
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