「それで?噂のタイムマシンはどこ?」
蝶子がキョロキョロと辺りを見回す。懐中電灯はさっきの騒ぎで何処かに行ってしまったらしい。するとパッと電気が点いた。
「まぶしっ……あぁ~!何これ!?」
蝶子の目が輝く。そこには今世紀最大の発明品、タイムマシンがその巨大な姿を曝していた。
「親父が開発したタイムマシンだ。これがもし本当に未来にも過去にも行けるとしたら、あの親父とんでもない物作ったんだと思わねぇ?」
「凄い、凄い!吉光おじさん、うちの父さんより天才だったんだね。ただのポンコっ……じゃなくて、今まで力を出してなかっただけなんだね、きっと。」
言い直した辺りから地味に酷い事を言う蝶子であった……
「ねぇ、ねぇ!乗ってみようよ!」
「え?おい、蝶子!」
蘭が止める間もなく、蝶子はタイムマシンに近づいた。
「さすがにまずいだろ……まだ完成形じゃないかも知れねぇし。」
「うーん……そっか。そうだよね。さすがにダメだよね。」
蝶子の残念そうな顔を見た蘭は、逡巡したあとこう言った。
「まぁ、乗るだけならいいんじゃねぇか?すぐ降りればいいんだし。」
「え!いいの?」
再びキラキラし出す瞳を間近で見てしまった蘭は、一瞬息を飲んだ。
この純粋に輝く瞳に見つめられるのに昔から弱かった。じっと見ていると吸い込まれそうですぐに目を逸らしてしまう。
照れてる事など悟られないようにそっと顔を別の方に移した。
「ほら、早く乗るぞ。」
照れ隠しに少し大きい声を出すと、自ら先頭をきってタイムマシンに乗り込んだ。
蝶子を運転席に座らせ、自分は助手席に乗る。そして物珍しげにあちこち眺めている幼馴染を横目で見た。
『どちらに出発なさりますか?』
「……ん?今、何か言った?」
何処からともなく声がして蝶子が蘭に聞く。蘭は無言で首を横に振った。
『どちらに出発なさりますか?未来ですか?それとも過去ですか?』
「え?うそ…何もしてないのに声が……」
「おいおい!マジかよ!」
「蘭!見て!!」
蝶子がハンドルを指差す。それは誰も触ってないのに動いていた。
「げっ……くそっ!あのポンコツ親父!!」
『ご希望がないようですので、取り敢えず560年くらい前の日本へタイムスリップします。』
「ちょっ…ちょっと待っ……!おわーーー!!」
「きゃあぁぁぁーーー!」
今世紀最大の発明のはずのタイムマシンの誤作動により、二人は見知らぬ世界へとタイプスリップしてしまうのであった……
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