廊下を歩きながら二人はしばらく無言だった。蘭も蝶子もさっきの市の話した内容について、頭の中で色々と考えていたからだ。
 蝶子の部屋に入ったタイミングで蘭が口を開いた。

「なぁ。これは一体どういう事だと思う?イチが未来から呼びかけてきたなんて有り得ると思うか?」
「何、それ?市さんが嘘をついてるっていうの?」
「いや、そうじゃない。市様がイチの事なんてわかるはずないし、市様は本当に声を聞いたんだと思うよ。」
「じゃあ……」
「でも次元が違うはずのこの世界とどうやって繋がったのか謎なんだ。もしかしておやっさん、俺達がここにいる事を突き止めて、イチを改造したんじゃ……」
「えーー!?まさかあんなに綺麗な外見を厳ついゴリラみたいにしたんじゃないでしょうね!」
「…………」
 蝶子の意味不明な心配に蘭は思わずずっこけた。

「ま、まぁ外見はともかく、おやっさんが俺達の為に動いてくれてるって事は確かかもな。ポンコツ親父も関わってなきゃいいけど。」
「でもおじさんの作ったタイムマシンでここに着いたんだから、手ほどきくらい聞いてるかもよ。」
「う~ん……微妙だな。おやっさんに全部任せた方が安心だと思う。」
「……ホントに自分の親を信じてないわね……」
 蝶子の呟きに力強く頷く蘭だった……

「でもまぁ、また市様に連絡が入るのは確実だと思うんだ。その時は頼むぜ。」
「任せて。会話とか記録できるように筆と紙を持って行くわ。夜中でも大丈夫なように枕元にちゃんと準備して寝る。」
「張り切ってるな……くれぐれも市様の体調に気をつけてな?」
「わかってるわよ。じゃあ早速布団運ぶよ!手伝ってね。」
「ハイハイ。」
「『ハイ』は一回!」

 どうしてイチの声が聞こえたのかは良くわからなかったが、取り敢えず蝶子は市と共に過ごす事になったのだった。

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