信長と話をした日から数ヶ月が過ぎた。
相変わらず蘭は台所番と稽古の日々で、蝶子は蘭の応援と市との恋バナに一日を費やしていた。
ここ最近は特に何事も起こらず、実に平和な日常が清洲城に流れていたのだった。
その日は光秀も勝家も用事があるとの事で稽古は急遽休みになったので、蘭と蝶子は二人で市の部屋に遊びに行く事にした。廊下を歩いていると、突然曲がり角から誰かが飛び出してきて危うくぶつかりそうになる。慌てて顔を上げたら、それは市だった。
「市様!どうしたんですか?そんなに慌てて……」
「あ!蘭丸に濃姫様。大変なんです!!」
珍しく取り乱している市に蘭達は顔を見合わせた。
改めて市の方に視線を戻すとうっすらと額に汗をかいていて、その只事ではない様子に蘭も不安を募らせた。
「一体何があったんですか?まさか信長様に何か……」
自分の顔が青褪めるのがわかった。
信長は今日は確か出掛けたはずだ。出掛けた先か、それとも道中で狙われたのだろうか。
「市さん落ち着いて。とにかく部屋に行きましょう。話はそれからです。」
一番冷静な蝶子がそう言うと、市はホッとした様子で頷いた。
「そ、そうですね。すみませんでした。取り乱してしまって……さぁ、わたしの部屋にどうぞ。」
先頭に立って歩いて行く市の背中を、蘭は不安を抱えたまま追った。
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